2020年07月|映画スクラップブック


2020年 07月(5本)

2020/07/13

大いなる幻影

大いなる幻影|soe006 映画スクラップブック
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LA GRANDE ILLUSION
1937年(日本公開:1949年05月)
ジャン・ルノワール ジャン・ギャバン ピエール・フレネー エリッヒ・フォン・シュトロハイム ディタ・パルロ ジュリアン・カレット マルセル・ダリオ

映画の製作後、第二次世界大戦、ベトナム戦争などの(冷酷・残虐・非人道な)大戦を経験したいまとなっては、この映画で描かれた世界こそが「大いなる幻影」と呼べる架空の物語のようにも思える。

第一次世界大戦、敵情偵察に出た仏軍の飛行機は、ドイツ飛行隊のラウフェンシュタイン(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)に撃墜され、マレシャル中尉(ジャン・ギャバン)とポアルディウ大尉(ピエール・フレネー)は独軍の捕虜となる。
敵対しているラウフェンシュタインが、捕らえられた二人を、任務を同じくする空の英雄として歓待する最初のエピソードから、もうファンタジーのような印象。

マレシャルは機械工、ポアルディウは貴族で、最初はしっくりこない。しかし後半、マレシャルたちが収容所を脱走する際には、ポアルディウは自ら計画を立て、命を賭して囮の役を買って出る。
仏軍捕虜による演芸会が催されている最中、占領地奪回の報せが入ってラ・マルセイエーズの大合唱。その騒動を先導した懲罰で独房に入れられたマレシャルに、ハーモニカを与え慰める独軍看守の気遣い。
収容所鞍替えで入れ替わりにやってきた英国軍捕虜(捕虜たちがみんなテニスラケットを持参しているのが笑える)に、マレシャルは準備していた脱走用トンネルのことを伝えようとするが、彼らにフランス語が通じない。
移送先の収容所で再会するポアルディウとラウフェンシュタイン。消えゆく貴族社会・騎士道精神を憂う二人の共感。
言葉も通じない敵国の戦争未亡人(ディタ・パルロ)と交わす、ほのかな愛情。

戦争映画でありながら、悪役はひとりも登場しない。
映画で描かれたストーリーはフィクションだが、現実もこうであって欲しいと思う。戦争は避けられない現実であっても、戦場の人々はこの精神を忘れずに生きて欲しいと願いたい。
実際にフランス空軍に所属し偵察任務についていたジャン・ルノアールの、国境や言語や人種を超えた、人間愛に満ちた名作。

70

2020/07/14

ピクニック

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PARTIE DE CAMPAGNE
1936年(日本公開:1977年03月)
ジャン・ルノワール シルヴィア・バタイユ ジョルジュ・ダルヌー ジャヌ・マルカン ジャック・ボレル ガブリエル・フォンタン

1860年、在る夏の日曜日。パリで金物商店を営む一家が行楽を求め、セーヌ河上流の田舎に馬車でやってくる。
モーパッサンの短編小説「野あそび」を元ネタとしたストーリー。

これはまさに父親(ピエール・オーギュスト・ルノワール)が描いた印象派絵画を、(繊細に、丁寧に、忠実に)フィルムにアダプテーションした、息子(ジャン・ルノアール)の未完の中編映画。上映時間40分。
ルノワール自身が編集したフィルムはドイツ占領時代に消失してしまったが、アンリ・ラングロワのシネマテークが密かに保管していたオリジナル・ネガ(たぶん非合法な手段で入手している)を、助監督だったジャック・ベッケルらが再編集し(補足説明の字幕はそのとき加えられた)、1946年にパリにて初公開。

全編に素晴らしい絵作りが施されているが、白眉は、娘アンリエット(シルヴィア・バタイユ)の立ち漕ぎブランコと、緩やかに水面を流れる舟遊びの場面。

記録を再現する映画というものの在り方。
映画を観るという行為(みつめるということ)の原点。
いろんなことを考えさせられる映画だし、また貴重な文化財産だけど、何がなんでも持ち上げて、拡散浸透せねばならぬという類の映画でもなかろう。

撮影を中断したまま他の作品を撮って、渡米して、再編集も他人に任せてしまったくらいだから、監督には長編版の完成に執着がなかったのだろう。撮りたいシーンはすべて撮り終えてしまっているという、達成感もあったんじゃなかろうか。

日本公開は「素晴らしき放浪者」の併映(1977年3月/配給:フランス映画社)で、ひっそりと(いまで言う単館上映)。

60

2020/07/14

ゲームの規則

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LA REGLE DU JEU
1939年(日本公開:1982年09月)
ジャン・ルノワール マルセル・ダリオ ノラ・グレゴール ローラン・トゥータン ポーレット・デュボスト ミラ・パレリ オデット・タラザク

貴族主催の狩猟会に集う人々の恋愛遊戯を描いた、群像コメディ。
似たようなネタ(題材)の映画は、ベルイマンの「夏の夜は三たび微笑む」やウディ・アレンの「サマー・ナイト」を先に観ていたが、それらと比較するとワンランク上の出来で、ストーリーの性格上まどろっこしい展開ではあるものの、「大いなる幻影」と並ぶジャン・ルノワール監督の代表作であると思う。

登場人物の誰もが魅力的で、その多彩なアンサンブルは大人の才知が巧みに働いていて見事。パーティの最中に発砲事件が起こっているのに、それを余興として悠長に楽しんでいる貴族たちのなんと豊かなこと。
大西洋横断飛行した英雄(ローラン・トゥータン)の死でもさえ、貴族(マルセル・ダリオ)からは、ちょっとした事故(アクシデント)でしかない。そんなシニカルな視点を持ちながら、誰もが愛すべき人物として捉えられているところに、ルノワールらしいおおらかな人間観が感じられる。
ココ・シャネルの衣装や美術も贅沢で豪華、当時のフランス貴族趣味を満喫できる映画。
ルノワール自身も貴族の親友役で出演している。貴族と一般人との橋渡し、ストーリーの水先案内人といった役どころ。

65

2020/07/26

タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密

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THE ADVENTURES OF TINTIN: THE SECRET OF THE UNICORN
2011年(日本公開:2011年12月)
スティーヴン・スピルバーグ ジェイミー・ベル アンディ・サーキス ダニエル・クレイグ サイモン・ペッグ ニック・フロスト

スピルバーグ初の3Dアニメ。事件記者の少年タンタンが愛犬スノーウィを相棒に、沈没した軍艦ユニコーン号の財宝を求めて、陸海空をめぐる大冒険。

かつてラルフ・バグシが、実写フィルムからセル画を起こすロトスコーピングなる技術で製作した「指輪物語」(1978年)から幾年月。最新の3Dパフォーマンス・キャプチャーは、アニメのキャラクターにほぼ実写と同様の動きや表情を造りあげた。
ここまでくると映画の原点、リュミエール兄弟の「列車の到着」とジョルジュ・メリエスの「婦人の雲隠れ」のどちらがより映画的か? どちらが映画の本流か? という命題を再考したくなる。

海外漫画に疎いので、タンタンというキャラクターについて、ほとんど知らなかった。はじめて名前を目にしたのは、ティム・バートンが登場した80年代なかば。バートンのデビュー作「ピーウィーの大冒険」(1985年・日本未公開)のドタバタ・ネタに、ベルギーの漫画「タンタンの冒険」シリーズからの借用が多いと指摘した人がいたからだった。そこで、キャラの名前だけは記憶していた。
一時はロマン・ポランスキーが監督する企画もあったように思う。

「インディ・ジョーンズ」シリーズのジュヴナイル・アニメ版と言っていい内容。ワンカットで移動撮影(撮影と呼んでいいのか?)されたクライマックスの争奪戦は圧巻。ジョン・ウィリアムズの音楽も、レイダースの聖櫃争奪シーンと同じようなノリで、ゴリゴリ押してくる。
子どもの頃に観ていたら、イッパツで虜になっていたと思う。

65

2020/07/26

レディ・プレイヤー1

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READY PLAYER ONE
2018年(日本公開:2018年04月)
スティーヴン・スピルバーグ タイ・シェリダン オリヴィア・クック ベン・メンデルソーン T・J・ミラー サイモン・ペッグ ハナ・ジョン=カーメン 森崎ウィン マーク・ライランス リナ・ウェイス フィリップ・チャオ

仮想現実リスクへの警鐘メッセージなどという陳腐かつ高尚なテーマ性なんぞこれっぽちも持ち合わせていないペラペラしたストーリーに、これでもか!ってくらいサブカル・ガジェットをブチ込んだ、闇鍋風生煮え料理。

製作はコンピュータ・グラフィックス全盛の2018年。描かれている未来社会は2045年。しかし、そこに散りばめられているのは1970-80年代のサブカル・ガジェット。
世代を超えた、というより、世代を(製作者世代に)絞ったがために、なんとも歪んだ見世物映画(21世紀CGによる70-80年代映画のパロディ)になっている。
そこのところ鋭く分析すると、異様な文化史が垣間見えて興味深くもあるが、そこまで真面目に観る映画でもなかろう。

登場人物は善玉悪玉双方薄っぺらく魅力に乏しく、宝探しの3つの謎解きはご都合主義なわりに、状況設定はごちゃごちゃしていて何だかよく分からん。それにしても、ここまでナレーションに頼ったスピルバーグ映画って、これまで無かったのではなかろうか。
貧しい人々がヴァーチャル・ゴーグルを付けて、手足を虚空に振り回している間抜けな場面は面白かった。こっちの世界をネオ・レアリズモ風に描いた映画があってもいいんじゃない?

「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「AKIRA」「フレンチ・コネクション」「ジュラシック・パーク」「キング・コング」と立て続けに展開されるカー・チェイス、「シャイニング」のCG再現、お腹から飛び出すチェストバスター(エイリアン)、見境なしに襲いかかるチャッキー人形、「ロード・オブ・ザ・リング」様式の大合戦、メカゴジラと機動戦士ガンダムとアイアン・ジャイアントが三つ巴で戦い、ダンスとなれば(嗚呼、これが古典になってしまったのか!)「サタデー・ナイト・フィーバー」のトラボルタ。
目まぐるしくオチャラケ三昧の2時間20分。

くだらない、と一言で片付けてもいいし、おもしれぇーと狂喜して、周囲に薀蓄吹きまくってもいい。
版権使用許諾の手続きだけでも、相当なものだったと思うし、こういう企画が製作されたことを、まずは奇跡として評価しよう。

お祭り企画の映画に文明批判だの社会性は最初から期待していなかったものの、古い映画ファンは、やっぱり大作映画には大作なりの風格が備わっていて欲しいと願うのであります。

65

映画採点基準

80点 オールタイムベストテン候補(2本)
75点 年間ベストワン候補(18本)
70点 年間ベストテン候補(83本)
65点 上出来・個人的嗜好(78本)
60点 水準作(77本)
55点以下 このサイトでは扱いません

個人の備忘録としての感想メモ&採点
オススメ度ではありません