2021年 11月(5本)
2021/11/08
悪魔の美しさ
LA BEAUTE DU DIABLE
1949年(日本公開:1951年12月)
ルネ・クレール ジェラール・フィリップ ミシェル・シモン ニコール・ベナール シモーヌ・ヴァレール レイモン・コルディ カルロ・ニンキ チュリオ・カルミナチ ガストン・モド パオロ・ストッパ
第2次世界大戦でフランスを離れていたルネ・クレールの帰国後第2作目。
研究に没頭するあまり長年禁欲生活をおくっていた大学教授ファウスト博士(ミシェル・シモン)は、忍びよる老化に怯えていた。そこへ学生に化けたメフィスト(ジェラール・フィリップ)が現れ、悪魔の契約を唆す。おなじみゲーテの「ファウスト」を元ネタとした、ルネ・クレール&劇作家アルマン・サラクルウのオリジナル脚本。
メフィストに若い身体を与えられたファウスト博士は、自由で快楽的な青春を満喫し、サーカス小屋のジプシー娘マルグリット(ニコール・ベナール=めちゃくちゃ可愛い)と恋に落ちるが、失踪した老ファウストの殺人容疑で逮捕されてしまう。悪魔に魂を売り渡す契約を交わしたことで危機を逃れた青年ファウストは、砂を金に変える錬金術で一躍国家の大物となり、さらに王妃(シモーヌ・ヴァレール)と禁断の恋仲になり、戦争兵器の発明にも乗り出し、暗黒の未来を知ることになる。
人気上昇中の二枚目俳優ジェラール・フィリップとフランス映画界の重鎮ミシェル・シモンがガチの共演。身体と魂を目まぐるしく入れ替えての二人の演技は、「フェイス/オフ」のトラボルタ&ニコラス・ケイジ以上に見応えあり。
ラストでメフィストが民衆に追い詰められて自滅してしまうのは、市民革命のフランスならではの解釈だろうか。
ルネ・クレールは、「巴里の屋根の下」から「巴里祭」に至る(トーキー移行期の作品にある)長閑な雰囲気が好きで繰り返し見ているけど、本作は今回が2度目。フランスに戻ってからの作品は(ハリウッド流儀のテクニックが付いているのだろうか)洗練され達者ではあるけど、以前の柔やかな作風が損なわれてしまった感じがする。それでもクレールらしい庶民的ユーモアは全編にあって、神秘的幻想的なコクトーの「オルフェ」とはまったく違う。軽い喜劇風の仕上がり。
街が業火に焼かれ市民が暴徒化するパニック場面など、いくらでもサスペンスフルに描けそうなものだけど、クレールの主眼はそこにはない。
ジェラール・フィリップと恋仲になるふたりの女優がとても魅力的。この時代のフランス映画は綺麗な女優さんが多くて嬉しい。もう少しあとになると、ブリジット・バルドーやジャンヌ・モローなど素直に美人と呼べない、個性を売りにした女優が多くなる。
序盤、事あるごとにシンバルをジャンジャン鳴らす音の使い方はクレールらしいが、少々煩い。撮影は「舞踏会の手帖」や「フレンチカンカン」の名手ミシェル・ケルベ。
どんな事情があったのか知らないが、イタリアのチネチッタ・スタジオで撮っている。
65点
#フランス映画の巨匠:ルネ・クレール
2021/11/09
夜ごとの美女
LES BELLES DU NUIT
1952年(日本公開:1953年12月)
ルネ・クレール ジェラール・フィリップ マルティーヌ・キャロル ジーナ・ロロブリジーダ マガリ・ヴァンドイユ マリリン・ビュフェル レイモン・コルディ レイモン・ビュシェール ジャン・パレデス ベルナール・ラジャリジュ ピエール・パロー アルベール・ミシェル パオロ・ストッパ ショーファール
ジェラール・フィリップ&ルネ・クレールのコンビ2作目。近隣の騒音にノイローゼ気味の音楽教師(ジェラール・フィリップ)が夢の世界に現実逃避する話。
夢の中で取っ替え引っ替え美女にモテまくるのだが、ジェラール・フィリップだとラブシーンがちっとも嫌らしくなく、かえって微笑しい。夢シーンの背景はカリカチュアされた簡素なセットで、カメラのパンとワイプで、現実と夢を行ったり来たり。その趣向が面白い。「昔はよかった」とボヤく老人の言葉に誘われて、どんどん時代を遡り、ついに先史時代までいってしまうが、どこまでいっても夢の結末は支離滅裂な悪夢になってしまう。現実世界で破いてしまったズボンが夢の中でも破けていたり、寝る時間が遅くなったために、夢で約束していた逢引きに遅刻してしまったりという、他愛のないギャグが面白い。
結局、現実世界に戻ってくると、音楽コンクール優勝の通知があり、修理工の娘と結ばれてハッピーエンド。「オズの魔法使」とか「ミッドナイト・イン・パリ」とか、現実逃避のファンタジーでハッピーエンドだと、だいたいこのパターンでオチる。
たまにテリー・ギリアムとかキューブリック(「時計じかけのオレンジ」)みたいな捻くれたのもあるけど。
登場する3人の美女(マルティーヌ・キャロル、ジーナ・ロロブリジーダ、マガリ・ヴァンドイユ)はそれぞれに綺麗な女優さんだけど、お人形さんみたいな扱いで、グッと迫るものがない。それより近所に住む男たちのユーモラスな人情が印象に残る。郵便配達と喧嘩したり、月賦屋にピアノを差し押さえられそうになったり、警官と口論して留置所に入れられたり。夢の世界に戻るため睡眠薬を買う主人公を心配する友人たちがクレールらしくて、ここがこの映画でいちばん好きなところ。ご都合主義のドタバタ喜劇なのだが、この監督の映画はくだらないストーリーにも気の利いた細工が施されているし、ギャグもやたらエキセントリックに走らない節度と品があって好感がもてる。
「ル・ミリオン」と同じく全編を歌と音楽で綴っていくオペレッタ風。効果音を巧みにストーリーに取り込むのはルネ・クレールが得意とする作劇法。
主人公がどんなに追い詰められても、映画が明るく朗らかで楽しいのはジェラール・フィリップだから。夢さえ見られれば留置場の中でも幸せというテリー・ギリアム風な異常な状況でも、ファンファンの無邪気な寝顔だとヤバい感じがしない。
常連レイモン・コルディは自動車修理工でヒロインの父親役。その工場で働いている友人レイモン・ビュシェール、薬屋のジャン・パレデス、警官のベルナール・ラジャリジュがいい味を出している。アラブの姫君が入浴する場面でジーナ・ロロブリジーダのヌード(背中と尻だけ)があるけど、たぶんダブルだろうな。
クライマックスの(コマ抜き)追いかけっこはハリウッド仕込み。後ろ向きに疾走する馬はナンセンスで面白い。どうやって撮ったんだろう?
65点
#フランス映画の巨匠:ルネ・クレール
2021/11/20
花咲ける騎士道
FANFAN LA TULIPE
1952年(日本公開:1953年01月)
クリスチャン=ジャック ジェラール・フィリップ ジーナ・ロロブリジーダ ノエル・ロクヴェール オリヴィエ・ユスノー マルセル・エラン ジャン・パレデス アンリ・ロラン ジャン・マルク・テンベール ネリオ・ベルナルディ ジュヌヴィエーヴ・パージュ シルヴィ・ペライオ
ジェラール・フィリップ&ジーナ・ロロブリジーダ、美男美女によるアイドル剣戟映画。
18世紀、ルイ15世が統治するレエス戦争時代のフランスを舞台としているが、映画の筋に影響しない歴史解説はナレーションでバッサリ割愛。チューリップの騎士ファンファン(ジェラール・フィリップ)の甘いマスクと、ダンスの如きアクションをテンポよく配置した恋と冒険の娯楽活劇。
ご都合主義と謗られるのは承知の上で洒落っ気たっぷりなコメディに仕上げているものの、悪ノリが過ぎる感じもあって品格に乏しいのが残念。
邪気のない笑顔が魅力のジェラール・フィリップありきの作品ではあるが、ジーナ・ロロブリジーダを筆頭に、ポンパドゥール夫人役のジュヌヴィエーヴ・パージュ、アンリエット妃のシルヴィ・ペライオと女優陣が美人揃いなのが嬉しい。
60点
2021/11/22
パルムの僧院
LA CHATREUSE DE PARME
1947年(日本公開:1951年02月)
クリスチャン=ジャック ジェラール・フィリップ マリア・カザレス ルイ・サルー アルド・シルヴァーニ ルネ・フォール エンリコ・シグロリ クラウディオ・ゴラ チュリオ・カルミナチ アッチリオ・ドッテジオ リュシアン・コエデル マリア・ミキ ルイ・セニエ
ワーテルローの戦いでナポレオンが破れた1815年直後のパルム公国(イタリア北部)を舞台に、男女の愛と嫉妬が交錯するロマンス劇。
衣装、美術、撮影に贅沢を尽くした2時間47分の超大作で、たいへん見応えがある。クリスチャン・ジャックの監督作品でいちばんの力作だと思う。
自由気儘な主人公ファブリスを演じるのはジェラール・フィリップ。適役ではあるが「花咲ける騎士道」や「夜ごとの美女」でみせた陽気な笑顔は控えめ。彼の叔母でもある伯爵夫人を演じるマリア・カザレスが圧倒的で、ジャン・コクトー「オルフェ」と並ぶ名演。将軍家の娘クレリア役のルネ・フォールも、負けず劣らず可憐な眼差しが印象に残る。
このふたりの演技が素晴らしいので、出世欲と保身に忙しいカリカチュアライズされた男優陣は損な役回りになっているものの、それぞれに熱演。自由主義を謳い革命の引き金となるアッチリオ・ドッテジオは儲け役。愚帝エルネスト四世を演じたルイ・サルーは髪型といい表情といいマイケル・ケインによく似ている。
スタンダール原作なのでセリフに文芸風の言い回しがあり、ジェラール・フィリップの軽やかさとマッチしていないところもある。
70点
2021/11/23
肉体の悪魔
LE DIABLE AU CORPS
1947年(日本公開:1952年11月)
クロード・オータン=ララ ジェラール・フィリップ ミシュリーヌ・プレール ジャン・ヴァラス ジャン・ドビュクール ドニーズ・グレイ ガブリエル・フォンタン シルヴィー ジャック・タチ
第一次世界大戦という異常な状況下で出会った高校生と人妻の決して報われない恋愛物語。レイモン・ラディゲが17歳のときに執筆した小説が原作。ゆえに優柔不断で刹那的。表現を変えれば未熟で青臭い恋愛。物語の行方は宿命として悲劇へと向かう。
誰かが死ななければ結末に至らないストーリーは見ていて辛く気が重い。
戦争が終わり祝砲と鐘が街中に鳴り響くなか、お祭り騒ぎしている人混みを掻き分け、少年(ジェラール・フィリップ)は人妻(ミシュリーヌ・プレール)と過ごした想い出の部屋を訪ねたあと、葬儀がおこなわれている教会に向かう。回想形式。雨の場面が多い。
繊細で叙情的な描写を丁寧に積み重ねるクロード・オータン=ララの代表作。主演のふたりの他、ミシュリーヌ・プレールの母親を演じるドニーズ・グレイ、ジェラール・フィリップの父親を演じるジャン・ドビュクールが好演。
70点