soe006 チャン・イーモウ 「LOVERS」

チャン・イーモウ「LOVERS」

September 16, 2004

もう10年くらい前の話だけど、
中国語圏の新しい映画を、貪るように観ていた時期があって……
(台湾も一緒にしちゃうと台湾人から怒られそうだけど)
『恐怖分子』『クーリンチェ(漢字が変換されない)少年殺人事件』のエドワード・ヤン(楊徳昌)、『ウェディング・バンケット』『恋人たちの食卓』のアン・リー(安李)、『欲望の翼』『恋する惑星』のウォン・カーウァイ(王家衛)、『菊豆』『秋菊の物語』のチャン・イーモウ(張藝謀)あたりは注目株で、この動きは今後、世界中の映画に絶対影響を及ぼす、1本たりとも見逃すまいぞ!……なんて、一人で興奮しながら、熱心に観てました。

で、結果からいうと……これらの人たち、そのころがピークで、次第に化けの皮が剥がれたというか、急激につまらなくなっちまいました。
俺の買いかぶりだったのかなぁ。

特にハリウッドに呼ばれてガラにない仕事をやるようになったアン・リーとチャン・イーモウには失望、そして失笑。

そのチャン・イーモウの新作『LOVERS 十面埋伏』は、前作『英雄 HERO』の失敗を埋めようとシャカリキになって作ったに違いないんだろうけど、恥の上塗りというか、間違った方向で軌道修正したとしか思えない無様な仕上がりになってました。
『英雄 HERO』をひとことで説明すると、衣装の袖や裾をヒラヒラさせながらクルクル回ってる(だけの)剣士の話。
だから今回は、前作でフォローしきれなかった、戦うモチベーションとしての「LOVE」を少し付け足した、って感じですね。あくまでも基本はヒラヒラとクルクル。剣劇場面はいろいろ趣向を凝らして見せ場にしてますけど、それだけで終わっちゃってる。手裏剣ビュンビュン飛んできますが、アニメだから怖くもなんともない。
いや、だからこそ、CGアニメに命を吹き込むドラマ作りに力(リキ)入れなきゃダメでしょう? 映画なんて所詮作り物なんだから。

特撮映画ではあってもアクション映画ではないですね。
特撮のための特撮。
そんなのはポップス歌手のプロモーション・ビデオとか、他のところでやってください。華麗な映像美は予告編で充分堪能しましたから、本編は(ちゃんとスジの通った)中身のあるドラマを見せてくださいよ。
開き直ってマンガやるんだったら、『少林サッカー』くらい肚をすえてやんなきゃ根性なしって莫迦にされちゃうご時世ですぜ。

クレジット・タイトルに、アニタ・ムイへの追悼文が出てきます。
物語を左右する重要な役でキャスティングされていたんですね。
でも昨年末に還らぬ人となってしまったので、役を小さくして後半のストーリーを変えてしまった……ダメじゃん。
変えるなら、変える前のストーリーよりも面白く変えなきゃ。
予定していた役者が死んじゃいました。他に代役ができる役者はいません。それほど重要な役でした。その役がスッポリ無くなってしまい当初考えていたストーリーよりもつまらない映画となってしまいましたが、以上のような事情がありますので、どうぞご了承ください……それはプロの仕事じゃないでしょう?

あと、チャン・ツィイー、何本やっても、演技ちっとも巧くなりませんね。
どうしてこんなヘタッピーな女優を続けて使うのでしょう?……初期の常連女優コン・リーが巧かったので、なおさら疑問です。
ド派手な舞踊場面もCGショウだから、かつてのミュージカル映画みたいに、この役者ダンスが巧いな〜、身のこなしがエレガントだな〜とか、見惚れるってことにはなりません。細かいカット割りで見栄えのするアングルだけ繋げてあるし、撮影(とポスプロ)の手間さえかけりゃ、そこらのタレント養成所に通ってる素人を使ったって撮れそうなダンス・シーンです。
ヒロインに恋心を抱けないから、彼女を巡って死闘を繰り広げるふたりの男(金城武とアンディ・ラウ)のどちらにも感情移入できない。
っていうか、金城も芝居ヘタだし……。

帰宅してから口直しに『秋菊の物語』をビデオで観る。
日本初登場の『紅いコーリャン』(と次に公開された『菊豆』)が強烈だったので、この映画に初めて接したときは驚いたのなんのって。
生真面目一本道を歩んでいる監督だと思っていたら、ユーモアのセンスも持ち合わせていたんですね。
俺は『秋菊の物語』を観て、チャン・イーモウの器の大きさを感じましたよ。
改めて観てみると、この監督、昔からあまり演技指導ってやってなさそうな感じです。
村の人たちの自然な演技とか、まるっきり自然だもの。相対的に撮影に作為が感じられる……ってことは、本質的に変わってないってこと?

『英雄 HERO』は全米公開後、興業成績2週連続1位となりました。
この映画しか観てない不勉強なアメリカ人は、続く『LOVERS 十面埋伏』(英語題名は『HOUSE OF FLYING DAGGERS』で、12月公開らしいです)と併せて、チャン・イーモウって人はこんな映画を作る監督なんだと誤解し、そのフィードバックでイーモウ自身が、俺ってこういう映画を作る監督なんだと勘違いし……そしてもう二度と元の鞘には納まらない(観客が飽きるまでトンチンカンな映画を作り続ける)ような……そんな気がしてます。残念ですけど。

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