映画のちから

映画のちから

September 11, 2005

第62回ベネチア国際映画祭で宮崎駿が特別功労賞を受賞した。
宮崎アニメは大好きで、新作が出ると押っ取り刀で観に行くのだが、(これは前にも書いたけど)「もののけ姫」以降の作品はポンコツで、声に出してまで褒めたくない、というのが正直な気持ちとしてある。
今回のベネチア映画祭での功労賞受賞は慶事ではあるけれど、どこか釈然としない。スッキリと喜べないところがある。ビートたけしもそうだが、なんだか海外で過大評価されているのじゃないのかな。

たけしの映画もポンコツではあるが、あれは映画話法を心得ていない、単に下手くそなだけのポンコツであって、宮崎作品のポンコツとは質が異なる。どちらもカルト的な人気を得ているし、若い世代に与えている影響は大きいけど。
余談だが、たけしの映画は簡単に模倣できる。実際、あの真似をしている新人がわんさか出てきている。当然、つまらない。ヒッチコックやビリー・ワイルダーが好きな俺には、何の工夫もなく作られた(撮って繋いでいるだけの)映画は、ただのゴミ(作っている当事者の自慰行為)としか思えない。
たけしの作品のなかにも、好きな映画はある。「あの夏、いちばん静かな海」や「キッズ・リターン」は好きだ。装飾を施さないというやり方が成功している。従来の映画話法で見せていたら、ウンザリするほど古臭いメロドラマになっていた筈だ。但し、これは怪我の功名というか、いわゆるヘタウマの部類である。プロの仕事ではない。

その点、宮崎駿は映画文法をしっかり身につけたプロである。観客に対するもてなし、見せ方をよく知っている。テーマやストーリーが破綻してしまっている最近の3作品でも、映像のちからで強引に見せてしまう技量を持ち合わせている。たけしの映画が(観客不在としか思えぬほどに)観客との距離をとっているのに対し、宮崎作品は見せ方に技(わざ)があり、有無を言わさず観客の視線を惹きつけてしまう。だから宮崎アニメは常にヒットし、たけしの映画はいつも客席がガランとしている。
「ハウルの動く城」でも、「これは凄い」と感心してしまう場面が多数あり、それが唯一の救いになっていた。
劇場の大画面で体感するタイプ(映像スペクタクル)の映画なんだろうと、割りきって観ているぶんには満足がいく。しかし、狙いがふらついているのでカタルシスはない。いままで観ていたものは何だったのだろうかと考えると、釈然としない思いを抱いたまま映画館をあとにすることになる。不完全な作品についてあれこれ独自の解釈で補完するのはオタクくらいなもので、一般観客にはそのような習慣はない。だから公開後は賛否両論で賑わった。

宮崎アニメとたけしの映画に共通しているのは、脚本未完のまま製作を始めてしまう、見通しの悪さだろう。
宮崎アニメで起承転結が奇跡的に成立しているのは「カリオストロの城」と「天空の城ラピュタ」だけで、ほとんどの作品はストーリーが破綻している。連載漫画の完結を待たずして製作された「風の谷のナウシカ」は無論のこと、迷子になった妹の捜索をクライマックスにしてしまった「となりのトトロ」、飛行船パニックをクライマックスにしてしまった「魔女の宅急便」と、製作前にあったはずの本来のコンセプトから、逸脱した方向へストーリーがどんどんズレてしまっている。「もののけ姫」に至っては、主人公の存在意義までが抹消されてしまっている。
結果良ければすべて良し。いま宮崎アニメは、とてつもなく儲かっている。野暮なことは言いっこなし、の風潮が蔓延している。しょせんマンガ映画だからだろうか。

日本映画が海外で評価され、マスコミが話題にする。
それはたいへんに喜ばしいことだ。世間の関心が日本映画に向けられる。金の流れが変わる。映画製作の機会が増える。
でもね、作品がポンコツであることに変わりはないんだよな。
幾度となく引退をほのめかしながらそれを実現できないでいる宮崎駿だが、今回の受賞で次回作の可能性が出てきた。ファンの一人として、次こそは大声で、「宮崎アニメの最高傑作!」と叫びたくなるような作品に仕上げていただきたい。
海外評価が一人歩きして作品評価が蔑ろにならぬことを、切に願うものなり。

追加
金獅子賞は、アン・リーの「ブロークバック・マウンテン」に決まった。
これもファンの一人としてたいへん嬉しい。「グリーン・デスティニー」とか「ハルク」とか、先々が不安だったけど……本来の路線に戻ってきたらしい。良かった良かった。

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