スコセッシ監督のオスカー受賞

スコセッシ監督のオスカー受賞

August 18, 2007

ここ数日BSで戦争映画をやってて、舛田利雄版『あゝひめゆりの塔』、『日本のいちばん長い日』、『南の島に雪が降る』、『激動の昭和史 沖縄決戦』と立て続けに観ていたものだから、アタマがボーッとしてなかなか文章がまとまらず、ズリズリと……

そんなこんなだから、半年も前の話題で恐縮です。

2006年度アカデミー賞で、作品賞と監督賞を、『ディパーテッド』とマーティン・スコセッシ監督が受賞しました。
ご存知のとおりこの映画は、香港の『インファナル・アフェア』のハリウッド・リメイク版。
決して駄作というのではありませんが……
こんなのが受賞するくらいなら、いままでスコセッシはどれだけ受賞にふさわしい映画を撮ってきたことか。
本来受賞すべき作品が落ちて、納得いかねえぞゴラァ! とか、世間の突き上げがあって……
それじゃ仕様がないから今回あげましょう、とする動きは……
我が国の直木賞なんかも完全にそうなってますから……
はっきり言って、どうでもいいです。

要は、映画にしろ娯楽小説にしろ、そのジャンル・テーマ・表現方法などが多様化して、はたしてなにが新しくて、どれが優れた作品なのか、正しく判断できる人が不在って事だと思いますね。

賞の成り行きは、審査員の審美眼とか見識とかに注目して見たほうが面白いです。
つまり審査されてるのはノミネート作品じゃなくて、審査員の方だって。

で……『ディパーテッド』の感想なんですけど。
ジャック・ニコルソン、レオナルド・ディカプリオ、マーク・ウォールバーグ、マット・ディモンの怪演だけでも充分に見応えあり。
特にジャック・ニコルソン! この役を石橋蓮司で見たいなあ!
ストーリーの方は、オリジナルの仏教思想を、スコセッシのライフテーマであるところのキリスト教に置き換えてしまったのが、(オリジナルを先に観ている人にとっては)なんとも歪(いびつ)に感じるんじゃないのでしょうか。
二重スパイの「いつバレるかサスペンス」は、スコセッシだから申し分ない面白さになってます。
精神科カウンセラーの女医さんは、もろハリウッド流で、これはいらん子でしたね。
全体的に『ケープフィアー』のときと同様、このネタをスコセッシのオリジナルで作ってたらスゲー大傑作になっていたのでは、という無念さが残る出来具合であります。

マーティン・スコセッシ「ディパーテッド」
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マーティン・スコセッシ「ディパーテッド」
The Departed

2006年製作/152分
監督:マーティン・スコセッシ
出演:レオナルド・ディカプリオ/マット・デイモン/ジャック・ニコルソン/マーク・ウォールバーグ/マーティン・シーン/レイ・ウィンストン/ヴェラ・ファーミガ/アレック・ボールドウィン/アンソニー・アンダーソン

それにしても、リメイクとかシリーズ第○作だとか、ここ数年の映画界は(日米問わず)企画が行き詰まってますね。
ヒットさせるってことを大前提に考えてるから、どうしても同じような傾向でしか発想出来なくなってる。

年間数本しか製作していない発展途上国の低予算映画に、優れた企画の映画が多いです。

たとえばですね……製作者でも監督でも脚本家でも誰でもいいんですけど、世界にたった一つだけのオリジナルな優れた企画を思いついたとするでしょう。で、それを映画化したい場合、次のステップは、「どうすれば優れた映画になるだろう」という論点ではなく、「どれくらいのお客が見込めるだろう」という算段で事が進められるんですね。
その見込み動員に見合った製作費で作れるかどうか、これが最大の難関。
ハリウッドの場合はマーケットが巨大ですから、(最近は厳しいらしいですけど)潤沢な製作資金でそれなりの作品が作れるのですが、日本は……(以下恨み節なので省略)。

以前も書きましたが、映画がヒットするか否かは宣伝次第なんです。
昔むかし、まだ映画が娯楽の王様であった頃は、配給会社に優秀な宣伝部員がいて、地味なヨーロッパ映画なんかも(会社が潰れない程度に)そこそこヒットさせていたんですね。
ところが現在は……外国映画の邦題を見れば分かるように、な〜んにも考えてない莫迦サラリーマンばかり。
いま『小さな恋のメロディ』や『エマニエル夫人』をヒットさせるだけの知恵者は、配給会社にいませんよ(たぶん)。よくまああんな映画がヒットしたものだと、いまから考えると摩訶不思議なのであります。

そんなだから、やっぱり冠(かんむり)って重要なんですね。
自分たちは一切アタマ使わないで、「アカデミー作品賞受賞」って肩書きだけで強力な宣伝材料になるのだから。
スター俳優来日させて招待試写会で挨拶させて、「笑っていいとも」にも出演させて、あとはテレビにスポット予告を打つだけ。
連日の猛暑で脳細胞ぶくぶくドロドロにさせちゃった半バカ大将にだって出来ますよ、そんな段取り仕事。

だから宣伝部員なんかをアテにできない。
企画段階から、絶対動員数完全掌握、2次・3次使用見込みで製作費確保、ハズレなしの安全牌でしか勝負しない(勝負できない)。
で……昨今の漫画映画化ブーム。

今回BSで観た4本の戦争映画、それぞれ史実に基づいた、つまりストーリーに大胆な創作は加えられないという制約がありながらも、それぞれに個性的な日本映画でありました。
吉永小百合のアイドル映画として製作されている『あゝひめゆりの塔』だって、今年地上波で放送された終戦記念ドラマなんかとはレベルが違います。中井貴一や香川照之は熱演でしたけど、制作の志(こころざし)が低すぎる。右とか左とか、そういう世間の声に気を遣う前に、自分たちが何を見せたいのかハッキリさせろ、と言いたい。
戦後15年とか20年とか、従軍経験者や戦争犠牲者(その家族)がまだ大勢生存されていた時代に、東宝や日活はあれだけの作品を製作していたというのに……なんと劣化してしまったものか、情けない。
残酷描写は子どもに見せられない?
アホか。戦争が残酷なのは当たり前。
子どもに見せられないような事でも起こるのが戦争。
戦争は好き嫌いでは論じられない。論じちゃいけない。
だからこその憲法第9条だろうが。
好き嫌いで言うなら、私はもちろんのこと、誰だって戦争は嫌いじゃ。
ついでに言わせて貰うと、戦争を正義とか悪とかいうのも幻想。
戦争は国家間の損得で起こったり回避されたるする、外交上の駆け引き。

日本は国民主権の民主国家でありますから、憲法改正問題は国民総動員で、(真面目に)考えて欲しいものです。

さて、話題を映画に戻しますが……
『日本のいちばん長い日』と『激動の昭和史 沖縄決戦』の監督、岡本喜八は1943年に東宝に入社。しかしすぐに松戸の陸軍工兵学校に入隊、豊橋陸軍予備士官学校で終戦を迎えた従軍経験者でありました。
また『南の島に雪が降る』は、自活抗戦中のニューギニア戦線で慰安部隊を任命された主人公・加東大介を、本人が(忠実に)演じている実話の映画化です。

加東さんと戦争というと、小津安二郎の遺作となった『秋刀魚の味』も強く印象に残っています。
トリスバーの蓄音機で「軍艦マーチ」を流しながら敬礼する加東さんは、戦争体験を肯定的に懐かしみ、一方で「日本は負けてよかった」と言う笠智衆に、「そうかもしれねえな。バカな野郎が威張らなくなっただけでもね」と軍閥批判も。
もちろんこれは、従軍経験があり脚本も書いた小津監督の本音でもあったと思いますが。
(本筋と無関係な場面では、脚本家の本音がよく出ます)

岡本喜八は、西部劇やアメリカのアクション映画に心酔していた監督でしたから、痛快な戦争アクション映画を撮りたい。『激動の昭和史 沖縄決戦』での高橋悦史なんかアメリカ映画そのもの。最後の突撃に出る前に、水筒を廻し飲みする場面はカッコよかったですねえ。
しかし日本は現実に負けている、しかもご自身いつ特攻に出るか分からない瀬戸際の青春時代を体験されている。
撮りたいのは愉快痛快娯楽アクション。しかし戦争で命をおとした人々や、その異常な事態の愚かしさ虚しさも忘れられない。忘れることなどできない。
この葛藤のなかで『独立愚連隊』や『日本のいちばん長い日』や『肉弾』は製作されているわけです。

日本のいちばん長い日
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日本のいちばん長い日

1967年製作/157分
製作:藤本真澄、田中友幸
監督:岡本喜八
原作:大宅壮一
脚本:橋本忍
出演:三船敏郎/山村聡/笠智衆/高橋悦史/黒沢年男/井上孝雄/中丸忠雄/島田正吾/加東大介/田崎潤/天本英世/神山繁/藤田進/伊藤雄之助/小林桂樹/志村喬

『ローレライ』や『男たちの大和』など、安易にハリウッド風を模倣している近年の戦争映画とは、志(こころざし)のレベルが違いますね。

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