soe006 折原一 「冤罪者」

冤罪者 折原一

文春文庫 (1997-2000)

冤罪者 折原一
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冤罪者 折原一

ノンフィクション作家・五十嵐友也のもとに届けられた一通の手紙。それは連続婦女暴行魔として拘置中の河原輝男が冤罪を主張し、助力を求めるものだった。
しかし自らの婚約者を犯人に殺された五十嵐にとって、それはとても素直に受け取れるものではない。河原の他に真犯人がいるのだろうか。
謎また謎の千枚!

徹底して叙述トリックにこだわる折原一の倒錯サスペンス。
とにかく長い!
全体は第一部「暗闇裁判」と第二部「だまし絵」に分かれていますが、前半の第一部がまるまる前フリ。しかもその殆どが扇情的な強姦場面とそれに関わるエキセントリックな人物紹介に費やされているので、読み進めるのが辛い。

叙述トリックが仕込まれているのは、この作家のものを何冊も読んでいるから先刻承知の上だし、今回の真犯人なんかすぐに分かってしまったものだから、なおさら長く感じられました。

絶対的な正義を振りかざしている奴ほどヤバいっていう、この作家の視点は気に入っているんですよ。でもね……いま一歩踏み込みが足りないんで、人物が薄いんです。犯罪に関わっている連中はどいつもこいつもロクな奴じゃないので感情移入できないし、ストーリーの中心にいるノンフィクション作家は心理描写が不足しているから単なる狂言廻しにしかなっていない。まるでお昼のワイドショーを見ているような感じですね。
サービス精神旺盛なのはよいのだけれど、もともとミステリってジャンル小説は暇潰しじゃないですか。人生という名の限られた時間がどんどん費やされているようで、読書中ずっと、「無駄な読書やってるなぁ」って自己嫌悪に陥っちゃったですよ。
アイディアだけを巧く抽出して、こう、スカッと読めるようなものに仕上げてくれたら最高なんだけどなあ。
○○と思わせておいて実は××って展開で読者を騙そうとしているんだろうけど、それだけのために策を弄しているって印象がマイナスになっています。

原型はヒッチコックの『裏窓』(覗き趣味)と『断崖』(身近なところに危険がいっぱい)なのかなぁ。それをインターネットって小道具を使って成りすましトリックに再構築し、読者サービスに連続強姦魔を絡ませましたって図式ですね。

この作家の描く女性って、異常な変態か昭和三十年代の青春映画でしかお目にかかれないような清純派の、2通りのパターンしかないんですね。この女性はどっちだろうって振り分けて読んでみると、アッサリ犯人は割れちゃいます。
(ははは、ネタバレやっちゃった)

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