ジェイムズ・P・ホーガン 「星を継ぐもの」

星を継ぐもの ジェイムズ・P・ホーガン

創元SF文庫 (1977-1980)

星を継ぐもの ジェイムズ・P・ホーガン
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星を継ぐもの ジェイムズ・P・ホーガン
原題「Inherit the Stars」 翻訳:池 央耿

月面調査隊が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。すぐさま地球の研究室で綿密な調査が行われた結果、驚くべき事実が明らかになった。死体はどの月面基地の所属でもなく、世界のいかなる人間でもない。ほとんど現代人と同じ生物であるにもかかわらず、五万年以上も前に死んでいたのだ。謎は謎を呼び、ひとつの疑問が解決すると、何倍もの疑問が生まれてくる。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見されたが……。

この小説が邦訳出版された1980年初頭は空前のSFブームで、
猫も杓子もSF、SF。
愛好家はようやく明るいところに出てきて、
正々堂々「SFが好きなんですよ」と口にできるようになった。
それまではSM(サド・マゾ)とよく間違えられていたし、「SF=子供向けの空想小説」という偏見も強かった。
ブーム到来でついに市民権を得ることができたSF愛好家たちは、日の丸を振って喜び、道頓堀に飛び込んだ。
……というのは、大嘘で、
……この時期くらいSF愛好家にとって辛い季節はなかった。
あの頃のSFブームってのは、実際は『スター・ウォーズ』と『未知との遭遇』を筆頭にした特撮映画ブームであって、「SF=サイエンス・フィクション」とは実質的に関係ない、
子供向けのバカ騒ぎだったからであ〜る。

『スター・ウォーズ』にしろ『未知との遭遇』にしろ、表層的にはSF好きが夢想していた(SF雑誌の口絵に載っていた)宇宙や宇宙船をリアルにヴィジュアル化し、脅威の映像体験をさせてくれはしたが、科学的な考証に基づいた物語ではなかった。
『スター・ウォーズ』第1作目(エピソード4)は、トルーキンの『指輪物語』の舞台を遙か彼方の宇宙にアダプトしただけの冒険ファンタジーであり、本質はお伽噺。『未知との遭遇』にいたってはストーリーが破綻しているので、論理好き科学好きが多数を占めるSF愛好家には、何がなんだか判らない、けったいな映画でしかなかった。 ヴィジュアル的に目新しくあっても、本質的な部分で、SF愛好家を満足させるものではなかった。
ジョージ・ルーカス自身も、『スター・ウォーズ』は「スペース・ファンタジー」であって「サイエンス・フィクション」ではないと発言しているけど、つい先日までSFとSMの区別もついてなかった一般的日本人にとって、それはどっちでも構わないってところ。
以上のようなヴィジュアル指向が一人歩きしていたのが、80年代初頭のSFブームであって、それが瞬く間に主流となってしまったのだから、まっとうなSF愛好家の肩身は狭くなるばかり。
「宇宙空間でゴーッとか音させて飛んでるのがシラケる」などと口にして、周囲の善良かつ無邪気な方々に、「お前の蘊蓄のほうがよっぽどシラケる」と発言を封じられ、アインシュタイン以降のメタ・サイエンス理論なんぞという嘘くさい話題で盛り上がっていたSF研究会は、被りものの仮装集団に実権を乗っ取られてしまった。

そんなときですよ、
J・P・ホーガンの『星を継ぐもの』が邦訳されたのは!

これぞ本物のサイエンス・フィクションと驚喜した人は多かったですね。
主人公が命の危機にさらされたり、財宝を追って冒険したりとか、派手な展開はありません。
月の裏側で発見されたほとんど人類そっくりの死体を巡って、延々と議論が繰り返されるだけのディスカッション小説。
登場人物の個性もおざなりなまま調査はテンポよく進み、詳細が明らかになるにつれ謎が謎を呼び、死体の正体は混迷の極み。
更に木星の衛星でも氷河の下から巨大な宇宙船が発見され、とんでもない結末が待っています。
この結末は、まさに驚天動地、センス・オブ・ワンダー!
ハードSFといっても、面倒くさい科学知識は必要ありません。
小学校や中学校で習った、ダーウィンの進化論とか、地球から木星まではとっても離れているってこと、月は地球の周囲を回転している衛星で、地球からは常に表側しか見ることができないとか……その程度の常識があれば大丈夫。
次々と明らかにされる新事実、それらの発見から導かれる仮説、その反証が目まぐるしく論じられ、展開は山あり谷あり。飽きさせません。
死体はいったい何者なんだ?
そんな普通のミステリーを読むときと同様の興味で、イッキに最後まで読めます。

本書を読んでから、月を見上げるとき、それまで以上に壮大な浪漫を夢想するようになりました。
ハードSFは苦手という方に、特にオススメの1冊。

追記:
作者のジェイムズ・P・ホーガンはコンピュータ・セールスマンから転身して作家になった、1941年生まれの英国人。これがデビュー作で、本書は続編の『ガニメデの優しい巨人』、『巨人たちの星』と3部作を成しているが、最初の驚きは再現できなかった。

あったり前だ。これ以上の驚きなんて、そうそうあってたまるか!

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