小松左京 「果しなき流れの果に」

果しなき流れの果に 小松左京

ハヤカワ文庫JA (1966-1973)

果しなき流れの果に 小松左京
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果しなき流れの果に 小松左京
ハルキ文庫版

N大理論物理学研究所の野々村のもとに、奇妙な砂時計が持ち込まれた。細いくびれを通ってこぼれ落ちる砂がいっこうに増減しない、上下の砂溜まりの砂の量が常に一定になっている、四次元構造の砂時計だった。
野々村は番匠谷教授とともに、発見場所である葛城山中の古墳へと調査に赴く。その古墳は在来の技術では不可能な精度で作られており、肝心の石棺はなく、意味不明の狭路が山腹部の砂岩層に突き当たっている奇妙な構造をしていた。調査に入った一行に謎の人物が接触し、関係者は次々と謎の死を遂げ、あるいは失踪してしまう。野々村もまた、時速70キロで走っているタクシーの車中から忽然と消え去り、番匠谷教授は謎の人物に殴打されて植物状態に……そして、砂時計に関するすべての資料は永遠に失われた。
10億年の時空を舞台に人類と文明の意義を問う、時間・次元テーマSFの代表作。

ジュラ紀の大地を闊歩していたティラノザウルスが、電話の呼び出し音にノイローゼになって死んでしまうプロローグが秀逸。
続く、謎の四次元砂時計をめぐるミステリーがすこぶる面白い。
次々と関係者が消えてゆき、残された野々村の恋人が、故郷でひっそりと老いてゆく姿が切なく、泣ける。

時間は更に過ぎゆき、22世紀――資料衛星に保管されていた20世紀のニホン製のテレビに、番匠谷教授の幽霊が映し出される。幽霊は何かを訴えているようだが、それを研究調査中に、資料衛星はテロリストによって爆破されてしまう。

更に時は流れ……
本当は先のエピソードよりも時間が戻っているのだけど……21世紀。
地球は終焉の時を迎えていた。
原因は太陽の不規則変動。人類の英知ではどうしようもない。
一部の人々は火星に移住したが、残された人々は、残り三時間に迫った終焉の時を覚悟して待っていた。壊れるものは壊れてしまい、自殺するものは自殺してしまい、いまは諦めるのを通り越して、虚脱したような平穏さで迎える地球の最期。
そのとき、突如現れたる謎の円盤UFO! 「あんたたち、助けてやるから、早く円盤にお乗りなさい」 かくして地球種知的生命体は、半ば強引に宇宙人に拉致されてしまう。
連れて行かれた先は、大気や構成元素が地球にそっくりの惑星。重力や太陽からの距離もまったく同じ。我々は地球の過去の時代に運ばれてしまったのではないか? 夜になって星座をみれば何もかもはっきりするだろう。 ――なんてこと言ってるときに、一同は猿人に襲われ殺されてしまう。

388ページの小説の、ここまでが223ページ、全体の約半分。
そこから先の展開は……

さっぱりわからん。

ある組織が、時間移動を繰り返し、歴史を改竄しようとしている。
そして、それらの行為を阻止しようとしている組織がある。
また、それらの組織には、タクシーの車内から忽然と姿を消した野々村が一員として加わっている(らしい)。
地球終焉の際に宇宙人に拉致された松浦という男も、どちらかの一員みたいだ。

いや、よく分からないけど。

20年くらい前に読んだときも分からなかったけど、いま読み返しても、よく分からない。よく分からないけど、この作品は、小松左京の代表作で、時間テーマSFの大傑作なのであ〜る。
よく分からんのに、代表作だとか大傑作だとか、断言していいのか?

よいのであ〜る。
なぜならば……「歴史って、変えてもいいんじゃないの?」という問いかけが、とても強烈だからであ〜る。

H・G・ウェルズが1895年に『タイム・マシン』を発表して以来、「過去は変えちゃいかん」というのがSF小説の常識でした。それは「他人に迷惑をかけちゃいかん」と同じくらい頑固な考え方で、みんな、その常識に納得していたわけです。
ポール・アンダースンの『タイム・パトロール』のように、過去を変える奴、歴史を変革しようと企む奴は悪玉で、それを未然に阻止しようとするパトロール員は正義の人、みたいな取り決めが、不文律としてあったわけです。子どもの頃に見ていたSFアニメでも、同じようなルールが大前提となって作られていました。過去を変えるようなだいそれた事を考える奴は、『バック・トゥ・ザ・フューチャーPARTII』のビフのように、私利私欲のためにやっていたので、素直に悪役と決めつけていたんですね。

ところが小松左京は、この『果しなき流れの果に』で、過去を積極的に変えようとする行為を、肯定的な視点から、グイグイと読者に押しつけてくるんです。
もし、中世の時代にペニシリンがあったら、多くの人命が救えたではないか。
もし、20世紀のドイツで独裁者の誕生を阻止していたら、多くのユダヤ人が無為に殺されなくてもすんだじゃないか。
もし、有史以前の地球に21世紀の文明を持ち込んだら、人類はもっと進化発展したのではないか――そんなことを、真っ正面から、堂々と問いかけてくるんです。

凄いっす。

ストーリーが破綻していることは、小松さん自身も自覚されているようで、次のようなコメントを書かれています。

「未来」という分野のはらんでいる題材が、あまり多すぎるため、ついつい個々の作品の完成度を高めることよりも、大急ぎで、問題点をピックアップして行く、ということに重点をおくことになりました。――(略)――ほんとうのことをいえば――私にはもう、昔のような意味での「文学的完成」などということは、どうでもよくなっているのかも知れないのです。
(『神への長い道』あとがきよりの引用)

テーマの大きさ、重さ、それと「これぞSF!」と声に出したくなるような、豊富なアイディアが、この小説の魅力です
本作にはこの他にもアイディアはギュウギュウに詰まっていて、後年、長編化される『日本沈没』の話も(その後の祖国を失った日本民族の行方さえも)、この小説の背景の一部として含められています。
日本SF界の巨星の名にふさわしい、小松左京の代表作です。

よく分からんけど。 ^_^;

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