soe006 スティーヴン・ハンター 「ボブ・リー・スワガー」シリーズ

ボブ・リー・スワガー

January 9, 2004

いま、スティーヴン・ハンターのボブ・リー・スワガー・シリーズを読んでいるんですが、これが、もう最高に面白い小説(男の子限定)なんですよ。
スタローンの映画「ランボー」シリーズって面白かったけど、所詮作り事だよね〜あんなに上手くいくはず無いじゃん、とシラケている人には是非読んで欲しい、血湧き肉躍る冒険小説なのであります。

「極大射程」上下(新潮文庫)
「ダーティホワイトボーイズ」(扶桑社ミステリー)
「ブラックライト」上下(扶桑社ミステリー)
「狩りのとき」上下(扶桑社ミステリー)
すべて文庫本ですが、平積みすると、13センチにもなる分量!

主人公ボブ・リー・スワガーは、ベトナム戦で87人(公式記録・非公式にはもっと沢山!)の命を奪うという驚異的な経歴を残した天才スナイパー。
戦地で負傷し海兵隊を除隊した後、故郷に戻って隠遁生活をおくっていると、ある謎の組織から新開発の38口径弾の試射を依頼されます。
謎の組織は、当然悪の組織(この手の小説ではあったり前ですよね)で、スワガーのキャリアを利用して罠にハメようとしているわけです。
(シュワルツェネッガーの「コマンドー」みたいなもんですね)
作者はそのあたりの説明を誤魔化していません。正々堂々と、最初からいかがわしい計画を企んでいることを明らかにしています。主人公も、とても機知に富んだ人物なので、ハメられる危険性を察知しています。
で、(ケネディ暗殺を連想させる)問題の事件が発生し、スワガーは冤罪でFBIから追われ、口封じに謎の組織からも追われ、逃げる途中、成り行きで味方になった捜査官とたった二人で、な〜んと、総勢120名の特殊部隊の兵士と対決する!……凄いっす!
このあたりは、うぉ〜と吠えたくなるくらいに丁寧な描写で、ジェームズ・ボンドが機関銃の嵐のなかを無謀に突っ走って(でも絶対に弾には当たらないから)危機を脱出する如きマンガチックな展開とは雲泥の差。リアルな冒険小説を求めていらっしゃる方には絶対のオススメ。
更に終盤(法廷)での鮮やかな逆転劇には、ミステリ読者もアッと驚く仕掛けが……
これが第1作「極大射程」のストーリー。

第2作「ダーティホワイトボーイズ」は、極悪非道の脱獄囚ラマー・パイの逃避行と、それを追う州警察パトロール巡査部長との追跡劇。
とても勝ち目は無いよ〜って泣き出したいくらいの状況を数珠つなぎにした、息詰まる対決が描かれています。
脱獄囚ラマー・パイが、仲間や愛人と疑似家族をつくっていく過程で、どんどん純粋になってゆくのに対し、巡査部長バド・ピューティの家庭が形骸化し崩壊してしまう皮肉な対比も、切ないっす。ラマー・パイの、頑なまでの純粋さ(偽善を許さない態度)と抜け目のなさは生来のもので、ある方向から光を当てれば極悪非道の凶悪犯。しかし別の方向から光を当てれば……なんと!……それに気付くのは第3作のラストになってから。
このストーリーには、シリーズの主人公ボブ・リー・スワガーは登場しません。しかし、この事件がきっかけになって、第3作「ブラックライト」へと物語は発展します。

第3作「ブラックライト」では、再びボブ・リー・スワガーが登場し、第2作の或る人物と共に、父親アール・リー・スワガー(硫黄島攻略の英雄)の殉職に隠された謎を追うことになります。当然、過去の真実を暴かれたくない人物は、二人の行動を監視し、協力者を抹殺。プロの暗殺集団を雇って二人の命を狙います。
この3作目では、ボブの捜査と平行して、父親アール・リーのストーリーも描かれていて、シリーズの多重構成が強調されています。
最初に読んだとき、2作目はボブ・リー・スワガーが登場していなかったのでスピンオフ(番外編)として認識していたのですが、この3作目のラストでアッと驚く(ちゃんと読んでいれば見落とすことはなかった)事実が明らかになって、第2作「ダーティホワイトボーイズ」の重要性、および何故2作目がシリーズに組み込まれていたのか、作者の意図が浮かび上がってきます。

第4作「狩りのとき」は(いま読んでいる最中ですが……)そんな莫迦な! と驚くプロローグで幕を開け、ボブ・リー・スワガーがヴェトナム戦線でチームを組んでいた部下のストーリーが始まります。つまり、「世界で最も危険な男」と異名を得ることになった原因のエピソード、過去のボブ・リーが描かれているわけです。
だって、この4作目の冒頭でボブ・リーは……(未読の方のために絶対に書きません)

これ、全編アクション(それも超弩級スケール)を連鎖させたストーリーで、しかもシリーズ全体の流れを分割して、現在、過去、近過去と時制を並べ替えた複雑な構造は、タランティーノ映画と同じ趣向なのであります。
最後まで読まなきゃ全体像が見えてこない。
もちろんタイトル毎にストーリーは完結しているので、どれか1冊だけをチョイスして読むことも可能ですが、まとめて読めば更に更に面白い。

主人公が天才スナイパーですから、銃器や軍事作戦に関するの知識・描写は、顕微鏡を使って書いたんじゃなかろうかと疑うほどに細密にして詳細。それらを手にし実行するプロの心理描写も的確。
善にしろ悪にしろ、黒にしろ白にしろ、貧にしろ富にしろ、登場人物たちは状況や時代の変化に呑まれたり漂ったりしているのですが、銃器だけはウソつかない。銃器は扱う人間によって良きこともなすが、悪しきことにも使用される。
作者スティーヴン・ハンターは、銃への愛を充分にアピールしつつ、銃社会のアメリカを否定し、絶妙な視点で銃について語っています。

更にこのシリーズをまとめて読むと、教科書には書かれていないアメリカ近代史も勉強できます。アメリカの戦争(いまもやってますね)が如何にして実行されてきたか、戦地に赴いた人たちは、どのような気持で戦い、そして復員してきたのか。
組織(=国家)と個々の人間との関係をとおして、アメリカという、世界最大にして最強(最凶/最狂)の国のカタチが垣間見えたりもします。

単純に面白い読み物として語っちゃうのであれば、過去に同音異曲の小説もワンサカあって、以上で終りなのですが、ボブ・リー・スワガー・シリーズはここからが違う!

このシリーズ、アール・リーとボブ・リーの、父と息子の関係がテーマなんですよ。
強いってことはどういうことか、正義は如何にして為されるのか、窮地に立ったときどのように対処したらいいのか……父親が息子に教えてやらなきゃいけない様々の事柄が、強い信念をもって語られているんです。(女性蔑視/性差に非ず)

残念ながら俺にはいませんが……もし息子がこのシリーズを読んでくれたら、お父さんすごく嬉しい。
そんな気持ちにさせてくれる小説です。

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