エド・マクベイン 「警官嫌い」(87分署シリーズ)

警官嫌い (87分署シリーズ) エド・マクベイン

ハヤカワ文庫(1956-1976)

警官嫌い (87分署シリーズ) エド・マクベイン
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警官嫌い (87分署シリーズ) エド・マクベイン
原題「Cop Hater」 翻訳:井上一夫

夏の夜の大都会――まばゆい照明の下にかげに、街があり、夜空の下でうごめく暗い生活があった……その夜、市警の87分署の刑事マイク・リアダンは、夜勤に向かう途中、分署から三丁離れた暗い舗道で二発の弾丸に顔半分を吹き飛ばされ即死した。87分署づめの刑事15人は無惨な死体を見て声もなかった。マイクはいい人間だったのだ。憤怒に燃えあがった彼らは、犯人検挙に全力をそそいだ。だが、警官殺しの犠牲者はつぎつぎと生まれていった……大都会の喧噪の裏に隠された犯罪を執拗に追いつめ、探偵小説に新分野をひらく、<87分署シリーズ>第一弾!

エド・マクベイン「87分署シリーズ」の、記念すべき第1作です。
2005年夏、マクベイン死去の報を受け、版元(早川書房)では本作と『キングの身代金』の文庫版を急遽増刷したようですが、この2作がシリーズ全体を通しての代表作というわけではありません。第1作と黒澤映画の原作ということで書名だけが一人歩きしている、いわゆる歴史的名作の部類であり、本作は、テレビ・シリーズでいうところのパイロット版、または大河小説の序章といった位置づけの作品。今となってはもう、シリーズ第1作(「87分署シリーズ」誕生のドキュメント)としての価値しかないのかも知れません。

というのも、『警官嫌い』の本筋となる連続警官殺害事件は、アガサ・クリスティの某作品からのイタダキであり、犯行動機の設定にいささか無理があります(これはオリジナルのクリスティ作品も同様)。捜査を混乱させるためだけに恨みもない第三者を連続殺害するなんて、荒唐無稽としかいいようがないです。
新聞のスクープ記事からクレアの監禁、そしてキャレラの救出&犯人逮捕という、事件解決への運びも少々強引過ぎます。ミステリー/サスペンス小説としての評価はそれほど高いとは言えないでしょう。

だからといって面白くないわけではありません。
今年の夏(2005年7月)、マクベインが喉頭癌で亡くなったのをきっかけに、20年ぶりくらいに再読したのですが、もう懐かしくって懐かしくって……まるで中学の同窓会のような気分に浸ってしまいました。
シリーズ第1作ではありますが、最初に手に取る1冊としては少々弱い。数冊読んでシリーズにハマってしまった人には、それなりに面白く読めると思います。なんといっても「警察小説」という新ジャンルを確立した、画期的な1作ですからね。それなりの理由というか、魅力はあります。

「87分署シリーズ」は回を追うごとにどんどん魅力を増していくのですが、マクベインは最初からシリーズ化を想定したうえで執筆したに違いなく、シリーズの特徴は第1作の『警官嫌い』から濃厚に現れています。

1.架空都市アイソラ(ニューヨーク)の、イキイキした風俗描写。
2.実際の犯罪捜査を取材した、リアリスティックな警察活動の描写。
3.87分署に勤務する、個性豊かな刑事たちのキャラクター造形。

真夏のうだるような暑い夜を描写する独特の手法(街の擬人化)、捜査の過程で挿入される報告書等のコピー、刑事たちが交わす日常的な無駄話も、第1作から既に試みられています。アイソラ(ニューヨーク)の風俗描写は執筆当時(1956年)最先端だっただけに、いま読み返してみるとなかなか興味深いものがあります。
のちに刑事部屋の一員となるクリングはまだパトロール警官で、キャレラは本作のラストシーンでテディと結婚式を挙げます。マイヤー・マイヤーやコットン・ホースなどの名物刑事はまだ登場していません。小柄だが柔道の達人のハル・ウィリスも、まだ影が薄い。そのかわり(残念ながら本作のみ登場の)ハンク・ブッシュという個性派刑事がいます。刑事部屋で披露される「ピーナッツ・バターのサンドイッチの小咄」に対するブッシュの反応は、事件の伏線にもなっているので要チェック。この刑事の家庭に漂う倦怠感が、マクベインらしくていいです。

作者はもうこの世になく新しいストーリーは望めませんが(未訳の作品があと2作ほど残ってるそうです)、大都会アイソラとそこに働く刑事たちは、50余作のシリーズのなかで永遠に生き続けています。

エド・マクベイン Ed McBain (1926−2005年)
高校卒業後海軍に入り、第二次大戦後に除隊して大学入学。その後教師など幾つかの職業を経て出版代理店に勤務。
1954年、かつての教師経験をもとに高校生の非行を描いた『暴力教室』(エヴァン・ハンター名義)が評判となり映画化。1956年より、架空の街アイソラに勤務する警官たちの活躍を描いた「87分署シリーズ」をスタートさせ、警察小説と呼ばれるジャンルを確立。その他、ホープ弁護士シリーズなど著書多数。
1986年にアメリカ探偵作家クラブ(MWA)巨匠賞、1998年にはイギリス推理作家協会(CWA)ダイヤモンド・ダガー賞を受賞。

詳しくはこちら > エド・マクベイン読本(87分署ファン必携!)

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