soe006 ホルスト:組曲「惑星」

ホルスト 組曲「惑星」

August 26, 2006

冥王星を太陽系の惑星から除外 国際天文学連合が採決 (CNN)

遠く離れた地球のプラハっていう、映画音楽ばっかり録音している楽団のある街で、国際天文学連合(IAU)の人たちが決めちゃった。
(−中略−)
呼び方が変わったってだけで、冥王星は以前と同じ冥王星のまま、今日も元気に健気に、相変わらず軌道を回ってますから、どうぞご安心ください。
(−中略−)
発表から3日経っても、まだ抗議の電話がかかってこないところをみると、冥王星人も納得してくれたのかな。惑星大戦争に発展しないで良かった良かった。

さて……
今回の冥王星騒動で、瓢箪から駒、思いもよらぬヒットとなったのが、このディスク。

ホルスト:惑星(冥王星付き)
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ホルスト:惑星(冥王星付き)

サイモン・ラトル指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1. ホルスト:組曲「惑星」
2. コリン・マシューズ:冥王星
3. カイヤ・サーリアホ:小惑星4179〜トゥータティス
4. マティアス・ピンチャー:オシリスに向かって
5. マーク=アントニー・タネジ:セレス
6. ブレット・ディーン:コマロフの墜落

2006年 デジタル録音 EMI(2枚組)

グスターヴ・ホルストが組曲「惑星」を作曲したのは、1914年から1916年にかけて。
非公式な初演が1918年9月28日。公式初演は1920年11月7日、ロンドンのクィーンズ・ホール。指揮はアルバート・コーツ。
発見されたのが1930年だから、当然、冥王星はこの組曲には入っていません。ホルストの死去は1934年だから、補作しようと思えば出来たんだろうけど、そんなことはしませんでした。
「惑星」って天体の惑星じゃなくて、西洋占星術(つまり根っこはギリシャローマ神話体系)に触発されて作曲されているわけで、1930年まで存在が知られていなかった星に神話なんてありゃしない。
それに聴いたことのある方ならお分かりでしょうが、「惑星」の最終曲「海王星」は、宇宙の彼方に拡がるピアニッシモの女声コーラスがスーッと消えていって終わる。
これに追加曲を続けることなど、蛇足以外のなにものでもないっす。

ところが、ケント・ナガノってイケメン売れセンの指揮者が、ホルスト研究家のコリン・マシューズって先生に頼んで、2000年に第8曲「冥王星」ってのを作らせちゃったんですね。
死人に口なし。ホルスト先生が草場の蔭からどんな感想をもたれたのか想像できかねますが、音楽ファンから、とりわけ「惑星」の愛好家からはもう、非難囂々(ひなんごーごー)……なんだけど、もの珍しさから、発表直後はコンサートのプログラムに組まれたり、CDも何枚か制作されちゃったりもしました。
もっともこれがスタンダードになるわけもなく、「冥王星? そないなけったいなもんいらんわい!」ってことで、本来の全7曲で演奏・録音されるケースがほとんどなんですけどね。

で……そんな事もありましたっけ的だれも気にしなくなった今日この頃、ラトル&ベルリン・フィルが「惑星」を冥王星付きで録音したわけです。
いまごろになって、なにやってんの?
一般人はなおさら、クラシック音楽ファンの間でも、あまり注目&期待してませんでした。(もともとラトルってぜんぜん注目されない指揮者なんですけどね)
ところが今度の騒動で、俄然話題になってCDバカ売れ。
偶然とはいえ、タイミングって凄いですね。

えー、書き忘れてましたが、
今日は、「ストコフスキー・ベスト5」の第2回です。

ここまでが長ぁ〜い前フリだったんです。実は。
これからが、本日のメインであります。

「ストコフスキー・ベスト5」番外編・次点の巻
惜しくもベスト5には洩れたものの、無視するには忍びない、紹介せずにはいられない、死んでも死にきれない、七代祟って化けて出る的お薦めディスクをご紹介させていただきますです。

ホルストの組曲「惑星」が一般に知られるようになったのは、公式初演から30年後、1961年録音のカラヤン&ウィーン・フィル盤(Decca)のヒットによるものだったと言われています。

ホルスト:組曲「惑星」
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ホルスト:組曲「惑星」

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団

1961年 ステレオ録音 Decca

テレビ朝日がまだ朝日放送だったあの遠い日、「土曜ワイド劇場」の前番組「土曜映画劇場」のエンド・クレジットに流れていたのが、カラヤン盤に収録されていた「木星」の中間部分。当時中学生で小遣いも少なく、思うように映画館に行けないでテレビの洋画劇場ばかり観ていた現在40代半ばの方には、さぞ懐かしいメロディでありましょう。

それに先立つ1956年、カラヤンよりも5年前に録音していたのが、今回の主役、ストコフスキー&ロス・フィル盤であります。

ホルスト:組曲「惑星」
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ホルスト:組曲「惑星」

レオポルド・ストコフスキー指揮
ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団

シェーンベルク:「浄められた夜」
ストコフスキー指揮ストコフスキー交響楽団

1956年 ステレオ録音 EMI/Capitol

ストコ名物、独自の編曲はなされてませんが、演奏のそこかしこでストコ節が炸裂。比類なき面白さを持った「惑星」であります。
「火星」のコーダ部なんか、ぐわぁ〜んと銅鑼が響きます。
音質はステレオ初期の録音とは信じられないくらい驚異的優秀さで、「古いのはちょっと」と敬遠されてる方も安心してお求めいただけます。現行盤は、ストコフスキー交響楽団によるシェーンベルク「浄夜」とのカップリングでお買い得感もあり、超オススメ!

実はストコフスキー、これよりずっと以前、SP盤時代(1943年)にも「惑星」を録音していたんですね。こちらの方が、もっともっとストコらしくて素晴らしいとの評判ですが、残念ながら未聴。なんといっても「惑星」のアメリカ初演を指揮したのは、ストコフスキーですからね!

ホルスト:組曲「惑星」
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ホルスト:組曲「惑星」

レオポルド・ストコフスキー指揮
NBC交響楽団

1943年 モノラル録音 Cala

ストコは他にも、ストラヴィンスキーの「春の祭典」や、オルフの「カルミナ・ブラーナ」、ファリャ「恋は魔術師」など、数多くのアメリカ初演をやってます。ストコ全盛期の公演記録を書き並べたら、現代音楽の代表曲リストが出来るくらい。
(当時の、真っ当なオーケストラがやりたがらない楽曲ばかりだな!)
でも、この冒険魂が素晴らしいじゃないですか。

歴史的な録音といえば、ホルスト自身の指揮による自作自演盤も最近再発売されました。

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ホルスト:組曲「惑星」

グスターヴ・ホルスト指揮 ロンドン交響楽団
1926年 モノラル(電気録音)

ヴォーン・ウィリアムズ:「交響曲第4番」
ヴォーン・ウィリアムズ指揮 BBC交響楽団
1937年 モノラル録音

Naxos Historical

SP盤からの板起こしなので音質は悪いです。また当時の技術的要因による時間制限もあって、全体的にすっ飛ばした演奏内容。記録的な価値はあっても鑑賞には向いていません。

以上、組曲「惑星」の歴史的名盤ベスト3でした。

ところでこの組曲「惑星」は、「木星」のアンダンテ・マエストーソ部分を歌謡曲化したものが数年前にヒットして以来、クラシック音楽業界では売れ筋商品になっているんですね。
リズム、和声、メロディ、楽器編成、いろいろバラエティに富んでいてハリウッド映画音楽っぽいからでしょうか、アメリカの楽団によるディスクに人気があるようです。
そこで……

ハリウッド映画音楽っぽい「惑星」ベスト3の発表!

ホルスト:組曲「惑星」
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ホルスト:組曲「惑星」

ズービン・メータ指揮
ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団
ロサンゼルス・マスター・コラール

1. ホルスト:組曲「惑星」
2. ジョン・ウィリアムス:「スター・ウォーズ」組曲
1971年 ステレオ録音 (Decca)

デッカ特有のメリハリのあるド派手な録音が、このディスクの魅力。私が最初に買った「惑星」で、これまで聴いた回数が一番多い「惑星」でもあります。
メータ絶頂期の録音ですからバリバリに元気が良く、現行国内盤はカップリングが「スター・ウォーズ組曲」というのもハリウッド的でしょ? 「惑星」初体験の方には問答無用でこれをオススメします。

ホルスト:組曲「惑星」
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ホルスト:組曲「惑星」

ウィリアム・スタインバーグ指揮
ボストン交響楽団

ホルスト:組曲「惑星」
R.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」

1970年 ステレオ録音
Deutsche Grammophon

かっこいい「火星」を聴きたいなら、断然これ! 60年代の戦争映画が大好きなオジサンに、超オススメの1枚。
硝煙漂い銃弾飛び交う戦場を、ジグザグに疾走するスティーヴ・マックィーンの如き疾風怒濤の「火星」に、オー、エキサイティング! 大興奮するのであります。
一見無関係な感じがするカップリングの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」も、『2001年宇宙の旅』のオープニング・テーマとして考えればハリウッド映画っぽいですね。

ホルスト:組曲「惑星」
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ホルスト:組曲「惑星」

ジェイムズ・レヴァイン指揮
シカゴ交響楽団

1989年 デジタル録音
Deutsche Grammophon

ちょっとコレやりすぎじゃないのってくらいに、金管バリバリの爆演(実際やり過ぎて「火星」の終わりの方は演奏が破綻してます)。ホール音響が度を超してるので、一瞬耳鳴りと勘違いしそうになりますが、広大な宇宙空間だからこのくらい派手なほうが良いのです。
イケイケドンドン、多少の粗はご愛敬。CG特撮と編集のノリで見せる最近のアクション娯楽映画がお好きな方に、超オススメの1枚。

とは言ってもですね……組曲「惑星」はイギリスの音楽。
本場のオケでないと、楽曲の持つ本来の素晴らしさは味わえませんですよ、ってことで……

本場オケによる本格「惑星」ベスト3の発表!

第1位は、なんといっても初演(非公式)を指揮したこの人のディスク。

ホルスト:組曲「惑星」
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ホルスト:組曲「惑星」

エードリアン・ボールト指揮
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

1. エルガー:「エニグマ変奏曲」
2. ホルスト:組曲「惑星」

1970年(1)、1978年(2) ステレオ録音 EMI

ボールトは生涯5回も「惑星」を録音していて、1966年のニュー・フィルハーモニア盤(4回目)も世評は高いのですが、今回は1978年、最後の録音盤を推薦。
アメリカの楽団は元気があって面白いけど、ガサツでいけません。
やっぱり英国の風格と節度のある威厳を感じさせるのは、こちらのボールト盤ですね。この楽曲はこのように演奏するのが絶対的に正しいのだ、と確信してやっているところが素晴らしいです。「惑星」はいろいろ聴いたけど、「火星」のコーダに戦慄を感じたのはこのディスクだけ。
映画音楽愛好家のための管弦楽入門に最適な、エルガーの「エニグマ変奏曲」もカップリングされていてお買い得ですよ。

ホルスト:組曲「惑星」
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ホルスト:組曲「惑星」

チャールズ・グローヴス指揮
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

1. ホルスト:組曲「惑星」
2. ホルスト:「セントポール」組曲

1987年 デジタル録音 Sanctuary

英国紳士風の、威厳のある演奏ならこれ。
あまり評判も聞かなくて、ジャケットも地味だし、でも安かったから恐る恐る買ってみたのだけど……大ヒット! テンポ、音の強さ、音の拡がりも、理想的な「惑星」。金管もかなり元気よく吹いているけど、米国の楽団みたく喧しく聞こえない。威風堂々たる「木星」のアンダンテ・マエストーソ! これが七つの海を支配する大英帝国の貫禄。
1987年のデジタル録音で音質は超優秀。「セントポール組曲」とのカップリング。

……で、グローヴス盤に味をしめて買ったロイヤル・フィルの格安盤が、こちら。

ホルスト:組曲「惑星」
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ホルスト:組曲「惑星」

ヴァーノン・ハンドリー指揮
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

1. ホルスト:組曲「惑星」
2. ホルスト:「セントポール」組曲

1993年 デジタル録音 RPO Collection

映画音楽とかポピュラー名曲の演奏盤ばかり目立つせいか、ロイヤル・フィルにはムード音楽のオケというか、安っぽい印象があったんですね。実際にディスクも安く叩き売りされてるし。
ごめん、私が間違ってました……と気づかせてくれたのが、このCD。
マジで言う。2800円の国内盤新譜を1枚買う銭があったら、ディスカウント・ショップや駅構内のワゴンで売られている「ロイヤル・フィル・コレクション」シリーズ(780円〜300円)を数枚買った方が絶対に倖せになれます。なんで世間はこんなに素晴らしい「惑星」を知らんぷりしてるの? って憤りたくなるくらい。
一般人がラトルの冥王星付きを聴いているその蔭で、こっそりハンドリー盤を聴く悦びもまた格別。「私だけが知っている優越感」に浸りたい、そんな捻れたマニア意識をお持ちの方に超オススメの1枚。
良い演奏は、人を善人にさせてくれる効用もあるそうですから、聴いたあとは素直になれるかもです。
こちらも「セントポール組曲」とのカップリング。1993年のデジタル録音。

「ロイヤル・フィル・コレクション」シリーズは、海外レーベルからSACD盤も出ています。ユーリ・シモノフ指揮のチャイコフスキーやストラヴィンスキーが、超ど迫力(爆演系)で超オススメ!

今回は「惑星」コレクターのjumusさんが見たら、鼻で笑われるだろうなー。読まれる前に、さっさと次の更新しようっと。

……ということで、「ストコフスキー・ベスト5」はまだまだ続きます。

ホルスト 組曲「惑星」 初演記録

November 24, 2006

公式初演は1920年11月7日、ロンドンのクィーンズ・ホール。指揮はアルバート・コーツ。また、非公式な初演は、1918年9月28日、指揮はエイドリアン・ボールトと書きましたが……志鳥栄八郎さんの「FM選書 CDライブラリー上巻」(共同通信社)には、私的な初演が1918年9月、ロンドンのクィーンズ・ホールで行われた公式初演が1920年11月15日、とあります。
CDのライナーノートや名盤ガイド書などをみると、初演の日時や指揮者・楽団の記述がまちまちに記載されていて、もやもやしていたので、正確な初演記録を調べてみました。

ホルストが作曲に着手したのは、ロンドン近郊のセント・ポール女学校に勤務していた1914年5月。ほぼ完成されたのが1917年。

1.1918年9月29日、作曲家H・バルフォア・ガーディナーの主催する私的な招待演奏会において、ガーディナーの指揮。演奏楽曲は不明。

2.1919年2月27日、ロイヤル・フィルハーモニック協会主催の公演において、「金星」と「冥王星」を除く5曲を一般公開。指揮はエイドリアン・ボールト。

3.1919年12月22日、クィーンズ・ホール・コンサートにて、作曲者ホルスト自身の指揮で、「金星」「水星」「木星」の3曲のみ演奏。

4.1920年11月15日、アルバート・コーツ指揮ロンドン交響楽団の演奏会において。初めての全曲公開演奏。

1〜4すべて演奏会場は、ロンドンのクィーンズ・ホール。

以上、「名曲解説全集第6巻 管弦楽曲III」(音楽之友社)より

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ヘルベルト・フォン・カラヤン
エードリアン・ボールト
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クラシック・ミュージック関連書籍(1)ガイド書・音楽理論
クラシック・ミュージック関連書籍(2)楽譜・スコア・音楽書
超個人的 ストコフスキー・ベスト5
リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」(2006年10月06日)
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調(2006年09月29日)
ワーグナー管弦楽曲集(2006年09月23日)
ビゼー:組曲「カルメン」&組曲「アルルの女」(2006年09月10日)
ホルスト:組曲「惑星」(2006年08月26日)
J.S.バッハ ストコフスキー編(2006年08月21日)

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