上陸許可を得た艦隊勤務の水兵さん2人組が、ハリウッドで4日間の恋人探し。
オープニングとエンディングに演奏される吹奏楽「錨を上げて」の高揚感! 明るく楽しい、MGM謹製ミュージカル・コメディ。
フランク・シナトラはサミー・カーン=ジュール・スタインのラブソング3曲(「ホワット・メイクス・サンセット」「チャーム・オブ・ユー」、「アイ・フール・イン・ラブ・トゥ・イージリィ」)を甘ったるく歌い、ジーン・ケリーはダイナミックなダンスを披露。
シナトラとケリーのデュエット・ダンスも愉快軽快。タップ踏むとき、ケリーの視線は正面向いてるのに、シナトラは足元ばかり気にしてるのが微笑ましい。「ザッツ・エンタテインメント」では、シナトラが「私がケリーにダンスを教え、私はケリーから歌を教わった」とか言ってたっけ。このころまでのシナトラは、これでもかってばかりに頬が痩けていたね。
他愛のない恋愛コメディではあるが、指揮者でピアノ奏者のホセ・イタービ(字幕ではイタルビと表記)のアクロバティックなピアノ演奏や、シナトラが一目惚れするキャスリン・グレイスンのコロラトゥーラなど見どころ満載。トム&ジェリーとアニメ合成されたケリーのダンスが最大の呼び物。いかにもMGMらしい娯楽ミュージカル。
MGMのスタジオをそのまま使い、ばかでかい野外音楽堂(ハリウッド・ボール)をロケしているのも、製作当時の記録として貴重。
海兵隊に憧れる男の子、メキシコ酒場でケリーとダンスする女の子も可愛かった。
「巴里のアメリカ人」でも子供たちと「アイ・ガット・リズム」を歌っていたけど、ジーン・ケリーは子供と遊んでるときに、すごくいい笑顔をみせるね。
ホセ・イタービ(イトゥルビと表記されていることが多い)は、その名前を冠したピアノ・コンクールが現在も開催されていることから、ある程度の格あるピアニストだろうと察するが、日本では無名に近い。この映画で見る限り、派手な演奏スタイルや、18人のピアニストでリストの「ハンガリー狂詩曲」を演ったりと、道化として人気があったのだろうか? 「オーケストラの少女」のレオポルド・ストコフスキーみたいなキャスティング。著名な音楽家の善意で話を強引に締めるところも、「オーケストラの少女」に似ている。
そのストコフスキーは、1940年の「ファンタジア」でミッキーマウスと共演していたが、この映画でも、当初はケリーのダンス相手にミッキーを考えていたとのこと。交渉したところディズニーに一蹴されてジェリーに変更。トム&ジェリーは水着の女王エスター・ウィリアムスとも共演(日本未公開だが「ザッツ・エンタテインメント」で見ることができる)。
ケリー&ジェリーの合成ダンスはほんとうに見事。対抗意識を燃やしたディズニーは翌46年「南部の唄」で実写とアニメを合成したミュージカル(「ジッパディドゥーダー」とスプラッシュマウンテンで有名な)「南部の唄」を製作した。人権団体からの抗議があって、「南部の唄」は現在は上映できない。ビデオ販売・ネット配信も停止しているらしい。
いろんな見せ場を詰め込んでいるものの、2時間20分の上映は長尺で、各エピソードが平坦に並べられている感じ。撮影所のカフェテラスでキャスリンとイタービが鉢合わせしちゃうあたりからの流れはご都合主義の極みで、MGMミュージカルでなきゃこんなストーリー、ゴミ箱にポイだよ。
太平洋戦争末期の1945年夏アメリカ公開。日本では好評だった「踊る大紐育」のあと, 1953年7月に公開されている。
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