ホーム・パーティの余興にイツァーク・パールマンがバイオリンを弾いてるくらい裕福な家族。その一家の一年間の出来事を、(それぞれの恋愛事情を主軸に)次女ナターシャ・リオンのナレーションでスケッチしたウディ・アレンのミュージカル・コメディ。
配役が超豪華。お父さん(弁護士・民主党支持)アラン・アルダ、お母さん(資産家の娘)ゴールディ・ホーン、腹違いの姉ドリュー・バリモア、その婚約者にエドワード・ノートン、双子の妹にナタリー・ポートマンとギャビー・ホフマン、義理の弟(共和党支持)ルーカス・ハース、お母さんの元夫でナターシャ・リオンの実の父親(フランス在住の作家)ウディ・アレン、その父親が恋心を寄せる美女にジュリア・ロバーツ、仮出所の与太者にティム・ロス。おじいちゃんパトリック・クランショー、(なぜかドイツ人の)家政婦トルード・クライン、宝石店のエドワード・ヒバート他、小さな役でも個性が面白い出演者たち。
バリモアの婚約破棄をめぐって親子で言い争ってるとき、家政婦さんと妹たちが玄関ロビーでホッケーやってたりとか、デティールが妙に面白い。
ロケーションがまた豪華。ニューヨークの春夏秋冬、夏のヴェニス、パリのクリスマス(ノエルって書いたほうがいい?)。観光名所をこれでもか、ってくらいカラフルに美しく撮ってある。写真集にまとめてもいいくらい綺麗。撮影監督はアレン映画常連のカルロ・ディ・パルマ。
音楽は、ウディ・アレンがこれまで自作のBGMで使ってきたような、1920-50年代に作られたスタンダード・ナンバーばかり。
これを出演者が吹替えなしで歌っているのが嬉しい(ドリュー・バリモアだけは吹替えだったらしい、残念)。ジュリア・ロバーツなんか、わざと下手に歌わせているのではと疑いたくなるほどだが、それがかえって微笑ましく、カワイイ。意外だったのがティム・ロスの美声。この汚れ役は演じていて楽しかったろうなあ。
ダンスも出演者本人が頑張ってる。しかも「フラッシュダンス」みたいに編集で誤魔化さないで、かつてのMGMみたいなカット割りで撮影されている。これってとても重要。
このあと製作されたバズ・ラーマンの「ムーラン・ルージュ」やロブ・マーシャルの「NINE」のような、MTV感覚のミュージカル映画には違和感があって、カッコイイとは感じても好きにはなれないんだ。
映画が始まるといきなり「ジャスト・ユー、ジャスト・ミー」をエドワード・ノートンが歌う。お世辞にも上手とは言えないが、頑張ってるなあ、と。
頑張ってる人を見ると応援したくなるじゃない。演技者と観客がグッと近づくんだよね。
歌はニューヨークの住人たちにリレーされ、リラックスした雰囲気が作られる。観ている人に幸福感をもたらす。この映画がどんな映画か、このファースト・シークェンスに提示されているわけで、それは成功している。
エドワード・ノートンは「宝石店のダンス」でも頑張ってる。ダンサーたちの群舞の背後でせっせとタップ踏んでる姿が健気だ。
「病院のダンス(メイキン・ウーピー!)」、拘束衣を脱ぎ捨てた精神病患者がモーリス・ベジャール風にジャンプして踊りだすのが面白かった。
「葬儀場のダンス」、死んだらおしまい、生きているうちに人生を愉しめ、というウディ・アレン哲学。ダンスにトリック撮影を用いているのは、フレッド・アステアのオマージュなんだろうな。
「ハロウィン・シークェンス」、こんな可愛いハロウィン見たことなかった。「月光のいたずら」、「チャイナタウン、マイ・チャイナタウン」、「チキータ・バナナ」、ちっちゃい子供たちがこんな古い歌よく知ってたなあ。家政婦さんに締め出し食らったダンディな男の子も可愛い。彼が歌おうとしていた曲は「プリテンド」か。
「マルクス・パーティ」、ダンスにマルクス兄弟の仕草が取り入れられていて楽しい。メル・ブルックス「プロデューサーズ」のヒトラー・オーディションも面白かったが、パーティ出席者全員がマルクス兄弟の仮装だなんて、このアイディア面白すぎる。
そして、アレンとゴールディ・ホーンによるファンタスティックな「セーヌ河畔のダンス」。タイミングを合わせようと必死になっているアレンの緊張感が、その表情にあらわれていて微笑ましい。
ダンスの振付けは、前作「誘惑のアフロディーテ」でもコロスのエンディング場面を担当していたグラシアーレ・ダニエーレ。振り返れば、アレン監督はあのころからミュージカルを撮りたくて、準備してたのだろうか。
また、のちのことに思いをめぐらせれば、これをきっかけに「ローマでアモーレ」や「ミッドナイト・イン・パリ」などの海外ロケへと向かったのであろうか。
ウディ・アレンがヴェニスでまさかのジョギング! と驚いたけど、「マンハッタン」のクライマックスでも彼は恋人のマンションまで走ってた。「アニー・ホール」でもアニーとの出会いはテニスコートだったし。運動とは無縁の人と勝手に思い込んでたけど、実生活ではエクササイズとか、身体に気を使ってるんじゃないのかな。でないと高齢で映画監督なんか続けられないもんな。
ミュージカル映画といえばとディズニー・アニメばかりだった不毛の1990年代に、突如として(ウディ・アレンという)思いも寄らないところから新作が出てきた。公開当時は、その新鮮な驚きに拍手を贈ったのだが。
あれからビデオで繰り返し観るたびに、どんどん好きになる。ほんとうに微笑ましいチャーミングな映画。死ぬまでにあと10回くらいは楽しみたい。
点