アメリカの軍事介入によって戦火が拡大したカンボジア。その現状を最前線から報道するニューヨーク・タイムズの記者と現地人のガイド兼通訳。戦況不利となってアメリカが撤退したあとも二人はプノンペンに残って取材を続けていたが、進駐してきた反政府極左過激派軍(クメール・ルージュ)が粛清による虐殺を始めると、アメリカ人記者は母国に帰り、通訳は強制労働キャンプに送られる。
「ミッドナイト・エクスプレス」のデヴィッド・パットナムが、シドニー・シャンバーグのノンフィクション(ピューリッツァ賞)を原作に製作したショッキングな力作。
痛ましい戦場の様子をドキュメンタリ風の映像で捉え、後半の脱走劇もサスペンスたっぷり、緊迫感が半端ない。
製作は1984年。当時は現地ロケなどできる状況ではなく、ほとんどの場面はタイ領内で撮影されたが、写っているエキストラなど人物の多くは内戦が続くカンボジアから逃れてきた難民たちだそうだ。
惜しいのは主人公の記者を演じたサム・ウォーターストンで、彼が画面に出ていると映画が作り物っぽく感じられてしまう。これはウォーターストンが悪いんじゃなくて、誰が演じていても同じだったろう。それくらい現地の景色や人物にリアリティがあったってこと。
通訳が銃殺されそうになったとき、それを寸前で止めたのがベンツのエンブレムをあげた少年だったというのは定番だが、監視の目を盗んで家畜の牛の生血を吸うなんて、体験がなければ思いもつかないような場面が随所にある。栽培していたトマトを引き抜いた少女の、きつく咎める眼差しも強烈で忘れられない。
白人ジャーナリストと現地人ガイドの人種と国境を超えた友情物語、などという安い映画ではない。ありきたりな甘いラストシーンのBGMにジョン・レノンの「イマジン」を使ったことでポイントを下げたが、アメリカ映画だったらもっと俗っぽいメロドラマになっていたことだろう。東西冷戦下の代理戦争に煽られ、命と尊厳を奪われた人々の悲劇として観客に伝えられたのであれば、パットナムの功績だ。
通訳役を演じたハイン・S・ニョールは、強制労働キャンプを実際に体験した素人役者で本業は産婦人科医。この映画の演技によりアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞で助演男優賞を受賞。労働キャンプでの体験記「キリングフィールドからの生還」(光文社刊)を執筆し、オリバー・ストーンの「天と地」などにも出演していたが、1996年にロサンゼルスで強盗に射殺されている。
日本では1985年8月、(「ランボー/怒りの脱出」と同時期に)公開された。どっちを先に観ようか映画館の前で迷っていたのを思い出す。
監督はテレビ出身で、これが劇場映画デビュー作となるローランド・ジョフィ。
記者が帰国した場面に、遠景の世界貿易センタービルがワンカットだけ入っている。
アメリカは、あれから少しでも変わったのだろうか。
カンボジアは、あのころ仕掛けられた地雷の撤去作業を今でも続けている。
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