インドネシアで過酷な経験をしてきた外人部隊の脱走兵ジャン(ジャン・ギャバン)。ヒッチハイクしたトラックに乗せてもらい、港町ル・アーブルへと向かう夜道で、ふいに飛び出してきた犬を急ハンドルで救けたがために運転手と言い争う。この冒頭のシークエンスから主人公の性格が鮮やかに表現され、さすがはマルセル・カルネと感心する。
街の外れにあるパナマ亭でベレー帽にレインコート姿のネリー(ミシェル・モルガン)と出会い、恋に落ち、彼女を巡って街の与太者(ピエール・ブラッスール)から恨みを買い、ペシミスティックな画家(ロベール・ル・ヴィギャン)から服と靴とパスポートを譲り受け、身分を偽っていったんは南米行の汽船に乗船するものの、ネリーが気がかりで会いにゆき、彼女に邪(よこしま)な気持ちを抱いていたネリーの養父(ミシェル・シモン)を殺し、表通りに出たところを与太者に背後から撃たれる。ネリーに抱かれながら絶命したとき、波止場に停泊していた船が、出港の汽笛を鳴らす。
昭和30年代に日活がさんざん模倣していたムードアクションの典型的なストーリーなのだが、本家はクオリティが違う。ジャック・プレヴェール&マルセル・カルネの練り込まれたセリフが板についている。毎度のことながら脇役の人物造形が細やかでユニーク。
モノクロームな霧の波止場の雰囲気が、幻想的で素晴らしい。
プレヴェール&カルネの粋は、パナマ亭主人(エドゥアール・デルモン)と画家(ロベール・ル・ヴィギャン)のやりとりによく出ていた。
パナマ亭で空腹を訴えるジャン・ギャバンは、ちょいとオーバーアクト。
ギャバンにビンタされるピエール・ブラッスールの泣き顔がいい。もう一度見たい。
命の恩人のギャバンを慕ってつきまとう犬の扱いが作為に感じられるが、しかし何と言ってもこの映画のいちばんの魅力は、製作当時17歳だったというミシェル・モルガンの初々しい美貌だな。
点