スペースシャトルで船外活動中に突発事故が発生、漆黒の宇宙空間へ放り出される2人の宇宙飛行士。残された酸素は2時間分。地球との通信手段も断たれ救助も期待できない絶望的状況のなか、はたして無事生還できるのか。
無重力の暗黒世界を圧倒的な臨場感で再現したサバイバルドラマ。
おれはCG多用のデジタル撮影に否定的ではないけど、歓迎もしてない。
高解像度のデジタルで完全複製されたゴッホやセザンヌに価値はない。
早い話が「アラビアのロレンス」の砂漠が最初からCG合成と分かっていたら感動はないし、何度も見たいとは思わない。画面から出演者やスタッフの知恵や工夫が、手作りの苦労や温もりが伝わってこない映画は好きじゃない。
そんなおれが嘘偽りなく腰を抜かした驚異のデジタル映像。
映画黎明期にジョルジュ・メリエスが蒔いたトリック映画の種は 100年の歳月を経て驚くべき進化を遂げた。これぞ21世紀の大見世物(スペクタクル)!
地表から 600kmの上空で事故に遭遇した女性が、孤立無援の絶望的状況に陥り、無事地上に戻るまでの単純なストーリー。撮影技術もさることながら、細部に凝ったプロダクション・デザインが実にリアル。
脚本は監督のアルフォンソ・キュアロンとその息子のホアス・キュアロンの共同執筆。
インターネットでとことん調べ、初稿を書き上げたときは宇宙物理学者になったような気分の二人だったけど、NASAの科学者に読ませたところ、どこもかしこも間違いだらけでがっかり。宇宙飛行士を交えてリサーチをやり直し、できる限り実現可能でリアリティに沿う形に改稿したら、どんどんつまらないものになっていく。そこで現実を反映しながら、映画として楽しめるような嘘も採り入れたとの事。
実際のMI6に、命令無視して無謀な行動を繰り返す女好きのスパイは在籍していない。なにがなんでも本当のことじゃなきゃ認めんという人は、BBCやNHKが制作してるドキュメンタリー番組だけ見てなさいって事だ(そこに嘘が入ってないって保証はないけどね)。
サンドラ・ブロックという(ヒラメ顔の)女優さんは、これまでたいして気に留めてこなかったけど俄然見直した。最初から最後まで出ずっぱりなのだが、どうやって撮ったのか見当もつかない驚異の特殊撮影のなかで、肉体をフルに使っての熱演。
ラスト、大地にすっくと立ち上がる姿に素直に感動した。
最初のワンショット(これがもう凄いワンショット、ワンシーン)から目が釘付けになるのだが、唯一気に食わないのが幽霊の登場。
精根尽きて死の訪れを待つだけになったとき、宇宙の果てに消えていったはずのジョージ・クルーニーが戻ってきて、最後まで諦めるなとサンドラを励ます。そこで再度奮起して地球生還へ向けて行動を起こすのだけど。もちろんこれは彼女の幻覚で(「惑星ソラリス」じゃないのだから)宇宙の神秘現象とは違う。
日本の不細工なテレビドラマでもたまに見かける、仏壇に手を合わせて拝んでると、死んだ家族やご先祖様の声が聞こえてきて次の行動へのヒントを授けるっていう(ストーリーに都合の良い)安直極まりない手法。これやられると一気にシラケる。
「スター・ウォーズ」のようなお伽噺でも(デス・スター攻撃の際にオビワンの声が聞こえてきて)興醒めしたのに、リアルなドラマでは絶対やっちゃダメだ。
点