実際の事件をもとに両親を刺殺した青年を描いた中上健次の短編小説「蛇淫」を映画化。
製作:今村昌平、脚本:田村孟、監督:長谷川和彦。
公開当時は映画賞総なめで大絶賛。キネ旬ベストテン決算号の表紙に水谷豊と原田美枝子が並んだ。原田美枝子はデビュー時からうまい女優さんだと思い込んでいたが、そうでもなかった。肉体言語というか、(おっぱいの)存在感に騙されていたのだろう。「事件」の大竹しのぶも見事だった。あと「サード」の森下愛子とか。これも時代。
自嘲してばかりな主人公に共感はできないにしても、嫌悪や憎悪につながらないのは時代の空気を共有できていたからこそ。いま21世紀の若い方が観ても、気持ち悪い鬱陶しい映画にしか映らないと思う。
前半ハイライトの(たっぷりな)母親殺しは(撮影が大変だったろうと)出演者やスタッフの苦労に感服。市原悦子(殺される母親)の感情が秒刻みで変化し暴れまわる。映像密度の高いサスペンス・ホラー。ここでお腹いっぱい疲れてしまうので、水谷豊と原田美枝子の逃避行が描かれる後半は、散漫で冗長に感じられた。スナックに戻った主人公が暴走族の客を追い出す場面、凶行直後の異常心理をもっと押したほうが良かったのにと思う。
主人公が高校時代に友人たち(江藤潤、桃井かおり)と撮った8ミリ映画や、成田の機動隊による検問場面などに、全共闘世代の残氓が滲んでいる。暴力、セックス、反体制、芸術(アート)。アメリカン・ニューシネマに影響(洗脳か?)された世代は、幸か不幸か、この時代の臭いがとてもよく分かる。
当時の空気感をもっとも残しているのはゴダイゴの(ダサい)音楽。
点