地味な仕事でコツコツと貯めたお金で休暇をとり、ヴェニスに観光旅行。
恋愛に縁がなかったオールドミス(死語!)のキャサリーン・ヘプバーンが、現地の骨董屋主人(ロッサノ・ブラッツィ)とつかの間の恋を楽しみ、アメリカに帰ってゆく。
さすがにデヴィッド・リーンが撮ると観光映画でもワンショット、ワンショットに説得力がある。アーサー・ローレンツの舞台劇をリーンとH・E・ベイツが共同脚色。単純に名所を見せるだけでなく、土地柄というか情感が伝わってくるジャック・ヒルデヤードの撮影が素晴らしい。やっぱり観光映画はカラーが嬉しい。
ヘプバーンは、キンキンした声と早口でちょいと苦手な女優さんだけど、本作は役柄がうまくマッチして好感。中年女性の独立心と孤独感が素直にスケッチされている。運河に小石を投げるシーンとかいいね。くちなしの花で男の純情を嫌味なく見せたロッサノ・ブラッツィも好演。
8ミリ・カメラで観光名所を撮りまくるヘプバーン他、アメリカ(戦勝国)観光客の皮肉も苦笑を誘う。(たぶん戦争で孤児になった)アンディエロ少年がいいアクセントになっている。彼を敗戦国イタリア側の視点で追いかけるとデ・シーカの「靴みがき」になる。ラブシーンの花火置き換えも無理がない。カップルがゴンドラに乗るってことは、つまりそういうことなのね。
ビーフステーキがなければ目の前にあるラビオリを食べればいい。
点