MGMに身売りしたバスター・キートンは、プロデューサー主導の大企業システムのなか、アドリブのギャグを禁止され監督権を剥奪され個性を封印させられた挙げ句、酒に身をやつして消えていった。
同時にトーキー映画が隆盛し、サイレント喜劇から観客の足は遠退いていった。本作でのカメラはあきらかにトーキー映画のそれであり、サイレントらしからぬフレームの枠にこれまでバスター・キートン映画で見られたアクションのテンポとダイナミックスは薄められ、ぐっと普通に寄せられている。
それでも移籍後第1作の「カメラマン」は、見どころの多いキートン喜劇の傑作だ。
街頭でインスタント写真を撮っていたキートンは、パレードの最中に受付嬢マーセリン・デイに一目惚れ。彼女が勤務するMGMニュース映画社に売り込むため、おんぼろ撮影機を購入して孤軍奮闘。とくダネを求めて火事現場(サイレン鳴らして走っていた消防車は署に回送していたというオチ)や野球場(ヤンキースの試合はアウェイで球場は無人だったというオチ)へ。撮ってきたフィルムは、二重露光でニューヨーク・アベニューに戦艦が重なったもの(これはこれでシュールレアリスムな凄い映像)で、映写室で笑い者になる。見かねたマーセリン嬢は、中華街のスクープ情報をこっそり彼に教える。
賑やかなお祭りの最中に中華ギャング同士の銃撃戦が始まり、キートンは必死でカメラのクランクを回す。ここが最大の見せ場。ジャッキー・チェンも絶対参考にしている大活劇。セーラー服が可愛い小猿のジョセフィンに食われている気もしないではないが。絶体絶命のピンチは警官隊の突入で救われる。ここがMGMらしいストーリー展開で、キーストン・コップスとは真逆な警官の登場に普通すぎないかとガッカリ。
事務所ドアのガラスを割る繰り返しのギャグもパターンどおりで、ぜんぜんキートンらしくない。
小猿の悪戯でフィルムがすり替えられ、キートンは失意のどん底に落とされたものの、小猿がクランクを回して水難事故の一部始終を撮影していたことで、ハッピーエンドな大団円を迎える。普通のラブコメとしては上出来の部類。
ヤンキース・スタジアムの一人野球は、サイレント時代の終焉をみているようで感傷的な気分になる。
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