ジェラール・フィリップ&ルネ・クレールのコンビ2作目。近隣の騒音にノイローゼ気味の音楽教師(ジェラール・フィリップ)が夢の世界に現実逃避する話。
夢の中で取っ替え引っ替え美女にモテまくるのだが、ジェラール・フィリップだとラブシーンがちっとも嫌らしくなく、かえって微笑しい。夢シーンの背景はカリカチュアされた簡素なセットで、カメラのパンとワイプで、現実と夢を行ったり来たり。その趣向が面白い。「昔はよかった」とボヤく老人の言葉に誘われて、どんどん時代を遡り、ついに先史時代までいってしまうが、どこまでいっても夢の結末は支離滅裂な悪夢になってしまう。現実世界で破いてしまったズボンが夢の中でも破けていたり、寝る時間が遅くなったために、夢で約束していた逢引きに遅刻してしまったりという、他愛のないギャグが面白い。
結局、現実世界に戻ってくると、音楽コンクール優勝の通知があり、修理工の娘と結ばれてハッピーエンド。「オズの魔法使」とか「ミッドナイト・イン・パリ」とか、現実逃避のファンタジーでハッピーエンドだと、だいたいこのパターンでオチる。
たまにテリー・ギリアムとかキューブリック(「時計じかけのオレンジ」)みたいな捻くれたのもあるけど。
登場する3人の美女(マルティーヌ・キャロル、ジーナ・ロロブリジーダ、マガリ・ヴァンドイユ)はそれぞれに綺麗な女優さんだけど、お人形さんみたいな扱いで、グッと迫るものがない。それより近所に住む男たちのユーモラスな人情が印象に残る。郵便配達と喧嘩したり、月賦屋にピアノを差し押さえられそうになったり、警官と口論して留置所に入れられたり。夢の世界に戻るため睡眠薬を買う主人公を心配する友人たちがクレールらしくて、ここがこの映画でいちばん好きなところ。ご都合主義のドタバタ喜劇なのだが、この監督の映画はくだらないストーリーにも気の利いた細工が施されているし、ギャグもやたらエキセントリックに走らない節度と品があって好感がもてる。
「ル・ミリオン」と同じく全編を歌と音楽で綴っていくオペレッタ風。効果音を巧みにストーリーに取り込むのはルネ・クレールが得意とする作劇法。
主人公がどんなに追い詰められても、映画が明るく朗らかで楽しいのはジェラール・フィリップだから。夢さえ見られれば留置場の中でも幸せというテリー・ギリアム風な異常な状況でも、ファンファンの無邪気な寝顔だとヤバい感じがしない。
常連レイモン・コルディは自動車修理工でヒロインの父親役。その工場で働いている友人レイモン・ビュシェール、薬屋のジャン・パレデス、警官のベルナール・ラジャリジュがいい味を出している。アラブの姫君が入浴する場面でジーナ・ロロブリジーダのヌード(背中と尻だけ)があるけど、たぶんダブルだろうな。
クライマックスの(コマ抜き)追いかけっこはハリウッド仕込み。後ろ向きに疾走する馬はナンセンスで面白い。どうやって撮ったんだろう?
点