キャロル・ウェルスマン:インクラインド
February 08 2011
ボーカル・ア・ラ・カルト
カナダ出身、金髪、長身、ピアノも弾く美人シンガーということで、なにかとダイアナ・クラールと比較されることが多いキャロル・ウェルスマンが、カナダのレーベルでレコーディングしたセカンド・アルバム。
CDは廃盤。MP3ダウンロードのみ購入可能(2011年2月現在)。
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Carol Welsman:InclinedWelcar 01 Beyond the Sea キャロル・ウェルスマン(vo、p) |
収録曲にご注目。
ジャンゴ・ラインハルトの演奏ですっかりジャズのスタンダードとなったドビュッシーの「ビヨンド・ザ・シー(ラ・メール)」、カルロス・ジョビンのボサノヴァ「ワン・ノート・サンバ」、チック・コリアの「ラ・フェスタ」、ペギー・リーのヒット曲「フィーヴァー」、ミッシェル・フュガンのヒット曲「鳥のように(Fais Comme L'oiseau)」、アレックス・ワイルダーのスタンダード・ソング「アイル・ビー・アラウンド」、フランス民謡「キラキラ星」、それに3曲のオリジナル曲……バラエティに富んだ選曲というか、かなり無節操。
このケジメのない選曲は、彼女のプロフィールを素直に反映している。
カナダ・トロント生まれのキャロル・ウェルスマンの祖父はトロント交響楽団の創設者フランク・S・ウェルスマンで、両親ともに音楽家。音楽環境に恵まれた家庭に育ち、10歳ごろからギターでボサノヴァやフォークソングを弾いていたという。父親が大のジャズ好きで、彼女が幼いころから愛娘同伴でジャズ・クラブ通いしていたとのこと。
ハイ・スクール時代にクラシック・ピアノを始め、バークリー音楽院で2年ほどピアノを学んだのち、フランスに渡り、クリスティアンヌ・ルグラン(ミシェル・ルグランの姉)にヴォーカルを教わっている。
1990年からカナダで演奏活動を開始。
1995年にカナダの Welcarレーベルよりデビュー・アルバム『Lucky To Be Me』をリリース。オスカー・ピーターソンやハービー・ハンコックに認められ、2000年 JUNOアワードのベスト・ジャズ・ヴォーカリストに選出。
ダイアナ・クラールを輩出した Justin Timeと契約し、『Carol Welsman』でメジャー・デビュー。ベニー・グッドマンやペギー・リーのトリビュート・アルバムもレコーディングし、最近のポピュラー・ソングからボサノヴァ、スタンダード・ソングまで、キャロルのレパートリーは幅広い。
作詞作曲もこなし、デビュー・アルバム収録の「This Lullaby」は、セリーヌ・ディオンによってカヴァーされているとのこと。
現在、ロサンゼルスを拠点に活動中。アメリカではまだ無名に近い。
レコーディング・データがないので誰なのか分からないが、バックの演奏(たぶんカナダのミュージシャン)は、キャロルのピアノを含むトリオ編成で、曲によってサックスやギターが入る。
選曲はぐちゃぐちゃだが、アルバム全体のムードは統一されている。BGMで軽く流している分には快適なアルバムに仕上がっている。
ダイアナ・クラールと比較されるのは仕方ない。
ダイアナが Verveに移籍する前に契約していたカナダの Justin Time から全米デビューしているし、生年月日は公表されていないが(たぶん)年齢も同じくらいだと思う。レコード会社としても、当分は「第2のダイアナ・クラール」としてセールスするしかないだろう。
ブロッサム・ディアリーとグループ(ザ・ブルースターズ・オブ・フランス)を組んでいたクリスティアンヌに歌唱指導を受けたことからも分かるとおり、キャロルのボーカルは軽くあっさり風味。
粘っこいブルース・フィーリングは皆無。
どちらかと言えば、ダイアナはジャズ寄り、キャロルはコンテンポラリー系(スムース・ジャズ)に傾いているように思う。
ジャズ・ピアノの腕前は、段違いでダイアナのほうが上。
アルバムに収録されている3曲のオリジナルを聴くかぎり、ジャズはスッパリ切り捨てて、コンテンポラリーなシンガーソング・ライターとしてセールスしたほうが売れそうな気がする。このままでは、先行したダイアナの影に隠れて、埋もれてしまうかも知れない。