soe006 「日本沈没」 2006年版

日本(否)沈没

July 18, 2006

大ヒットしているってことで、連休を避け、平日に観てきました。
リメイク版『日本沈没』。

なるほど、けっこう混んでます。
平日の昼間(朝の一回目の上映は割引なんですよ)なのに、私と同年輩の一見サラリーマン風の(ネクタイしめてる)オッサンもちらほら。外回りの営業マンが涼を求めて来ているんでしょう。久しぶりに素敵な雰囲気です。70年代の映画館は、いつもこんな感じでした。
映画館に不良なおっさんが戻ってきた。その点は褒めておきましょう。

映画の中身は、(まだ公開されて間もないので詳細は略しますが)あまり褒められたものじゃない。
前回の映画化にさえ不満を持っている人が多い原作のファンは、激怒すること間違いなしの珍作。

ストーリーを改変するな!
……とは言わないけど、やるからにはちゃんとやろう。
未見の方への配慮として詳しくは書かないけど、南極大陸に原子力パイプを並べて巨大隕石の衝突を回避した『妖星ゴラス』よりも百倍凄い科学考証に、唖然呆然脱糞寸前危機脱出。
きっとアレだろうな。ばかでっかい円盤が攻めてくるあの映画や、ばかでっかい隕石が接近してくるあの映画を観た製作者が、あの精神って日本が本家やんけ、我々がやらんでどうする、やってやろうじゃないか、それで観客に滂沱の涙を流させてやろうじゃないか……ってな意気込みで変えちゃたんだろうな。(……憶測だけど)
気持ちは分からないでもないが、あきれて開いた口が塞がらないほどのショック。
もしかして、これは壮大なギャグ映画じゃないのか?……いや、たぶんそうなんだろうな。笑うか怒るかの二者択一を、観客につきつけるストーリーだもの。

政府閣僚など政治家の登場人物はかなり多いけど、(原作がもっとも力を入れていた)ポリティカル・ドラマの部分は薄ぅ〜く作ってあります。つまり、原作のテーマなんか知ったことじゃないって態度。超弩級の素材を与えられながら、なんと安っぽく仕上げてしまったことか。もったいないもったいない。
ストーリーの粗(あら)について書き出したら、ノンストップで地球を七回り半してしまいそうなのでやめますけど……沈没の予測をアメリカが発表してから、日本の調査チームが動き出すって冒頭の流れが、テポドン騒動の時と同じみたいで嫌でしたね。
日本の異端科学者が独自の嗅覚でキャッチし、政府が秘密裏に(外国に知られる前に)調査、シミュレーション、関係省庁への根回し、マスコミ対策、避難・移住計画をすすめていくところが、原作の醍醐味でしたから。

樋口真嗣は、9歳の時に森谷司郎版『日本沈没』を観てこの業界に入ろうと決意したとのことだけど……これは、宣伝部が捏造した売り込み文句でしょう。とても森谷版に心酔した人間が作った映画とは思えないもの。
ゴジラにまったく思い入れのない北村龍平が撮った、『ゴジラ FINAL WARS』と同じような匂いがしました。

小松左京が絶対に書きそうにない、ヒロインの不自然な設定も嫌だったなあ。原作のまま(阿部玲子)じゃ出番も少ないし、現代では浮いてしまうってのは分かりますけどね。だからってアニメの登場人物みたいなのは、別の意味で浮いちゃってるじゃないのさ。
またこの女性レスキュー隊員の演技が、とても酷いんだ。滑舌の悪さは素人以下。この人が絡むメロドラマ部分のなんと稚拙なこと。
ヒロイン抜きで作ったほうが良かったんじゃないの? そんなに集客力のあるスターさんでもないんでしょう? どうせアクション場面はスタントマンとCG合成なんだし。
草なぎ剛には恨みはない(ってか、興味もない)のだけど……草なぎ主演でなきゃ、もっと動員を見込めたんじゃないのかなあ。
アイドル映画は観たくないって大人は、アイドル映画だから見に行くって若年層より、(この映画の場合に限り)多いように思うんだけど。

年間2〜3本しか映画を観ない人が、夏休みにこれを選んだら……「やっぱり日本映画は駄目だねえ」って声が、また大きくなるんだろうなあ。観る人が多いだけに、その効果は絶大。七代祟るよ、きっと。
余計なお世話かも知れないが、今回の映画版だけを観て『日本沈没』を判断しないで欲しい。小松左京の原作小説には、今回のちゃちな映画からは想像もつかないほど、深くて壮大なテーマが(本当は)あるんですよ。

もうこうなったらやけくそで、『日本以外全部沈没』に大期待!
幾ら酷いったって、『日本沈没』に比べりゃ少しはマシだろう。

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