多彩な芸術分野で活躍した(今風にいえばマルチ・アーティスト)ジャン・コクトーによる恋と陰謀の宮廷劇。
舞台となっているオーストリア風の国家は架空のものと最初にクレジットされるが、モデルはあるらしい。その類の知識に疎いのでよくわからんけど。
10年前に国王が暗殺され未亡人となった王女(エドウィジュ・フィエール)と、彼女を暗殺するべく城に侵入した若きリベラリストの刺客(ジャン・マレー)との恋を、古典劇そのままのロマンチシズムで描いている。
シェークスピアをかなり意識したストーリーで、劇中でも「ハムレット」が朗読される。
城内のセット(美術)、衣装が、ことごとく素晴らしい。本場欧州の皇族趣味がこれでもかとばかり絢爛に溢れている。
しかしなんと言っても最大の見ものは、ヒロインを演じたエドウィジュ・フィエール(撮影当時40歳だったらしい)の気品に満ちた美貌! そのウェストの細さ!
屹立として感情を抑制しつつ、漏らしてなお堕ちない威厳と品位。こんな凄くて美しい女優をいままで知らなかったなんて。
ジョルジュ・ランパン版の「白痴」にも出演しているとのこと。
ドストエフスキーの「白痴」は40年くらい前に黒澤明版を池袋文芸坐のオールナイトで観ているが、あのときの原節子も美しかった。外に威圧的で内に自虐的なナスターシャ役はさぞ素晴らしいと思う。近いうちにDVDを探してぜひ観てみたい。
映画の序盤、王女は王の喪に服していて、顔は黒いベールで隠されている。素顔が現れるのは15分後くらい。さらにジャン・マレーの刺客登場はその後5分くらい経ってから。
それまでの話がなかなか呑み込みづらいのは(先に書いたように)19世紀の欧州事情に疎いから。製作当時の仏蘭西の観客には「ああ、これってあの話ね」ってすんなり理解されたのだろう。
ラストの階段落ちはジャン・マレー自身がスタントなしで演っている。すごい。
点