アーネスト・ヘミングウェイ特集(5本)
2021/01/25
戦場よさらば
A FAREWELL TO ARMS
1932年(日本公開:1933年07月)
フランク・ボーゼージ ゲイリー・クーパー ヘレン・ヘイズ アドルフ・マンジュー メアリー・フィリップス ジャック・ラ・ルー
ヘミングウェイ原作、ゲイリー・クーパー主演の戦場メロドラマ。
ヒロインを演じたヘレン・ヘイズの名前に覚えがあったので調べてみたらと、なんと「大空港」のお茶目なお婆ちゃんだった。ブロードウェイで名を馳せた舞台女優だったが、本作の好演により映画出演が増えたとのこと。
ストーリーは定番どおり。前半まどろっこしく、後半は端折りすぎ。
プロットを動かす軍医(アドルフ・マンジュー)の感情変化がうまく出せていないので、ご都合主義な展開にみえてしまう。
脱走後の戦場場面のモンタージュに、原作の厳しさと監督の個性が出た。
60点
#アーネスト・ヘミングウェイ特集
2021/01/26
誰が為に鐘は鳴る
FOR WHOM THE BELL TOLLS
1943年(日本公開:1952年10月)
サム・ウッド ゲイリー・クーパー イングリッド・バーグマン エイキム・タミロフ アルトゥーロ・デ・コルドヴァ カティーナ・パクシヌー イヴォンヌ・デ・カーロ ミハイル・ラサムニー
1930年代のスペイン内戦を舞台に、山岳地域の鉄橋爆破任務についた米国軍人と、両親をフランコ反乱軍(ファシスト派)に殺され自らも頭を坊主に刈られ性的暴行を受けた若い娘の、ロマンス入り戦争活劇。
ゲイリー・クーパー、イングリット・バーグマン共演。
ヘミングウェイの原作小説から複雑な戦時状況を省略し、単純な冒険メロドラマに仕立てたところがハリウッド・スタイル。サム・ウッドの監督作の中では良くできている方。けっこう面白い。
主演の2大スターで見せる映画ではあるが、洞窟をアジトとするレジスタンス(人民戦線)の女性闘士ピラー(カティーナ・パクシヌー:アカデミー助演女優賞)、臆病風に吹かれ裏切り気配をみせるエイキム・タミロフ(ゴールデン・グローブ助演男優賞)など、髭面の脇が良い表情をみせる。
クーパーもバーグマンも、あと10歳若くないと役柄のリアリティが出ない。
日本初公開時は150分。その後、長い間短縮版(130分)でリバイバル上映されていた。以前見たのはこの短縮版。今回のDVDはオーバーチュアとインターミッション付きのワールドプレミア上映版(165分)。パラマウント40周年記念超大作なのに、DVDの販売元はユニバーサル・ピクチャーズ。
70点
#アーネスト・ヘミングウェイ特集
2021/01/28
殺人者
THE KILLERS
1946年(日本公開:1953年04月)
ロバート・シオドマク バート・ランカスター エヴァ・ガードナー アルバート・デッカー エドモンド・オブライエン サム・レヴェン ヴァージニア・クリスティーン ジャック・ランバート ヴィンス・バーネット ウィリアム・コンラッド チャールズ・マックグロー
田舎町の食堂に怪しげな二人組が現れ、ガソリンスタンドに勤めていた元ボクサーの男を射殺する。ここまでがヘミングウェイの短編小説。
その後に展開する、殺された元ボクサーの身元を保険調査員が捜査していくうちに、数年前にあった工場の給料強盗事件が絡んでいたことが分かり、殺された男を色香で操っていた悪女の存在など、事件の真相を暴くという流れは、脚本家アンソニー・ヴェイラーのオリジナル。
1964年にリメイクされたドン・シーゲルの「殺人者たち」では、殺される男が元レーサーで、事件の真相を追うのは殺し屋(リー・マーヴィン)だった。
主人公は回想シーンで描かれるボクサー崩れの男(バート・ランカスター)だが、狂言回しの保険調査員(エドモンド・オブライエン)のほうが出演場面は多い。殺し屋やギャングの男たちも個性が出ていて悪くないが、この映画で最も輝いているのは、悪女役のエヴァ・ガードナー!
デビュー間もないころの出演だが、彼女のファム・ファタールぶりが見られただけで満足。ピアノの前で歌う彼女に、ぼーっと見とれてしまうランカスターの気持ち、わかる分かる。ラストの自己保身丸出しのアップはすごいぞ。
殺し屋が食堂に入っていくとき、ひとりは表から、もうひとりは裏口からと、冒頭シーンからゾクゾクさせる。
クレーンを使った工場強盗の長回しもいい。ロバート・シオドマクの職人芸。
ストーリーも人物設定もフィルム・ノワールの典型。
入り組んだ回想場面に誤魔化された感じもあり、よくよく考えると小さな穴も散見されるだろうが、スピーディな展開で最後まで飽きない。
タランティーノがリメイクしたら3時間くらいになるんじゃなかろうか。
60点
#アーネスト・ヘミングウェイ特集
2021/01/28
破局
THE BREAKING POINT
1950年(日本公開:1951年09月)
マイケル・カーティス ジョン・ガーフィールド パトリシア・ニール フィリス・サクスター ワレス・フォード シェリー・ジャクソン
ヘミングウェイの同じ原作を元にしているため、ホークス&ボガートの「脱出」(1944)のリメイクと思われているようだが、まるきり別物。出来も雲泥の差がある。もちろん「カサブランカ」の焼き直しみたいな「脱出」より、この「破局」のほうが数段上出来。
漁船の船長ジョン・ガーフィールドとその妻フィリス・サクスター、そして二人の幼い娘たち。この夫婦愛、家族愛が主人公の動機として働き、金と女が動機となる幾多のフィルム・ノワールとは一線を画す。
パトリシア・ニールはファム・ファタールな役回りにしては魅力が薄く存在感が弱い。しかし夫を引き留めるため、奥さんが彼女のブロンドを真似てヘアスタイルを変える場面につながり、まったく不要というわけでもない。サクスターが健気でいじらしい。
主人公と暗黒街をコンタクトするウォーレス・フォードも、悪い奴だが憎めないタイプで面白い。主人公と黒人の相棒フエノ・ヘルナンデスの関係に、主従の格差が感じられないのも良い。
この時代に製作された米国映画では、それが市井の人であったとしても、登場人物たちの銃の扱いに躊躇いがない。第二次大戦の匂いが残っているからだろう。メキシコから密入国しようとした中国人のボスも、競馬場の売上を強奪したギャングたちも(このタイプの映画の定番キャラではあるが)生々しい存在感があった。
なにがあったのかも分からず独り波止場に残された黒人少年のラストシーンに、胸が締め付けられる。傑作。
70点
#アーネスト・ヘミングウェイ特集
2021/01/27
キリマンジャロの雪
THE SNOWS OF KILIMANJARO
1952年(日本公開:1953年01月)
ヘンリー・キング グレゴリー・ペック エヴァ・ガードナー スーザン・ヘイワード ヒルデガルド・ネフ レオ・G・キャロル トリン・サッチャー エヴァ・ノリング ヘレン・スタンリー マルセル・ダリオ
ヘミングウェイ自身をモデルとしたような主人公(グレゴリー・ペック)が、カバ狩りの怪我で壊疽をおこし瀕死の状態。朦朧とした意識のなかで過去の女性遍歴を回想する。
近くの木にハゲタカが集まり余命をおびやかす。屍臭に誘われハイエナもやってくる。最後は木に集まっていたハゲタカの姿が消え、ハッピーエンド。他愛ないとか、ヌルいとか、甘いとか、現代の眼で観れば厳しいところもあるだろうけど、ハリウッド黄金期の大作(製作はダリル・F・ザナック)だけあって見どころは多い。
短編小説にオリジナル・ストーリー(回想場面)を追加し、アフリカ、パリ、リビエラ、スペインと、テクニカラーで撮られた風景が美しく豪華。撮影のアングル、照明、色彩が見事。ヘミングウェイの原作映画化のなかでは、いちばん好きな作品。
主人公を取り巻く3人の女優(パリで知り合うエヴァ・ガードナー、彫刻家で資産家のヒルデガルド・ネフ、アフリカで主人公の面倒を見ているスーザン・ヘイワード)が綺麗。エヴァ・ガードナーが最高に良い。ネフは素っ裸でリビエラの湾を泳いでいる。ドッキリしたが、よく見ると薄い肌色の水着を着用していた。ずっと看病しているヘイワードは地味な役回りで損してる。
主人公の行動が波乱万丈で、冒険心をくすぐられる。
ヘミングウェイの他の小説からも引用されたセリフに味がある。
ただ、主人公の作家を演じたグレゴリー・ペックは、ヘミングウェイの野性味が乏しかった。「白鯨」のエイハブ船長も迫力なかったし、ペックは汗とか無精髭とかギラギラしたものが似合わない俳優だった。
パリのカフェバーでアルトを吹いているのはベニー・カーター。雰囲気のある色合いで撮られていてとても格好良い。
終盤に登場するウィッチドクターの神秘性を強めて、アフリカン・ファンタジー色を濃く描いていれば、もっと面白くなっていただろう。(原作では、キリマンジャロ山頂にある豹の亡骸に想いを馳せながら主人公は死を迎える)
異国趣味たっぷりのテクニカラーなので、より良質の版で楽しみたいのだが、版権所有のメーカー(20世紀フォックス)からDVDはリリースされていない。
65点
#アーネスト・ヘミングウェイ特集