ヒッチコックの映画術(1)|映画スクラップブック


ヒッチコックの映画術(1)(8本)

2021/01/16

恐喝(ゆすり)

恐喝(ゆすり)|soe006 映画スクラップブック
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BLACKMAIL
1929年(日本未公開)
アルフレッド・ヒッチコック アニー・オンドラ サラ・オールグッド チャールズ・ペイトン ジョン・ロングデン ドナルド・カルスロップ シリル・リチャード

ヒロイン、アニー・オンドラが可愛い。
自己中で移り気、性格は褒められたものじゃないが、カワイイから許す。そんなタイプ。超かわいい。

序盤はロマコメも得意なヒッチコック。

彼女たちがデートするレストランで最初に流れていたBGM、ウディ・アレンの映画でも使われていたスタンダード・ナンバーだが、曲名が思い出せない。アレンのどの映画だったかも思い出せない。これも歳のせい。

殺人直後のアニー・オンドラのギクシャクした仕草・表情が最高。
「キャリー」の(豚の血を浴びた)シシー・スペイセクを思い出した。

恐喝(ゆすり)_アニー・オンドラ

ヒッチコックの小技が随所に。

画家(被害者)が描いていた道化師の絵、ダニー・デヴィートに似ている。ボブ・ホスキンスにも似ている。

クライマックスは大英博物館。
ヒッチ映画では犯人が高いところに登ると、たいてい落下して死ぬ。

恐喝(ゆすり)

不可抗力とはいえ、人の命を奪ったヒロインは証拠隠滅で無罪放免。
アンモラルなハッピーエンドがヒッチらしい。

60

2021/05/26

暗殺者の家

暗殺者の家|soe006 映画スクラップブック
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THE MAN WHO KNEW TOO MUCH
1934年(日本公開:1935年12月)
アルフレッド・ヒッチコック レスリー・バンクス エドナ・ベスト ピーター・ローレ ノヴァ・ピルブーム フランク・ヴォスパー ヒュー・ウエイクフィールド ピエール・フレネ

犯罪組織の陰謀に巻き込まれた夫婦が、暗殺計画を阻止し、誘拐された娘を救出する。ジェームズ・スチュワート&ドリス・デイでリメイクされた「知りすぎていた男」のオリジナル版。ストーリーはコンパクトに構成されていて、上映時間も1時間14分と短いものの、ずいぶんのんびりした印象なのは、毛糸のいたずらとか椅子投げ合戦とか、馬鹿馬鹿しいユーモアがサスペンスの邪魔をしているから。

暗殺者の家

陰謀団のボスを「M」のピーター・ローレが演じていて、当時としては風変わりな悪役キャラでちょいと面白い。主人公の夫(レスリー・バンクス)は存在感薄く魅力がない。妻(エドナ・ベスト)は射撃の名手という設定で、ご都合主義的ではあるが、娘救出の見せ場を作ってある。娘役はこのあと「第3逃亡者」でヒロインを演じていたノヴァ・ピルブーム。

アルバート・ホールで演奏されるカンタータはアーサー・ベンジャミン作曲の「ストーム・クラウド」。リメイク版も同じ曲を演奏し、同じ箇所で暗殺者は狙撃していた。
クライマックスは、アメリカのギャング映画に影響されたかのような、警官隊と陰謀団の銃撃戦。

「下宿人」(1926)、「ゆすり」(1929)、「殺人!」(1930)以外にも様々なジャンルの映画を撮っていたヒッチコックが、サスペンス専門の、やがて巨匠と呼ばれるに至る契機の作品であり、フィルモグラフィ的には重要とされるが、「知りすぎていた男」のオリジナル版であること以外に、いま見る価値はないように思った。

60

2021/05/26

三十九夜

三十九夜|soe006 映画スクラップブック
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THE 39 STEPS
1935年(日本公開:1936年03月)
アルフレッド・ヒッチコック ロバート・ドーナット マデリーン・キャロル R・マンハイム ペギー・アシュクロフト マイルズ・メイルソン

前作「暗殺者の家」の興行的成功で方向が定まったのだろう、このあとヒッチが監督する作品は(2本の例外を除いて)すべてスリラー映画となる。

「三十九夜」には、いま我々がヒッチ・タッチと呼んでいるサスペンス・スリラーのエッセンスが(完成したかたちで)全部詰め込まれている。

事件に巻き込まれ、犯罪組織と警察の両方に追われながら、金髪美人を道連れに、次々と起こる危機的状況を切り抜けて真相に迫り、クライマックスの見せ場を盛り上げる。
「北北西に進路を取れ」は本作のリメイクとも言える。
無駄な横道に逸れることない直線的なストーリー、構成もしっかり緻密に作られている。カットのつなぎもスピーディ。劇場での事件に始まり、劇場で大団円をむかえる。ユーモアの織り込みも見事だ。

イギリス時代の代表作はこれか「バルカン超特急」のどちらか。

三十九夜

主人公(ロバート・ドーナット)がアパートに連れ帰る(そして殺される)謎のドイツ女にルーシー・マンハイム、逃走中の急行列車で出会う金髪美女にマデリーン・キャロル。マデリーンは次作「間諜最後の日」でもヒロインに起用されている。いかにもヒッチ好みの美人女優。ミスター・メモリー(記憶屋)を演じたのはウイリー・ワトソン。この人物の最期がオチとなる。

ヒッチはこのアイデアを「引き裂かれたカーテン」でもやっている。
メモリーしていたのはポール・ニューマンだった。

70

2021/05/28

サボタージュ

サボタージュ|soe006 映画スクラップブック
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SABOTAGE
1936年(日本未公開)
アルフレッド・ヒッチコック シルヴィア・シドニー オスカー・ホモルカ ジョン・ローダー デズモンド・テスター ジョイス・バーバー

ユーモアを極力排して、ダークに仕上げたヒッチコック・サスペンス。
舞台を個人経営の映画館に設定しているのが趣向。破壊工作活動に加担している映画館主の主人公(オスカー・ホモルカ=好演)が事件を起こし、その妻(シルヴィア・シドニー)が巻き込まれる。二重のストリーテリング。

サボタージュ

隣接して商売している八百屋では、店員に化けた刑事(ジョン・ローダー)が主人公を監視している。いわば狂言廻しの役回りで、この刑事が事件の流れを(観客に)説明する構成。

次の標的を打ち合わせする際、水槽に(合成で)映される都市崩壊のイメージは、デモーニッシュなヒッチの意地悪。

爆破事件で弟が死んだ原因が夫にあったと知ったあと、スクリーンにかかっていたアニメ映画(ディズニーのシリー・シンフォニー)をみつめるヒロインのアップ。映画のギャグに条件反射で笑い、現実に戻って憤り、部屋に戻って夕食の支度、夫の話し声、料理を取り分けるナイフ、殺意、身の危険を察した夫、躊躇、ナイフ、もみ合い、床に崩れる夫。ギクシャクした感情の移ろいを、一連のモンタージュで巧みに描き出す。これぞヒッチコックの妙技。時限爆弾を運ぶ少年(デズモンド・テスター)のサスペンスも上出来。
ラストの爆発で夫殺しの証拠は隠滅、ヒロインに惚れた刑事と現場を退場する。アンモラルなハッピーエンドは「ゆすり」と同じ。

「映画術 ヒッチコック/トリュフォー」(晶文社)のインタビューで、ヒッチ自身は少年を爆死させてしまったことを理由にこの作品を嫌っているかのような発言を残しているが、はたして本心かどうか。真面目な顔して冗談を食わせるのがヒッチコックの真骨頂。ゆえに、本音は分からない。
ヒッチ・フリークのブライアン・デ・パルマも「アンタッチャブル」で罪もない子どもを爆殺。心底好きだと嫌なところも真似したくなるのでしょう。

65

2021/05/28

間諜最後の日

間諜最後の日|soe006 映画スクラップブック
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THE SECRET AGENT
1936年(日本公開:1938年03月)
アルフレッド・ヒッチコック ジョン・ギールグッド パーシー・マーモント ピーター・ローレ マデリーン・キャロル ロバート・ヤング リリー・パルマー

偽装された葬儀のファーストシーンで、これは007だなと思った。

死亡報道された主人公(ジョン・ギールグッド)が執務室に現れ、しかも上司がR。新しい名前と経歴とパスポートを渡され、極秘任務でスイスのホテルへ。そこには金髪美人のボンドガール(マデリーン・キャロル)もいて、ふたりのラブラブを適宜挟みながら調査開始。カジノの場面があり、潜入したチョコレート工場からの脱出があり、クライマックスは軍用列車脱線転覆のスペクタクル。やっぱり007だ! BGMをジョン・バリーに差し替えて編集したくなっちゃった。(原案はサマセット・モームの短編小説)

間諜最後の日

不気味に鳴り止まない教会のオルガン、教会の鐘、主人の危険を予知する犬の啼き声、会話が聞き取れないほどの工場の機械音、機関車の汽笛と轟音。
過剰な音響効果による演出。これもヒッチ・タッチ。

王立演劇アカデミー出身のシェークスピア俳優だったジョン・ギールグッドは、これがスクリーン・デビュー作。当時32歳くらい。007のダニエル・クレイグっぽい感じもある。

禿頭のメキシコ人「将軍」を演じるピーター・ローレが面白い。愛嬌があって残酷で気味悪く、こんなユニークな悪役って他にいないだろう。
と書いたあとで、我が国には石橋蓮司という素晴らしい役者さんがいたのを思い出した。

65

2021/05/29

第3逃亡者

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YOUNG AND INNOCENT
1937年(日本公開:1977年01月)
アルフレッド・ヒッチコック デリック・デ・マーニイ ノヴァ・ピルブーム パーシー・マーモント エドワード・リグビー メアリー・クレア ジョン・ロングデン ジョージ・カーズン ベイジル・ラドフォード

長いあいだ「若くて無邪気な」のタイトルで知られていた戦前の作品。水野晴郎のIP配給で、「海外特派員」「バルカン超特急」に続いて、1977年1月にようやく日本でも公開された。
前作「サボタージュ」が暗い内容だったのに対し、今度はぐっとユーモアたっぷりな巻き込まれ型サスペンス。「暗殺者の家」で誘拐された少女を演じていたノヴァ・ピルビームが、殺人犯に間違えられた青年(デリック・ド・マーニー)と、警察に追われながら真犯人を探し回る。

第3逃亡者

サスペンスといってもハラハラドキドキの緊迫感は希薄で、ヒッチコックが喜劇として撮っていることは、青年が裁判所を脱走する場面でも顕著。弁護士や二人組の警官などは明らかにコメディリリーフとして配役されている。若くて無邪気なカップルのロードムービーといったところだろうか。後半、犯人探しの協力者となる浮浪者役のエドワード・リグビーが味のある好演。

タイトル音楽にチャールストン。このときすでにヒッチはアメリカ行きを決めていたのかも知れない。「暗殺者の家」から「サボタージュ」までの4作品で製作を担当していたマイクル・バルコンとアイヴァ・モンタジュが会社(ゴーモン・プロ)を離れ、それでもあと2本の契約が残っていたヒッチコックの、いわば消化試合だったのかも。

しかし、発見されるのを恐れた殺人犯が緊張のあまり失神してしまう結末では、なんとも情けない。こんな小心者に女を絞殺して海に投棄できたのだろうか、と思ってしまう。
主人公の青年も取調室で失神してたし、二人ともピルビームに介抱されるというのも芸がない。

第3逃亡者

それでも、ヒッチ・タッチは随所に見受けられる。海岸で青年に濡衣が着せられる場面にカモメが舞っているカットを一瞬インサートしたり(「鳥」みたいだ)、逃げ込んだ廃坑の地崩れで自動車ごと地下に呑み込まれそうになったり(「インディ・ジョーンズ」みたいだ)、ホテルのボールルーム全景をロングでとらえたあと舞台で演奏するドラム奏者(犯人)のズームアップまでクレーン移動の長回しで見せたり(デ・パルマみたいだ)。

公開が後先になったために、後年製作された「鳥」や「北北西に進路を取れ」や「汚名」を連想し、ヒッチコック・パロディを見ているような気分にもなる。スピルバーグやデ・パルマなど後輩たちに、面白い場面はこうやって作るんだぞ、と教えてるような。

60

2021/05/30

バルカン超特急

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THE LADY VANISHES
1938年(日本公開:1976年11月)
アルフレッド・ヒッチコック マーガレット・ロックウッド マイケル・レッドグレーヴ ポール・ルーカス グーギー・ウィザース リンデン・トラヴァース メイ・ウィッティ

長いあいだ「貴婦人消失」のタイトルで知られていた戦前の作品。水野晴郎のIP配給で、「海外特派員」に続いて 1976年11月にようやく日本でも公開された。

地元佐賀では公開されず、1979年6月13日、池袋文芸坐で「ファミリー・プロット」と2本立てで観ている。文芸坐は当時いちばん多くチケットを買った名画座で、昼興行は1階で、土曜オールナイトは(眠っても他のお客さんに迷惑がかからないよう)2階の端っこと決めていた。文芸坐友の会に入ると、特典の招待券で年会費の元が取れ、割引料金でチケットが買えた。掌サイズのプログラムも毎月郵送されてきた。
土曜の午後から2本立て+オールナイト4本立て。そのあと公園のベンチで仮眠をとって2本立てを観たこともある。当時は新旧あわせて年間400本くらい見ていた。田舎から出てきたばかりの映画小僧に東京の街はシネマ・パラダイス。休日はもちろん、平日も仕事帰りに映画館へと走った。あのころは本気(マジ)で馬鹿だった。

閑話休題。

「バルカン超特急」はヒロイン(マーガレット・ロックウッド)がとても可愛い。脚が綺麗。相手役のマイケル・レッドグレーヴも嫌味がなく、神経科医ポール・ルーカス、消える老嬢メイ・ウィッティ、クリケット狂のイギリス人コンビ(ウントン・ウェインとベイジル・ラドフォード)、不倫カップル(セシル・パーカーとリンデン・トラヴァース)、イタリアの奇術師、ハイヒールを履いた尼僧(グージー・ウイザース)、ミス・フロイの偽者(目が不気味)、多彩な登場人物たちがみんな個性豊か。

バルカン超特急

窓ガラスに浮かぶFROYの指文字、窓に一瞬へばりつく紅茶の包み紙、包帯ぐるぐる巻のミイラみたいな患者、歌う暗号、走る機関車、銃撃戦。ユーモア、ロマンス、ミステリー、サスペンス、アクション、全部詰め込んでブレない脚本が素晴らしい。

陰謀の中身や暗号の内容などはどうでもいい。鮮やかなハッピーエンドに頬が緩む。
ミニチュア・セットのオープニングも愛嬌があって可愛らしい。

ヒッチコックは映画の神様だ。

70

2021/05/31

海外特派員

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FOREIGN CORRESPONDENT
1940年(日本公開:1976年09月)
アルフレッド・ヒッチコック ジョエル・マクリー ラレイン・デイ ジョージ・サンダース ハーバート・マーシャル アルバート・バッサーマン

長いあいだ未公開だったヒッチコック作品。水野晴郎のIP配給で、1976年9月にようやく日本でも公開された。
アメリカに移っての第2作目(1作目はセルズニックの「レベッカ」)で、第二次大戦前夜に製作されたせいか、プロパガンダ臭いラストシーン(ナチスドイツにご用心)が付いている。音楽はアルフレッド・ニューマン。

タイトルバックに地球儀がぐるぐる回っている。タイトル終わってカメラが引くと、それが新聞社の屋上に設置されたディスプレイだと分かる。カメラはそのまま移動し、ビルの窓に寄って、編集部の室内に入る。ヒッチが得意とする(外観から室内へ移動の)オープニング。

30年代から40年代にかけてのアメリカ映画は、新聞記者を扱った作品が多い。

緊迫するヨーロッパ情勢のホットな記事が欲しい編集長(ハリー・ダヴェンポート)は、警官を殴って問題を起こした情熱の記者(ジョエル・マクリー)を海外特派員としてロンドンに派遣する。

この役にヒッチはゲイリー・クーパーを希望していたらしいが、当時スリラー映画はB級の通俗娯楽と見下されていて、A級トップスターのクーパーは当然のようにこのオファーを断った。公開後に「断るんじゃなかった」と反省し、そんなこともあって、クーパーはその後、フリッツ・ラングの「外套と短剣」(1946年)に出演。

主人公の記者は、ロンドンに着く早々、先任の記者(ロバート・ベンチェリー)、オランダ政界の要人(アルバート・パッサーマン)、平和活動の政治家(ハーバート・マーシャル)、その娘(ラレイン・デイ)らと接触。このあたりまでは、スローテンポでこれといった事件も起こらず平凡な流れだが、舞台がアムステルダムに移ってからは、ヒッチ・タッチの連続で目が離せなくなる。適度なユーモアを織り込みながら、これでもかってくらいに見せ場を並べ立て、そのどれもがヒッチならではの面白さ。

海外特派員

雨のアムステルダム、俯瞰の雨傘が強烈に印象に残る暗殺シーン、路面電車とカーチェイス、おかしな回転をする風車小屋、要人誘拐発見の鬼ごっこ、警察に化けた殺し屋、ロンドン寺院の展望台(高いところに登る悪役は必ず墜落する)、恋人とロマンチックな偽装誘拐、ドイツ表現主義っぽい要人拷問の絵作り、スクリーンプロセスの妙技、飛行機墜落と海上漂流。それぞれの見せ場に詳細な解説をつけたくなるほど、凝りに凝ったヒッチコック。

イギリス時代に培ったテクニックを網羅した集大成的傑作。個人的に「見知らぬ乗客」(1951年)までのヒッチコック映画のなかでは、本作がベスト・オブ・ベスト。

ヒッチコックは映画の神様だ。

70

映画採点基準

80点 オールタイムベストテン候補(2本)
75点 年間ベストワン候補(16本)
70点 年間ベストテン候補(76本)
65点 上出来・個人的嗜好(72本)
60点 水準作(71本)
55点以下 このサイトでは扱いません

個人の備忘録としての感想メモ&採点
オススメ度ではありません