フランス映画の巨匠:ジャン・コクトー(3本)
2021/02/26
美女と野獣
LA BELLE ET LA BETE
1946年(日本公開:1948年01月)
ジャン・コクトー ジャン・マレー ジョゼット・デイ マルセル・アンドレ ミシェル・オークレール ミラ・パレリ
75年前に製作された特撮ファンタジー。
詩人コクトーの才気が余すところなく焼き付けられたフィルム。
ジャン・マレーの野獣が何度も「ベル」と呼びかける。声がいい。
霧がたなびく幻想的な森、燭台を持つ腕が並んだ廊下、生物の如き動きをみせる彫像、野獣の憂いをおびた眼差し、魔法の手袋による瞬間移動、キラキラ輝く宝飾品。
その他いろいろ盛り沢山に贅沢なイメージがてんこ盛り。
天空へと消えてゆく美女と(元)野獣。
公開当時に観た人を羨ましく思う。
コスミック出版DVDの画質は良好。
但し、音楽(ジョルジュ・オーリック)が音割れしている。残念。
65点
#フランス映画の巨匠:ジャン・コクトー
2021/02/27
双頭の鷲
L' AIGLE A DEUX TETES
1947年(日本公開:1953年06月)
ジャン・コクトー エドウィジュ・フィエール ジャン・マレー ジャック・ヴァレーヌ シルヴィア・モンフォール ジャン・ドビュクール イヴォンヌ・ド・ブレー
多彩な芸術分野で活躍した(今風にいえばマルチ・アーティスト)ジャン・コクトーによる恋と陰謀の宮廷劇。
舞台となっているオーストリア風の国家は架空のものと最初にクレジットされるが、モデルはあるらしい。その類の知識に疎いのでよくわからんけど。
10年前に国王が暗殺され未亡人となった王女(エドウィジュ・フィエール)と、彼女を暗殺するべく城に侵入した若きリベラリストの刺客(ジャン・マレー)との恋を、古典劇そのままのロマンチシズムで描いている。
シェークスピアをかなり意識したストーリーで、劇中でも「ハムレット」が朗読される。
城内のセット(美術)、衣装が、ことごとく素晴らしい。本場欧州の皇族趣味がこれでもかとばかり絢爛に溢れている。
しかしなんと言っても最大の見ものは、ヒロインを演じたエドウィジュ・フィエール(撮影当時40歳だったらしい)の気品に満ちた美貌! そのウェストの細さ!
屹立として感情を抑制しつつ、漏らしてなお堕ちない威厳と品位。こんな凄くて美しい女優をいままで知らなかったなんて。
ジョルジュ・ランパン版の「白痴」にも出演しているとのこと。
ドストエフスキーの「白痴」は40年くらい前に黒澤明版を池袋文芸坐のオールナイトで観ているが、あのときの原節子も美しかった。外に威圧的で内に自虐的なナスターシャ役はさぞ素晴らしいと思う。近いうちにDVDを探してぜひ観てみたい。
映画の序盤、王女は王の喪に服していて、顔は黒いベールで隠されている。素顔が現れるのは15分後くらい。さらにジャン・マレーの刺客登場はその後5分くらい経ってから。
それまでの話がなかなか呑み込みづらいのは(先に書いたように)19世紀の欧州事情に疎いから。製作当時の仏蘭西の観客には「ああ、これってあの話ね」ってすんなり理解されたのだろう。
ラストの階段落ちはジャン・マレー自身がスタントなしで演っている。すごい。
65点
#フランス映画の巨匠:ジャン・コクトー
2021/02/28
オルフェ
ORPHEE
1949年(日本公開:1951年04月)
ジャン・コクトー ジャン・マレー マリア・カザレス フランソワ・ペリエ エドアール・デルミ ジュリエット・グレコ マリー・デア ジャン=ピエール・メルヴィル
ギリシャ神話の舞台を(当時の)現代パリに置き換え自由に脚色した、ジャン・コクトーによる特撮ファンタジー。
サンジェルマンのカフェに若者たちが集うファーストシーンは、当時の風俗がドキュメントされていて興味深い。この店の前の路上で轢き逃げ事件があって物語は始まるのだけれど……美しき死神(マリア・カザレス)が、大衆に人気のある詩人オルフェ(ジャン・マレー)に恋心を抱いてるのは分かるのだが、彼女の真意が読み取れないままストーリーは現実と死後の世界を往来し、着地点がなかなか見えない。
彼女に仕える運転手(フランソワ・ペリエ)や、死んだ若き詩人(エドゥアール・デルミ)、オートバイの男たち(ケロベロス?)がどのような役割で何のために動いているのか説明がないから、混乱だけが残る。
BGMにグルックの「精霊の踊り」が幾度か流れていて、そればかりに気をとられて困った。クラシック名曲集のCDによく収録されている曲(とくにクライスラー編曲版がヴァイオリン名曲集によく入っている)なので、とても耳に馴染んでいるメロディなんだけど、オペラ「オルフェオとエウリディーチェ」のなかの楽曲だったんだ。なるほど。
映画全体の音楽を担当しているのはコクトー映画の名コンビ、ジョルジュ・オーリック。
冥界との通信機になっているラジオから聞こえてくる詩の朗読を、主人公が夢中になって盗作する場面は笑いを狙っていたのか? 妻の姿を見てはいけない試練の場面もちょっと喜劇風。
取材に訪れる執拗な新聞記者の場面は必要か? 奥さんのユリティス(マリー・デア)が身重なのもドラマに効いてない。オルフェとユリティスではなく、オルフェと死神の恋愛劇だったのか? と、骨太な一貫したラインが見えないのだが、実は、この映画には第二次大戦中のフランス共産党の地下組織(レジスタンス活動)が裏書きされているのだという。そういえば、地獄の査問委員会(こいつら何者?)は冷徹で刺々しく、旧ソ連の雰囲気が臭っていた。
最大の見ものは、黒い死神を演じたマリア・カザレスの凛とした美貌!
コクトーは女優を綺麗に見せるのが本当にうまい。対して、ユリティス役のマリー・デアは、役柄のせいでもあるだろうけど、意図して地味に撮っているように思えた。
スクリーンプロセスとフィルムの逆回しを組み合わせた冥土の道行き場面が面白い。
トリック撮影に安っぽい感じはなく、真摯な志で撮られている。立派な映画芸術。
70点
#フランス映画の巨匠:ジャン・コクトー