フランス映画の巨匠:ルネ・クレール|映画スクラップブック


フランス映画の巨匠:ルネ・クレール(6本)

2021/10/09

巴里の屋根の下

巴里の屋根の下|soe006 映画スクラップブック
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SOUS LES TOITS DE PARIS
1930年(日本公開:1931年05月)
ルネ・クレール アルベール・プレジャン ポーラ・イルリ ガストン・モドー エドモン・T・グレヴィル ビル・ボケッツ ポール・オリヴィエ

サイレントからトーキーへ、過渡期のフランス映画。ときおりセリフが消えてサイレント芝居になるが、ストーリーは伝わってくる。映画とはそんなものだ。

やっぱり(巴里)ルネ・クレールはいいなあ。大好きだ。
他愛のない青春の恋愛劇をやさしい眼差しで丁寧に描いて素晴らしい。悪党も根っからのワルじゃない、どんな人物にも愛嬌があって面白い。

パリの実景は一切なく、下町風景はすべてラザール・メールソンによるオープンセット。

巴里の屋根の下

雨に濡れた石畳の舗道。灯りが入った酒場の看板。アパートメントの窓を1階から最上階へ上下移動して室内の住人の様子を撮ったショット、ヒッチコックの「裏窓」に24年先行している。床に落ちたパンと花束を使った時間経過、光と影のコントラストに列車の騒音を重ねた喧嘩の場面、その他いろいろ、映画話法のお手本。

巴里の屋根の下

主人公は街角で歌いながら楽譜を売っている。主題歌が有名な映画だけど、野口久光「想い出の名画」(文藝春秋)には「この映画は結局ストーリーでも音楽でもなく、映像と音の美しいハーモニーなのである」と書かれていた。まったくそのとおりだと思う。

本作と「巴里祭」(1933年)は、高校時代に教育テレビ(いまのEテレ)の「世界名画劇場」で見た。この番組は主にヨーロッパのクラシック映画をノーカット字幕で放送していたので欠かさず見ていた。日曜日の夜10時から月一回の放送枠だった。(ビデオが普及する以前の)ほんとうに有り難い番組だった。当時の映画雑誌「スクリーン」に連載されていた淀川長治の日記を読むと(同時刻ご自身が解説している番組が放送されているというのに)淀川氏も毎回ご覧になっていたようだ。

酒場のカウンターにダンデイな装いの黒人青年を発見。
フランス人の人種偏見は有名なので、時代(1930年製作)を考えてちょっと驚いた。

70

2021/10/11

ル・ミリオン

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LE MILLION
1931年(日本公開:1932年09月)
ルネ・クレール アナベラ ルネ・ルフェーブル ポール・オリヴィエ ルイ・アリベール コンスタンタン・シロエースコ オデット・タラザク レイモン・コルディ

「巴里の屋根の下」(1930年)で初めてトーキーに挑んだルネ・クレールのトーキー第2作は、大当たり百万フランの宝くじをめぐるオペレッタ喜劇。幸福感あふれた愉快で楽しい歌が盛りだくさん。

「お金だけが全てではないとインテリは言うけれど、貧乏人にとってはその言葉より、お金の方が嬉しい」

ル・ミリオン

主人公の恋人、バレリーナ役を演じる「巴里祭」のアラベラが可憐でかわいい。
タクシー運転手に「自由を我等に」のレイモン・コルディ。騒動の発端となるギャングの首領チューリップじいさん(このネーミングも素晴らしい)はクレール映画の常連俳優ポール・オリヴィエ。

ル・ミリオン

オープニングは「巴里の屋根の下」同様、ラザール・メールソンの(凄い)オープンセットによるパリの屋根。バルコニーでおやすみの挨拶を交わしている恋人がいて、それからカメラは延々と移動し、あるひとつの天窓から漏れてくる音楽に誘われて部屋を覗き込むと、ストーリーが歌い出す。この導入だけで大満足。あとはニコニコ笑顔で最後まで。

主人公の男ふたりが画家と彫刻家(もちろん貧乏)。ふたりに絡む若い女がバレリーナとモデル。芸術とファッションの都パリの若者。ルネ・クレールはいいなあ。

70

2021/10/10

自由を我等に

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A NOUS LA LIBERTE
1931年(日本公開:1932年05月)
ルネ・クレール アンリ・マルシャン レイモン・コルディ ポール・オリヴィエ ローラ・フランス ジャック・シェリー ジュルメール・オーセー アンドレ・ミショー アレグザンドル・ダルシ レオン・ロラン ウィリアム・バーク ヴァンサン・イスパ

なんとも楽天的で小粋な、ルネ・クレールらしい喜劇映画。
このあとチャップリンが製作した「モダン・タイムス」(1936年)と同じテーマでありながら、クレールの作風は微笑ましくも好ましく、チャップリンがいささかヒステリックに描いた文明批判とは大きく趣を異にしている。

ひとつは男同士の友情がメインであること。エミール(アンリ・マルシャン)は一目惚れした女(ローラ・フランス)にプロポーズしてふられる。金持ちになったルイ(レイモン・コルディ)の美人妻は愛人と家を出ていくが、ルイはそれを喜ぶ。
女性との縁が切れたふたりは、仲良く肩を組んで放浪の旅へ。

自由を我等に

女好きなチャップリンは男同士の友情をストーリーのメインに置くことは殆どない。なにかあったっけ? 「街の灯」の酔っぱらい紳士は花売り娘の気を惹くための金蔓として利用してるだけだし。「黄金狂時代」も金鉱目当てのパートナー。短編時代から男の友情をテーマにしている作品は記憶にない。若い女性の尻ばかり追い回している。
友情らしきものが見れるのはバスター・キートンと共演した「ライムライト」くらいか。

ふたつめは歌。「自由を我等に」は全編に風刺が効いた歌詞の歌が仕込まれていて、陽気なメロディと歌声が、闊達明朗な気分にさせてくれる。「モダン・タイムス」の「ティティナ」のように個人芸をひけらかす派手さはないけれど、フランスの家庭料理のように素朴で温かい味わいがある。作曲はジョルジュ・オーリック。

なにを造っているのか分からない「モダン・タイムス」と違って、「自由を我等に」は蓄音機工場というのが音楽映画にふさわしいアイテムでたいへん宜しい。工場のセットは「モダン・タイムス」ほど大掛かりではないけれど、クレール映画の常連ラザール・メールソンによるもの。これも見事。

サイレントからトーキーへの過渡期、映像と音(セリフと音楽)の映画的表現において、ルネ・クレールはあきらかにチャップリンより一歩抜きん出ていた。青は藍より出でて藍より青し。チャップリンが真似したくなるのも分かる。野口久光氏は本作をクレールの最大傑作としている(「想い出の名画」文藝春秋より)。

並んだ木製玩具の馬を上手から下手へ移動撮影し、カメラが折り返し逆に移動していくと、それらを作っていたのが囚人服の男たちで、刑務所の作業場であったことを説明するファーストシーンから才気煥発。さらに蓄音機工場でそれを再現する名人技。

自由を我等に

映画を見る喜びを満喫させる。ルネ・クレールはいいなあ。

70

2021/10/12

巴里祭

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QUATORZE JUILLET
1933年(日本公開:1933年04月)
ルネ・クレール アナベラ ジョルジュ・リゴー レイモン・コルディ ポーラ・イルリ レイモン・エイムス ポール・オリヴィエ トミー・ブーデル

パリの(モンマルトルっぽい)下町で繰り広げられる花売り娘アンナとタクシー運転手ジャンの恋物語。ルネ・クレールのトーキー4作目。

ルネ・クレールの映画はみんな好きだが、そのなかでも飛び抜けて大好きな映画。何度も見てるけど、やっぱり(巴里)今日もラストで涙が溢れた。見てるあいだじゅうずっと幸福感に満ち満ちて、うん、やっぱりルネ・クレールはいいなあ。

ラザール・メールソンの(やっぱり凄い)オープンセットによるオープニング。
アパートメントの窓に革命記念日のお祝いの飾りをつけるパリ市民たち。ジョルジュ・ペリナールの移動撮影が素晴らしい。モーリス・ジョーベールの音楽が素晴らしい。

巴里祭

可憐で可愛いアナベラ。好漢ジョルジュ・リゴー。その友人のタクシー運転手に「自由を我等に」のレイモン・コルディ。常連俳優ポール・オリヴィエの酔っぱらい紳士は、キーストン短編時代のチャップリン・オマージュ(母親と二人暮らしの花売り娘は「街の灯」か?)。チャップリンの酔っぱらいと違って品があるのが良い。毒女ポーラ役は「巴里の屋根の下」のポーラ・イレリ。前3作では見られなかった子供たちが登場。丘の階段を駆け上り駆け下りる。自然体の動きがとても良い。

巴里祭

突然の雨、雨宿り。雷で急接近してキス。落語の「宮戸川」だね!
粋で軽妙、お洒落なフランス映画。

マイ・フェバリット・ラブコメの1本。

75

2021/11/08

悪魔の美しさ

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LA BEAUTE DU DIABLE
1949年(日本公開:1951年12月)
ルネ・クレール ジェラール・フィリップ ミシェル・シモン ニコール・ベナール シモーヌ・ヴァレール レイモン・コルディ カルロ・ニンキ チュリオ・カルミナチ ガストン・モド パオロ・ストッパ

第2次世界大戦でフランスを離れていたルネ・クレールの帰国後第2作目。

研究に没頭するあまり長年禁欲生活をおくっていた大学教授ファウスト博士(ミシェル・シモン)は、忍びよる老化に怯えていた。そこへ学生に化けたメフィスト(ジェラール・フィリップ)が現れ、悪魔の契約を唆す。おなじみゲーテの「ファウスト」を元ネタとした、ルネ・クレール&劇作家アルマン・サラクルウのオリジナル脚本。

メフィストに若い身体を与えられたファウスト博士は、自由で快楽的な青春を満喫し、サーカス小屋のジプシー娘マルグリット(ニコール・ベナール=めちゃくちゃ可愛い)と恋に落ちるが、失踪した老ファウストの殺人容疑で逮捕されてしまう。悪魔に魂を売り渡す契約を交わしたことで危機を逃れた青年ファウストは、砂を金に変える錬金術で一躍国家の大物となり、さらに王妃(シモーヌ・ヴァレール)と禁断の恋仲になり、戦争兵器の発明にも乗り出し、暗黒の未来を知ることになる。

悪魔の美しさ

人気上昇中の二枚目俳優ジェラール・フィリップとフランス映画界の重鎮ミシェル・シモンがガチの共演。身体と魂を目まぐるしく入れ替えての二人の演技は、「フェイス/オフ」のトラボルタ&ニコラス・ケイジ以上に見応えあり。

ラストでメフィストが民衆に追い詰められて自滅してしまうのは、市民革命のフランスならではの解釈だろうか。

ルネ・クレールは、「巴里の屋根の下」から「巴里祭」に至る(トーキー移行期の作品にある)長閑な雰囲気が好きで繰り返し見ているけど、本作は今回が2度目。フランスに戻ってからの作品は(ハリウッド流儀のテクニックが付いているのだろうか)洗練され達者ではあるけど、以前の柔やかな作風が損なわれてしまった感じがする。それでもクレールらしい庶民的ユーモアは全編にあって、神秘的幻想的なコクトーの「オルフェ」とはまったく違う。軽い喜劇風の仕上がり。
街が業火に焼かれ市民が暴徒化するパニック場面など、いくらでもサスペンスフルに描けそうなものだけど、クレールの主眼はそこにはない。
ジェラール・フィリップと恋仲になるふたりの女優がとても魅力的。この時代のフランス映画は綺麗な女優さんが多くて嬉しい。もう少しあとになると、ブリジット・バルドーやジャンヌ・モローなど素直に美人と呼べない、個性を売りにした女優が多くなる。

序盤、事あるごとにシンバルをジャンジャン鳴らす音の使い方はクレールらしいが、少々煩い。撮影は「舞踏会の手帖」や「フレンチカンカン」の名手ミシェル・ケルベ。
どんな事情があったのか知らないが、イタリアのチネチッタ・スタジオで撮っている。

65

2021/11/09

夜ごとの美女

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LES BELLES DU NUIT
1952年(日本公開:1953年12月)
ルネ・クレール ジェラール・フィリップ マルティーヌ・キャロル ジーナ・ロロブリジーダ マガリ・ヴァンドイユ マリリン・ビュフェル レイモン・コルディ レイモン・ビュシェール ジャン・パレデス ベルナール・ラジャリジュ ピエール・パロー アルベール・ミシェル パオロ・ストッパ ショーファール

ジェラール・フィリップ&ルネ・クレールのコンビ2作目。近隣の騒音にノイローゼ気味の音楽教師(ジェラール・フィリップ)が夢の世界に現実逃避する話。

夢の中で取っ替え引っ替え美女にモテまくるのだが、ジェラール・フィリップだとラブシーンがちっとも嫌らしくなく、かえって微笑しい。夢シーンの背景はカリカチュアされた簡素なセットで、カメラのパンとワイプで、現実と夢を行ったり来たり。その趣向が面白い。「昔はよかった」とボヤく老人の言葉に誘われて、どんどん時代を遡り、ついに先史時代までいってしまうが、どこまでいっても夢の結末は支離滅裂な悪夢になってしまう。現実世界で破いてしまったズボンが夢の中でも破けていたり、寝る時間が遅くなったために、夢で約束していた逢引きに遅刻してしまったりという、他愛のないギャグが面白い。
結局、現実世界に戻ってくると、音楽コンクール優勝の通知があり、修理工の娘と結ばれてハッピーエンド。「オズの魔法使」とか「ミッドナイト・イン・パリ」とか、現実逃避のファンタジーでハッピーエンドだと、だいたいこのパターンでオチる。
たまにテリー・ギリアムとかキューブリック(「時計じかけのオレンジ」)みたいな捻くれたのもあるけど。

夜ごとの美女

登場する3人の美女(マルティーヌ・キャロル、ジーナ・ロロブリジーダ、マガリ・ヴァンドイユ)はそれぞれに綺麗な女優さんだけど、お人形さんみたいな扱いで、グッと迫るものがない。それより近所に住む男たちのユーモラスな人情が印象に残る。郵便配達と喧嘩したり、月賦屋にピアノを差し押さえられそうになったり、警官と口論して留置所に入れられたり。夢の世界に戻るため睡眠薬を買う主人公を心配する友人たちがクレールらしくて、ここがこの映画でいちばん好きなところ。ご都合主義のドタバタ喜劇なのだが、この監督の映画はくだらないストーリーにも気の利いた細工が施されているし、ギャグもやたらエキセントリックに走らない節度と品があって好感がもてる。

「ル・ミリオン」と同じく全編を歌と音楽で綴っていくオペレッタ風。効果音を巧みにストーリーに取り込むのはルネ・クレールが得意とする作劇法。
主人公がどんなに追い詰められても、映画が明るく朗らかで楽しいのはジェラール・フィリップだから。夢さえ見られれば留置場の中でも幸せというテリー・ギリアム風な異常な状況でも、ファンファンの無邪気な寝顔だとヤバい感じがしない。

常連レイモン・コルディは自動車修理工でヒロインの父親役。その工場で働いている友人レイモン・ビュシェール、薬屋のジャン・パレデス、警官のベルナール・ラジャリジュがいい味を出している。アラブの姫君が入浴する場面でジーナ・ロロブリジーダのヌード(背中と尻だけ)があるけど、たぶんダブルだろうな。

クライマックスの(コマ抜き)追いかけっこはハリウッド仕込み。後ろ向きに疾走する馬はナンセンスで面白い。どうやって撮ったんだろう?

65

映画採点基準

80点 オールタイムベストテン候補(2本)
75点 年間ベストワン候補(18本)
70点 年間ベストテン候補(83本)
65点 上出来・個人的嗜好(78本)
60点 水準作(77本)
55点以下 このサイトでは扱いません

個人の備忘録としての感想メモ&採点
オススメ度ではありません