実録 宇宙への旅(4本)
2020/10/22
ライトスタッフ
THE RIGHT STUFF
1984年(日本公開:1984年09月)
フィリップ・カウフマン サム・シェパード スコット・グレン フレッド・ウォード エド・ハリス デニス・クエイド バーバラ・ハーシー ランス・ヘンリクセン パメラ・リード キャシー・ベイカー ヴェロニカ・カートライト メアリー・ジョー・デシャネル ジェフ・ゴールドブラム
これぞアメリカ!
(山田宏一氏を真似て書けば)アメリカ的な、あまりにもアメリカ的なアメリカ映画。
トム・ウルフのノンフィクション原作を監督自身が脚色、「ブレードランナー」「アウトランド」のラッド・カンパニー(アラン・ラッド・Jr)が製作した超大作。
それまで地味な、あまりにも地味な実録西部劇「ミネソタ大強盗団」でしか知らなかったフィリップ・カウフマンゆえに、ほとんど期待もなく観に行って、びっくり感動してしまった。マイ・フェバリット・アメリカ映画の1本。
ビデオ(当時はレーザーディスク)も発売と同時に購入。これでまたびっくり。
日本公開版は2時間40分の短縮版(米国でコケたせいだろう)で、ビデオ・リリースされたものは3時間13分のノーカット版だった!
(その後、午前10時の映画祭でもノーカット版が上映されている)
チャック・イェーガーが超音速飛行に成功した1947年から、第一次宇宙計画(マーキュリー計画)が終了する1963年までが描かれる。
アメリカ宇宙航空史・黎明編といった感じの実録群像劇。
テーマはアメリカ万歳、国威発揚、はっきりプロパガンダなのだが、7人の選ばれし宇宙飛行士たちの訓練や私生活、彼らの奥さんたちのエピソードが興味深く、国家(政治)とマスコミが結託して計画を推進させる様子も批判的な視点から捉え、宇宙開発計画の全体像が公平に、丁寧に描かれている。
ジョン・グレンを演じたエド・ハリスは、(多分)そっくりさんという理由からキャスティングされたのだろうが、本作で俄然注目されてこのあと大活躍。
マーキュリー計画と並行して描かれる孤高のテストパイロット、チャック・イェーガーを演じたサム・シェパードがかっこいい。若き日のクリント・イーストウッドをちょい甘くした感じ。彼と奥さん(バーバラ・ハーシー)の関係がまたいい。
記録フィルムを交えたプロジェクト再現場面のスケールは大きく、リアルかつ迫力満点。
それをビル・コンティの音楽が(チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲やホルストの組曲「惑星」を引用しつつ)さらに盛り上げる。
何度見ても面白いし、何度見ても興奮するし、何度見ても感動する。
おれとの相性がすこぶる良い映画。
2枚組DVDには、77歳でスペースシャトル「ディスカバリー号」に搭乗し最年長宇宙飛行士の記録をつくったジョン・グレンの特別番組や、製作当時を振り返るスタッフや出演者のインタビューが付録についている。それを見れば、この映画が公開時になぜ不当たりだったのか理由がわかる。
マーキュリー計画の宇宙飛行士たちは政治とマスコミによって世間の人気を得たが、映画は政治とマスコミによって観客に嫌われた。立役者となったのは、どちらもジョン・グレンだったとは皮肉なものだ。
75点
#実録 宇宙への旅
2020/10/23
アポロ13
APOLLO 13
1995年(日本公開:1995年07月)
ロン・ハワード トム・ハンクス ケヴィン・ベーコン ゲイリー・シニーズ ビル・パクストン エド・ハリス キャスリーン・クインラン
1970年4月に打ち上げられたアポロ13号の事故と、3名の乗組員救出作戦を描いた実録スペクタクル。
トム・ハンクス、ケヴィン・ベーコン、ゲイリー・シニーズ、エド・ハリスとキャストも手堅く固め、最新の映像技術を駆使し、ベテラン監督に成長したロン・ハワードが娯楽性たっぷりに再現。ヒットメイカーとしての貫禄をみせつけた。
これも「ライトスタッフ」同様、アメリカ万歳のプロパガンダ再現ドラマなんだが、腕の良いやつらがそれなりに金をかけてガッチリ作ると、結末が分かっているストーリーでもドキドキハラハラするし、感動も生まれる。
プロフェッショナルな男たちが一致団結して事に臨むという、ハワード・ホークス的ストーリーが好き。
ジェームズ・ホーナーの音楽だって、マンネリながら映画を最高に盛り上げて素晴らしい。
出演者みんな良いが、白いベストのエド・ハリスがいちばんの儲け役。
70点
#実録 宇宙への旅
2020/10/24
ドリーム
HIDDEN FIGURES
2016年(日本公開:2017年09月)
セオドア・メルフィ タラジ・P・ヘンソン オクタヴィア・スペンサー ジャネール・モネイ ケヴィン・コスナー キルステン・ダンスト ジム・パーソンズ マハーシャラ・アリ オルディス・ホッジ グレン・パウエル キンバリー・クイン
NASAの宇宙開発計画に参加していた3人の黒人女性数学者を描いた実録ドラマ。
「ライトスタッフ」のスピンアウト的なストーリーだが、狙いは黒人差別のテーマにある。これを攻撃的にならないよう、ユーモアとウィットを交えて、明るくソフトなタッチで描いたところが、この映画を成功させた要因といえる。
出演者は3人の黒人女性以下、みなさん好演。
汚れ役のキルステン・ダンストが良い。ケヴィン・コスナーもかつての嫌らしさが抜けてすっきり良い。映画が終わるまで、彼があのナルチ臭をプンプンさせていたコスナーだとは気づかなかった。
女性トイレのエピソードと、「偏見はないのよ、わかって」「わかってるわ、あんたがそう思い込んでいるのは」のセリフが素晴らしく、強く印象に残った。
差別問題の本質を、さりげなく、強烈に突いている。
「ライトスタッフ」でも、悪意なくホセ・ヒメネスの真似をするスコット・グレンを、プエルトリコ系の看護師がやりこめるエピソードが入っていたが、このようなアプローチは、70年代以前の映画では見られなかった。
どんな境遇にあっても、夢を諦めない勇気と行動が、人生を明るく照らしてくれる。
そんなアメリカ的な、あまりにもアメリカ的な爽快感動作。
70点
#実録 宇宙への旅
2020/10/27
ファースト・マン
FIRST MAN
2018年(日本公開:2019年02月)
デイミアン・チャゼル ライアン・ゴズリング クレア・フォイ ジェイソン・クラーク カイル・チャンドラー コリー・ストール クリストファー・アボット キアラン・ハインズ パトリック・フュジット ルーカス・ハース
1969年7月16日、人類初の月面歩行を果たした宇宙飛行士ニール・アームストロングの半生を、1961年(ジェミニ計画)から1969年(アポロ計画)にかけてのNASAのミッションをとおして描かれる。 ジェームズ・R・ハンセン原作「ファーストマン:ニール・アームストロングの人生」の映画化。監督は「セッション」「ラ・ラ・ランド」の(どことなくインチキ臭い)デイミアン・チャゼル。
娘の死をきっかけに月へ行くことに執着するようになったニールの静かな狂気が、暗いタッチで地味に、ひたすら地味に描かれている。
特撮に大金をかけ凝った絵作りしているわりにスペクタクルの高揚感はなく、「ライトスタッフ」や「ドリーム」のようなカタルシスは味わえない。
娯楽性を排した哲学アートな仕上がりは、やっぱり(どことなくインチキ臭い)デイミアン・チャゼルらしい。
もうずっとむかしに立花隆の「宇宙からの帰還」(中公文庫)を読んで、それが強く印象が残っていたから、宇宙から帰還した飛行士たちが精神的・心理的に変調をきたし、退役後に宗教やスピリチュアルなものにのめり込んでいったりするのは目新しくもなく、素直に納得できるものの、それを何故、いま映画化するのか?
アメリカで興行がコケたのは、多かれ少なかれ国民が誇りに思っている20世紀の偉業を、個人レベルの心理ドラマに矮小化したためだろう。
月面に星条旗を立てるショットを意図して外したり、悲観的な(帰還後に奥さんと対面する)ラストシーンで映画を締めくくったり、この監督、若造のくせに思い上がりも甚だしい、といったところ。
映画作りは上手いけど、テーマの掘り下げ、題材の捉え方が薄っぺらい。
65点
#実録 宇宙への旅