ガーシュウィン:へ調のピアノ協奏曲

ジョージ・ガーシュウィン:ピアノ協奏曲 ヘ調

October 5, 2007

現代の生活は、残念ながら、滑らかなフレーズでは表せない。私たちはレガートではなくスタッカートの時代に暮らしている。これは逃れられない事実だ。しかしこの鋭いスタッカートの言葉から、美しいものが創り出せないわけではない。

ジョージ・ガーシュウィン(「シアター・マガジン」誌の記事より)

1924年2月12日、ポール・ホワイトマン主催のコンサート「近代音楽の実験/アメリカ音楽とは何か」にて初演された、ジョージ・ガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」は、アメリカ国民に熱狂的に歓迎された。
1924年のジョージ・ガーシュウィンは、ホワイトマン楽団との共演で「ラプソディー・イン・ブルー」を数十回演奏(ビクター録音も含む)し、ジョージ・ホワイトマンのレビュー『スキャンダルズ』1924年度版のための音楽を書き、最初の代表作となるミュージカル『レディー・ビー・グッド!』公演を成功させています。
『スキャンダルズ』1924年度版からは「誰かが私を愛している Somebody Loves Me」、『レディー・ビー・グッド!』からは、「私の彼氏 The Man I Love」、「魅惑のリズム Fascinating Rhythm」など、今日まで歌い継がれているスタンダード・ナンバーが生まれました。

それとは別に……
「ラプソディー・イン・ブルー」路線での次回作も、ニューヨーク交響楽団の指揮者ウォルター・ダムロッシュから依頼されており、ジョージは管弦楽法の勉強もすすめつつ……
翌1925年も、ミュージカル『ティル・ミー・モア』を春(4月13日開幕)に、年末に『ティップ・トウズ』(12月28日開幕)と『ソング・オブ・ザ・フレーム』(12月30日開幕)と、新作を3本も上演しています。

とにかく「ラプソディー・イン・ブルー」以降、ガーシュウィンはめちゃくちゃ忙しい。相変わらずパーティへは頻繁に顔を見せつつ、ミュージカル作曲家としての仕事は目白押し。そんな多忙の隙間をぬって……

ピアノ協奏曲 ヘ調は、1925年11月10日に完成。今回は誰の助けもなく、単独で管弦楽パートも作曲。とにかく理論に疎いので、実際に音が出るまで自分が書いた音楽がどうなっているのか分からない。グローブ劇場を借り、60名の演奏家を雇い、ビル・デイリーの指揮でリハーサルを敢行。費用はすべてガーシュウィンの自腹。結果は良好で、楽譜の修正は6箇所ほどだったらしい。
11月下旬より、ニューヨーク交響楽団とガーシュウィン本人のピアノで正式のリハーサルがスタート。
1925年12月3日、カーネギー・ホールにて初演。演奏はウォルター・ダムロッシュ指揮のニューヨーク交響楽団。ピアノ独奏はジョージ・ガーシュウィン。演奏時間は約31分。
楽器編成は、ピアノ独奏、ピッコロ、フルート2、オーボエ2、イングリッシュ・ホルン、クラリネット2、バス・クラリネット、ファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ3、大太鼓、小太鼓、シンバル、銅鑼、トライアングル、鐘、木琴、弦5部。

全体は、急−緩−急の3つの楽章からなり、各楽章の構成に伝統的なピアノ協奏曲の体裁(ソナタ形式)らしきものもありますが、根本的には「ラプソディー・イン・ブルー」と同様の自由な狂詩曲のスタイル。メロディとその変奏、みたいなレベルで書かれた「ピアノと管弦楽のための3つのラプソディ」ですね。カデンツァ風のピアノ独奏で、幾つかの管弦楽主題をつないだ、簡単にいえば「ラプソディー・イン・ブルー」の続編的内容(長尺化された劣化コピー)。
2作品を並べると、前作でのファーデ・グローフェの功績が如何に大きかったか、明確に見えてきます。

自身の演奏を前提としたピアノ独奏部はさておき……注目の管弦楽部分ですが、意気込み先行の気負い負け。あまり面白くないです。
なにがやりたいのか分からない。ただピアノ独奏を盛り上げるためにドンジャガ鳴っているだけ。協奏(独奏とオケが協力し合って盛り上げる)でも、競争(独奏とオケが競い合って盛り上げる)でもない。
致命的なのは、売りであるはずのメロディに、「ラプソディー・イン・ブルー」ほどのインパクトがないこと。半分くらいカットしてまとめていたら、少しはマシになっていたかも。
前回ご紹介したレナード・バーンスタインの言葉に、なにも付け加えることはございません。
ソングライター出身の独学で、よくぞここまでやったと誉めることもできますが……例えば、モーリス・ラヴェルのピアノ協奏曲(1932年初演)などと比べると、プロとアマチュアの差が歴然と感じられます。

そのモーリス・ラヴェルも、ガーシュウィンのファンでありました。

1928年、初めてアメリカを訪問したラヴェルが、53歳の誕生パーティをニューヨークで催した際、プレゼントに何が欲しいかと訊かれ、「ジョージ・ガーシュウィンのピアノが聴きたい」と答えた。もちろん、ガーシュウィンは喜んで応じ、ラヴェルも演奏に満足したということです。
この二人の間には、なかば伝説となっている有名なセリフがあります。

「一流のジョージ・ガーシュウィンは、二流のモーリス・ラヴェルになる必要はない」

管弦楽法の教えを請うたガーシュウィンに、管弦楽の達人モーリス・ラヴェルが残した言葉だそうですが。これには二通りの解釈があって、ポピュラー音楽の人間が下手な管弦楽作品を書くことないよ、自分にあった分野で頑張ってね、という意味と、なまじ楽典を知るとそれにがんじがらめになって自由な創作が束縛される、なにも知らないままの方がよろしい、という意味。
どちらにせよ、最先端の作曲家として注目されていたモーリス・ラヴェルも、ガーシュウィンの音楽に関心を寄せていたことは間違いないところで……ラヴェルのピアノ協奏曲には、「ジャズから借りた要素」も含まれていますしね。(もっともラヴェルがピアノ協奏曲を書く際に参考としていたのは、カミーユ・サン=サーンスだったそうですが)

さて、ディスク紹介ですが……この楽曲自体あまり好きではないし、好き嫌いを離れて、冷静に第三者的にみても取るに足らぬ作品なので……これといってオススメはないんですね。
とりあえず、どんな曲か知りたいというのであれば、次の2枚をどうぞ。

ガーシュウィン:ピアノ協奏曲 ヘ調
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ガーシュウィン:ピアノ協奏曲 ヘ調

アンドレ・プレヴィン(ピアノ)
アンドレ・コステラネッツ管弦楽団

01 ピアノ協奏曲 ヘ調
02 ラプソディー・イン・ブルー

CBS Columbia 1960年 ステレオ録音

50〜60年代はジャズを飯のタネにしていただけあって、プレヴィンのピアノ・プレイは自由奔放。管弦楽部分はどうあがいても面白味に欠ける楽曲なので、ピアノ独奏をメインに楽しみたい方向けの1枚。

ガーシュウィン作品集
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ガーシュウィン作品集

アール・ワイルド(ピアノ独奏)
アーサー・フィードラー 指揮
ボストン・ポップス管弦楽団

01 ラプソディー・イン・ブルー
02 ピアノ協奏曲 ヘ調
03 パリのアメリカ人
04 アイ・ガット・リズム変奏曲

RCA/輸入盤 1959-61年 ステレオ録音

アール・ワイルドのピアノは、真面目。ボストン・ポップスの演奏は、堅実かつダイナミック。極めて模範的な演奏で、楽曲本来の姿を正しく知りたい方向けの1枚。録音が素晴らしいのでオーディオ・チェックに最適。併録の「パリのアメリカ人」は同曲の代表的名演なので、こちらを目当てに買っても損はありません。

「ピアノ協奏曲 ヘ調」のヨーロッパ初演は1928年5月29日、パリ・シャンゼリゼ劇場にて。ピアノ独奏は、のちにハリウッドで映画音楽の大家となるディミトリ・ティオムキン。
そのとき演奏会場にいた音楽家の感想を、ふたつ。

32小節のコーラスの連続というだけの、まとまりのない曲である。

セルゲイ・プロコフィエフ(作曲家)

ジャズとしてはいいが、出来損ないのリストである。

セルゲイ・ディアギレフ(ロシアバレエ団主宰)

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