FBI、CIA、司法省、すべて大統領の家来。
ワシントン・ポスト紙の下っ端記者カール・バーンスタインとボブ・ウッドワードによる、ウォータゲート事件追跡ルポルタージュの映画化。製作はロバート・レッドフォードとアラン・J・パクラ。
政治映画が当たらないのは日本も米国も同じ。事件の発端からリチャード・ニクソンの失脚に至るストーリーはみなさんご存知。だから映画は事件の解明ではなく、真相を追う記者、その行動を追ったストーリーになっている。
電話して、人と会い、話を聞いて、資料を収集し、裏を取る。調査報道の仕事が延々と繰り返されるだけの構成。ダスティン・ホフマン(バーンスタイン)とレッドフォード(ウッドワード)の共演でなければ、地味な興行で終わってたと思う。
事件の全容を知るディープ・スロートと名乗る男(ハル・ホルブルック)からの情報提供で、主人公たちは真相に迫っていくのだが、映画では、この謎の男の扱いがぼんやりしている。映画の登場人物はすべて実在、役名も実名を使っている。だから扱いがデリケート。事件以前からウッドワードがディープ・スロートと顔見知りであった事実がぼかされていて、二人の関係がよく分からない。名前は明かさないとしても、なぜウッドワードの取材に協力しているのかが謎のままでは、観客に不親切だろう。
いまでは情報提供者の正体がFBIの副長官であったことが判明している。
(DVD特典に本人の映像あり)
アメリカの行政組織や役職名に不案内な日本人(しかもこの映画公開されたときまだ高校1年だったんだぜ!)には、誰がどうして何やってるのか、さっぱり分からない。脚本はドキュメンタリー形式に徹底していて、感情に訴えかけるドラマチックな演出を外して書かれている。ハリウッド風娯楽になるのを避けたのは分かるが、もう少し面白く作れたんじゃないのか。
撮影はリアリズム重視で裁判所や国会図書館などロケが多いが、ワシントン・ポストの社屋はワーナー・スタジオのセット。プロダクション・デザイナーは「チャイナ・シンドローム」で原子力発電所を作ったジョージ・ジェンキンス。細部へのこだわりが作品の信憑性を高めている。広いフロアは白い柱や白いパーテーション、白いデスク、白いキャビネット、白い天井に並ぶ蛍光灯の反射光が全体を真っ白に。
公開された頃、字幕は縦書きで画面右側(上手)にあり、映像の白さと重なってすこぶる読み難く(当時の芥川賞小説を洒落て)限りなく透明に近い字幕と揶揄された。
対象的にディープ・スロートと密会する駐車場は恐怖を感じさせる暗さ。撮影監督は「ゴッドファーザー」のゴードン・ウィリス。この人は影を作るのが上手い。
録音、音響効果がとても目立つ映画でもある。
主人公たちの上司を演じているのが、ジェイソン・ロバーズ(主幹)、ジャック・ウォーデン(社会部の部長)、マーティン・バルサム(編集局長)というベテラン俳優。
この3人のバックアップは頼もしい。
映画は、大統領就任のテレビ報道をよそに、バーンスタインとウッドワードが、黙々と事件の記事をタイプしているロングショットの場面で終わる。
彼らの書いた一連の記事がニクソンを退陣させてしまうのは、先刻承知の事実なので、ばっさりカット。この判断は良い。
この新聞社の前日談は、スピルバーグの「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」で。ジェイソン・ロバーツの編集主幹をトム・ハンクスが演じている。
いつの世も、ハリウッド映画人は民主党支持、共和党が嫌い。
70年代の背広は襟幅が広いのが特徴。おれが高校卒業時に初めて買ったスーツも襟が広かった。ワイシャツの腕まくり、ネクタイをだらしなく緩めたスタイルも当時の流行。
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