アンリ=ジョルジュ・クルーゾー第1回監督作品。
ドイツ軍占領下のパリにてドイツ資本のコンチネンタル・フィルムが製作。スタニスラス=アンドレ・ステーマンの原作小説をクルーゾーとステーマンが脚色している。
宝くじで大当たりを獲った男が深夜の路上で「ムッシュ・デュラン」を名乗る連続殺人鬼に殺害される。
犯人の手掛かりを掴んだピエール・フレネー警視は牧師に変装。
モンマルトル21番街の安宿「ミモザ館」で潜入捜査を開始。
そこへ彼の恋人で歌手のシュジー・ドレール嬢も好奇心たっぷりにやって来て。
からくり人形作りの職人、ワケアリの元軍医、試合の事故で視力を失った元ボクサー、妙に色っぽいその看護師、お調子者の奇術師、売れない女流作家、声帯模写が得意な使用人。ユーモアたっぷりに紹介される「ミモザ館」の住人(容疑者たち)は、まるでフランク・キャプラ「我が家の楽園」みたいにエキセントリックな曲者揃い。
容疑者が逮捕されたあと、警察の尋問中に別の殺人事件が発生し、住人たちは全員アリバイが成立。さて真犯人は誰か、謎解き推理の興味も入って最後まで面白い。
残酷な殺人事件を扱っていながら、後のクルーゾー作品からは想像し難い、ライトなロマンチック・コメディ・スタイルのサスペンス・スリラー。
第1回監督作品とあって、ぎこちないところも多々見受けられるものの、本場フランスのアプレゲールを体現するシュジー・ドレール嬢の好演が楽しく魅力的。
本作の歌唱は吹き替えでなくすべてドレール嬢本人によるもの。ダンサー、歌手としても活躍していただけあってとても上手い。後年、彼女が歌う「セ・シ・ボン」を気に入ったルイ・アームストロングは同曲をサイ・オリヴァー楽団の伴奏で録音。
いまではサッチモ版のほうがスタンダードになっちゃってる。
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