イタリア・ロマンスの旅(4本)
2021/07/18
旅愁
SEPTEMBER AFFAIR
1950年(日本公開:1952年04月)
ウィリアム・ディターレ ジョセフ・コットン ジョーン・フォンテイン ジェシカ・タンディ フランソワーズ・ロゼー ロバート・アーサー ジミー・ライドン
ジョーン・フォンテインを追いかけて、50年ぶりくらいに再見。「レベッカ」のころよりはグッと大人になったフォンテインと、ジョセフ・コットンによるメロドラマ。
製作は数多くのヒット作を放ったハリウッド・タイクーンのハル・B・ウォリス。監督はベテラン職人ウィリアム・ディターレ。これ見よがしな演出はないけれど手堅く作られている。
「旅愁」といえば「セプテンバー・ソング」。CDなどの曲目解説でも、映画「旅愁」に使われリバイバル・ヒットしたと書かれている。
映画はラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」をクライマックスに用意している。
コンサートでピアニスト役のジョーン・フォンテインが弾いて拍手喝采。感動的に盛り上がる。
ハリウッドはラフマニノフが好きだね。新しいところでは、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」で「交響曲第2番」が使われていた。
本作の音楽監督は甘美なオーケストレーションに本領発揮のヴィクター・ヤング。
コスミック出版の500円DVDは音割れしていて残念。
前半はイタリア観光。
ローマに始まって、ナポリ、ベスビオス火山とポンペイ、カプリ島、フィレンツェとイタリアの歴史遺産・名所が、現地ガイド付きで紹介される。
カプリ島の青の洞窟はテクニカラーで見たかったなあ。
目当てのフォンテインは美しく魅力的に撮られていたが、ピアノ教師役のフランソワーズ・ロゼーとコットンの奥さん役のジェシカ・タンディが、奥行きのある役作りで良好。ジェシカ・タンディがフランソワーズ・ロゼーを訪ねてくる場面など、普通に撮っているだけなのに二人の存在は際立っている。ここの芝居がいちばんの見所かも。
ジョセフ・コットンは本作でも地味。
ときおり場面に子供を登場させるのは、子供好きな人物に悪人はいないという観客の先入観を利用した脚本の常套手法。
ポピュラー音楽を介して男と女が惹かれ合う、去ってゆく女を男が空港で見送る、これも「カサブランカ」以来の伝統手法。
そうだ、「カサブランカ」もハル・B・ウォリスの製作だった。
65点
#イタリア・ロマンスの旅
2021/07/20
ローマの休日
ROMAN HOLIDAY
1953年(日本公開:1954年04月)
ウィリアム・ワイラー オードリー・ヘプバーン グレゴリー・ペック エディ・アルバート パオロ・カルリーニ ハートリー・パワー マーガレット・ローリングス ハーコート・ウィリアムズ クラウディオ・エルメッリ
すべてのロマコメは「ローマの休日」に通じる。
ロマコメ、ラブコメといえば、多くの映画ファンが真っ先にタイトルを挙げるであろう、ロマンチック・コメディの代表作。
欧州某国の王女が身分を隠してアメリカ人の新聞記者と一日だけのデートを楽しむ。
細かいギャグがテンポ良く配置され、終盤は王女の成長がぐっとストーリーを引き締める。グレゴリー・ペックが記者会見場を去るときの、哀愁漂うラストの余韻がいい。
オードリー・ヘプバーンの代表作でもあるが、ウィリアム・ワイラーとしては異色。
なにしろ、長いキャリアのなかでコメディは戦前の「お人好しの仙女」、戦後は本作と「おしゃれ泥棒」くらい。人間の心理描写をじっくり丹念に撮るのが得意で、本来は明朗な作風の監督じゃないのだけど。
文芸ロマンス「嵐ヶ丘」、歴史スペクタクル「ベン・ハー」、西部劇「大いなる西部」と、いろんなジャンルの代表作を撮っている。「デッドエンド」、「探偵物語」、「必死の逃亡者」、「コレクター」などの犯罪もの、サスペンス映画も上手い。
なんでもござれの職人監督で腕前は一級。
巨匠とはまさにこの監督。
75点
#イタリア・ロマンスの旅
#ハリウッド映画の巨匠:ウィリアム・ワイラー
2021/07/20
終着駅
STAZIONE TERMINI
1953年(日本公開:1953年09月)
ヴィットリオ・デ・シーカ ジェニファー・ジョーンズ モンゴメリー・クリフト リチャード・ベイマー ジーノ・チェルヴィ
すべての道はローマに通じる。
ヴィットリオ・デ・シーカ監督以下スタッフはイタリア人ばかりだが、デヴィッド・O・セルズニック製作のアメリカ映画。
主演はセルズニックのジェニファー・ジョーンズとモンゴメリー・クリフト。
前年(1952年)の「真昼の決闘」を意識していたのか知らないけど、時計のカットを頻繁にインサートして上映時間と劇の進行のタイミングを合せたストーリー構成。
人妻のジェニファーがイタリア旅行中に恋仲になったモンゴメリー・クリフトのアパートを訪ねるファーストシークェンスのあとは、落成したばかりのローマ駅に舞台を固定。
そこを往来する人々のスケッチに、デ・シーカらしい庶民派タッチの人情がうかがえる。公衆電話のナンパ中年男(パオロ・ストッパ)とかコミカルなのも面白いが、構内警察の室長がみせる粋な温情裁きが本作のハイライト。池波正太郎「鬼平犯科帳」にも似たエピソードがあったような気がする。
三等客の待合室でジェニファーが知り合う移民一家、その子どもたちに両手に持ちきれないほどのチョコレートを買い与える場面はデ・シーカならではのネオレアリズモ。
主役ふたりの恋の成ゆきはセリフによって説明される。
その(アップを多用した)やりとりはいささかネチッこくて、うざったい。ジェニファーの目まぐるしく変化する表情は、もはや怪演と呼びたいくらいに凄味がある。
ジェニファーおばさんにスーツケースとコートを届ける少年は、のちに「ウエスト・サイド物語」でトニー役を演じたリチャード・ベイマー。
65点
#イタリア・ロマンスの旅
2021/07/19
旅情
SUMMERTIME
1955年(日本公開:1955年08月)
デヴィッド・リーン キャサリン・ヘプバーン ロッサノ・ブラッツィ イザ・ミランダ ダーレン・マクギャヴィン マリ・アードン ジェーン・ローズ イターノ・アンディエロ
地味な仕事でコツコツと貯めたお金で休暇をとり、ヴェニスに観光旅行。
恋愛に縁がなかったオールドミス(死語!)のキャサリーン・ヘプバーンが、現地の骨董屋主人(ロッサノ・ブラッツィ)とつかの間の恋を楽しみ、アメリカに帰ってゆく。
さすがにデヴィッド・リーンが撮ると観光映画でもワンショット、ワンショットに説得力がある。アーサー・ローレンツの舞台劇をリーンとH・E・ベイツが共同脚色。単純に名所を見せるだけでなく、土地柄というか情感が伝わってくるジャック・ヒルデヤードの撮影が素晴らしい。やっぱり観光映画はカラーが嬉しい。
ヘプバーンは、キンキンした声と早口でちょいと苦手な女優さんだけど、本作は役柄がうまくマッチして好感。中年女性の独立心と孤独感が素直にスケッチされている。運河に小石を投げるシーンとかいいね。くちなしの花で男の純情を嫌味なく見せたロッサノ・ブラッツィも好演。
8ミリ・カメラで観光名所を撮りまくるヘプバーン他、アメリカ(戦勝国)観光客の皮肉も苦笑を誘う。(たぶん戦争で孤児になった)アンディエロ少年がいいアクセントになっている。彼を敗戦国イタリア側の視点で追いかけるとデ・シーカの「靴みがき」になる。ラブシーンの花火置き換えも無理がない。カップルがゴンドラに乗るってことは、つまりそういうことなのね。
ビーフステーキがなければ目の前にあるラビオリを食べればいい。
70点
#イタリア・ロマンスの旅