ゲイリー・クーパー 西部劇3本立て(3本)
2020/04/23
平原児
THE PLAINSMAN
1936年(日本公開:1937年03月)
セシル・B・デミル ゲイリー・クーパー ジーン・アーサー ジェームズ・エリソン ヘレン・バージェス チャールズ・ビックフォード
ゲイリー・クーパー主演、セシル・B・デミル監督の西部劇大作。
1865年、南北戦争終結。平和が戻ったのは良いが、倉庫には新型ライフルがわんさか残っている。がめつい武器商人たちは、毛皮商のラティマ(チャールズ・ビックフォード)を仲介して、これを白人に友好的なインディアンに売り渡す計画を練る。そんなときリンカーン大統領が暗殺され政局は混乱。この機に乗じてラティマは好戦的なシャイアン族にライフルを横流しする。カスター将軍(ジャン・ミルジャン)から密命を受けたワイルド・ビル・ヒコック(ゲイリー・クーパー)は、シャイアンの酋長(アンソニー・クイン)の動向を探りにいくが、先に囚われていたツンデレ恋人のカラミティ・ジェーン(ジーン・アーサー)とともに拘束され、火炙りの危機。ヒコックの命を救うため、ジェーンは軍の輸送ルートを酋長に喋ってしまう。二人は開放されたが、輸送隊は待ち伏せしていたシャイアン族に襲撃される。誰がチクったんだと、疑惑の眼差しに晒されるヒコックとジェーン。武器横流しにラティマが関わっていることを知ったヒコックは、ラティマの悪事に加担していた軍服三人組を射殺し、お尋ね者になってしまう。ヒコック逮捕を命じられるのは、新婚ほやほやの旧友バファロー・ビル(ジェームズ・エリソン)。妊娠している新妻(ヘレン・バージェス)を残して、ヒコックを追う。
実在の西部劇ヒーローが主人公ではあるが、ストーリーはほとんど映画の創作。日本でたとえれば「忠臣蔵」とか「新選組」のようなものだろう。
酒場でカード遊びしていたヒコックが、背中から撃たれて死亡するのは史実。
巨匠デミル監督らしい娯楽大作で、公開当時大ヒットしたらしい。いま観てもストーリー運びはテンポ良く、戦闘場面も迫力があって退屈しない。ヒコックとジェーンの恋愛模様も適度なユーモアがあって、バファロー・ビル夫妻との対称関係も(定石どおりではあるが)良好。
ジェーンがキスするたびに顔を拭っていたヒコックが、凶弾に倒れたラストのキスでは顔を拭かない。この場面に(うまい脚本だなあと)感心した。
なにより、ゲイリー・クーパーが格好いい。
歴代ハリウッド俳優のなかで、最高の二枚目スターはゲイリー・クーパーだ(2位はケーリー・グラントかな?)。
「スター・ウォーズ」風のタイトルは、横断鉄道建設を描いた「大平原」(1939年)が元祖だと思い込んでいたが、こちら(1936年製作)が先だった。
65点
#ゲイリー・クーパー 西部劇3本立て
2020/04/23
西部の男
THE WESTERNER
1940年(日本公開:1951年01月)
ウィリアム・ワイラー ゲイリー・クーパー ウォルター・ブレナン フレッド・ストーン ドリス・ダヴェンポート
名匠ウィリアム・ワイラー監督の西部劇といえば、まず誰しも挙げるのは「大いなる西部」だろう。牧場主の一家が開拓地の水源を巡って争うシリアス・ドラマだった。
だから本作も、農地を荒らす牛の侵入を封じためる鉄条網を作った農民たちと、柵を壊し銃で農民を威嚇するカウボーイたち、誤って牛を撃ち殺し絞首刑になる農民、その判決を独善的にくだす判事ロイ・ビーン(ウォルター・ブレナン)と、序盤の状況説明をみて「大いなる西部」と同じテーマを持った映画ではないか、と思っていたのだが……
馬泥棒の容疑者としてゲイリー・クーパーの流れ者が登場したあたりから、映画は風変わりな、オフビート喜劇っぽいタッチになる。
クーパーを追うブレナンの馬が墓標を蹴飛ばしたタイミングで、わざわざコミカルな効果音(ピャン)を付けてることから、笑いを狙った映画であることは明白。酔いつぶれて抱き合ったまま朝をむかえたクーパーとブレナンの芝居は、あきらかに喜劇だ。勝ち気な農家の娘(ドリス・ダヴェンポート)から歌姫の髪をいただこうとする場面なんか、ロマンスコメディの典型。なのに……
クーパーのとりなしで和解したかに見えた牧場と農家だったが、収穫前のお祭りで農民たちが浮かれている最中、カウボーイたちはトウモロコシ畑に火を放ち、住居や小屋まで焼き払い、娘の父親を殺してしまう。この仕打に怒りをおぼえたクーパーは、副保安官のバッジを胸に、無観客の劇場でブレナンを待ち伏せ、対決する。
素性の怪しい住所不定の流れ者を、そんな簡単に副保安官に任命できるのものなのか? でもロイ・ビーンだって判事だもんな。そんな時代だったんだろう。
それぞれの場面はワイラーらしく丁寧に撮られている。おかしい芝居はおかしいし、迫力もあり、怒りもあり、役者は端役にいたるまでそれぞれに味が出ていた。ウォルター・ブレナンはアカデミー助演賞を受賞。これはワイラーの功績だろう。
ドリス・ダヴェンポートは、「風と共に去りぬ」スカーレット・オハラ役のオーデションで、最終候補に残っていたという。だから家を焼失し父親を殺され農民たちが去ってゆくなかで、あのセリフ、あの演技があてがわれたのだろうか?
支離滅裂な脚本、どっちつかずの演出、これがサミュエル・ゴールドウィン&ウィリアム・ワイラーの仕事とは信じられない。それぞれの場面は丁寧に撮られているだけに、錯乱していたとしか思えない。
60点
#ゲイリー・クーパー 西部劇3本立て
#ハリウッド映画の巨匠:ウィリアム・ワイラー
2020/04/27
真昼の決闘
HIGH NOON
1952年(日本公開:1952年09月)
フレッド・ジンネマン ゲイリー・クーパー グレイス・ケリー トーマス・ミッチェル ロイド・ブリッジス ケティ・フラド リー・ヴァン・クリーフ
西部の小さな町に釈放された無法者が帰ってくる。駅で待っている仲間。彼らの狙いは、結婚式を挙げたばかりの保安官(ゲイリー・クーパー)への復讐。住民の応援を得られず孤立無援の保安官は、4対1の不利な状況で決闘に臨む。
ハリウッドの赤狩り騒動とともに語られることが多い、スタンリー・クレーマー&フレッド・ジンネマンの異色西部劇。
ジョン・W・カニンガムの「ブリキの星章」(わずか2ページの雑誌掲載の小説)が原作だが、カール・フォアマンの脚色が抜群に良かった。マッカーシーの公聴会で鍛えられた、フォアマンの不屈の精神がよく反映されていると思う。本作のあとに彼が書いた「戦場にかける橋」などと合わせてみるに、頑固で屈強な侠気のある人なんだろう。
いちばん最初に町を逃げ出すのが判事(オット・クルーガー)だったというところに、公聴会で虐められたフォアマンの皮肉がある。
町民たちの思惑が、テンポよく簡潔に説明されている。演じる役者たちも、町長(トーマス・ミッチェル)以下、それぞれに適役好演。特に保安官助手(ロイド・ブリッジス)が複雑な感情変化をみせて巧い。
保安官が応援要請に町を歩き回る過程で、彼がそれほど町民に好かれていなかったこと、女性関係にだらしない男であったことが分かってくる。
無法者(アイアン・マクドナルド)の復讐心は、逮捕・監獄されたことへの恨みだが、その裏には女絡みの因縁もある。そのことは酒場のオーナー(ケティ・フラド)が店を売って、町を逃げようとしていることから分かる。
無法者を刑務所送りにしたあとケティ・フラドとくっついた保安官が、結婚相手に選んだのは白人のグレース・ケリー。これは人種差別か職業差別か。
4対1の決闘場面を売り物にしているような邦題だが、この映画のほんとうの見所は、決闘が始まる前までにある。
そもそも今回の決闘は、町の治安を守るためとか、どうにも許せない悪を断罪すべし、というような正義感が動機ではないからね。まず、刑務所送りになった男の私怨(たぶん女絡み)の復讐があり、その災難から逃れる手段として、保安官は決闘を選択している。
この場を逃がれても、奴らは執念深く追ってくるだろう。どこへ逃げても、いつ襲ってくるかわからない恐怖に怯えて生きていくのはごめんだ。いまここでハッキリと決着(カタ)をつけてやろう。幸いなことに胸には保安官のバッヂがある。「正義」とか「町の治安」とか言って呼びかければ、町民たちは応援に駆けつけてくれる。みんなが私を味方してくれる(はずだ)。町民が一致団結すれば、荒くれ者の4人くらい、あっさり片付けられる。奴らを皆殺しにして、後腐れなくサッパリしたら、綺麗な花嫁と気持ちよく新婚旅行に行こうぞ。とか、甘い考えで決闘を選択しちゃったんだよね。
苦渋の表情に現実味があると言えるものの、主演のクーパー(当時51歳くらい)が、やけに老け顔で。ひたすら助けを求めて町を歩き回り、断られて絶望し、死の恐怖に怯え、机に突っ伏して泣く。いざ決闘となると、建物の陰から忍び寄り、相手の背後から銃を撃ったりと卑怯千万。ヒーローにあるまじき行為が西部劇ファンの顰蹙をかった。
だからこそ、それまでの娯楽西部劇を凌駕したリアリズム・ドラマとして高く評価されている面もあるのだけど。
これを観たハワード・ホークスが頭にきて、痛快西部劇の傑作「リオ・ブラボー」を撮ったという逸話も残っている。ホークスがほんとうに憤慨していたかどうか、分からんのだけど。
上映時間と劇の経過時間をシンクロさせた構成・編集(それほど正確にシンクロしているわけではないし、さほど緊迫感も感じられない)、テックス・リッターの主題歌、若妻を演じたグレース・ケリーの美貌など、話題に事欠かない映画ではあります。
映画の最初の場面に出てくるガンマンはリー・ヴァン・クリーフ。鋭い眼差しの精悍なルックス、スラリと伸びた長い脚、悪役ながら格好いい。のちにセルジオ・レオーネ監督の「夕陽のガンマン」でマカロニ西部劇のスターとなる。そのときの相棒役のクリント・イーストウッドがハリウッドに戻って主演したのが「ダーティハリー」。ラストでキャラハン刑事が投げ捨てるバッヂは、本作のモノマネかオマージュか。
70点
#ゲイリー・クーパー 西部劇3本立て