soe006 訃報 マイケル・ブレッカー&アリス・コルトレーン

訃報 マイケル・ブレッカー&アリス・コルトレーン

January 16, 2007

本日は延び延びになっちゃった「明るい表通りで」の最終回:ジョン・ピザレリの巻でも書こうかと考えていたのですが、訃報が2つ入ってきたので見送り。

しかし、あれです、最近よくコロコロと死んじゃいますね。
60〜70年代のサブ・カルチャーを扱っているブログなんか、訃報だけ扱っていてもネタに困らないんじゃないでしょうか。
そんな無茶してまでブログ管理人を喜ばせることないっすよ。
もっと長生きしてください。お願いします。

訃報 マイケル・ブレッカー
テナーサックス奏者のマイケル・ブレッカーが、1月13日、白血病のためニューヨークで亡くなりました。
マイケル・ブレッカーは、1949年ペンシルベニア州フィラデルフィア生まれ。ハービー・ハンコック、パット・メセニー、チャーリー・ヘイデン、チック・コリアなどのアルバムに、フィーチャード・ソロイストとして数多く参加。1970年代に、トランペット奏者の兄ランディ・ブレッカーとバンド「ブレッカー・ブラザーズ」を、マイク・マイニエリ(ヴァイブ)やエディ・ゴメス(ベース)らと「ステップス・アヘッド」を結成。フュージョン・ブームの一画を築く。
抜群のテクニックを持ったスタジオ・ミュージシャンとして、ジャンルにこだわることなく、ポール・サイモン、アート・ガーファンクル、ジェームス・テイラーなどのポップ・ミュージシャンと数多くのレコードを制作、グラミー賞を11回受賞。
特に日本での人気は高く、1970年代から40回以上の来日公演を行っており、来日の際には野口五郎、SMAP、吉田美和など日本人ミュージシャンのアルバムに参加。発病の直前には森山良子との共演盤も録音していました。

1990年代にマッコイ・タイナーやエルヴィン・ジョーンズと共演して、ストレート・アヘッドなジャズを演奏し、ただのフュージョン吹きでないことを実証。辛口の評論家やベテラン・リスナーを唸らせました。

2005年、骨髄異型性症候群を患っていることを公表、予定されていたコンサートツアーを全てキャンセルして闘病生活に入る。一時は回復に向かいハービー・ハンコックのステージに飛び入り参加もしたが、2007年1月13日、白血病のため死去。享年57歳。

マイケル・ブレッカーの代表作というと、やっぱり兄弟バンドのデビュー・アルバム『The Brecker Brothers』(Arista)でしょうか。

ザ・ブレッカー・ブラザーズ
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ザ・ブレッカー・ブラザーズ
The Brecker Brothers

Arista/BMG
ランディ・ブレッカー、マイケル・ブレッカー、ウィル・リー、ドン・グロニルク、デヴィッド・サンボーン、他

フュージョンはあまり好きじゃないのですが、良くも悪くもこれが当時(1975年録音)の最先端サウンドだったわけで……「カッコイイ」の一言で説明おわりの軽薄さが、時代にマッチしていたんでしょう。大ヒットしましたね。渡辺香津美とステップス・アヘッドの共演ライヴを六本木ピットインに見に行ったんですが、客席の雰囲気がもうジャズじゃなかったです。
でもね、例えばジョン・クレマーなんかもそうなんですが、あの頃はストレートなジャズをやっても、相手にされない時代でもあったんですよ。やればやったでコルトレーンの二番煎じみたいに言われて。

そういう時代の流れに迎合しなかった方も、お亡くなりになりました。

訃報 アリス・コルトレーン
ピアニストのアリス・コルトレーンが1月12日、呼吸器不全のため亡くなりました。69歳でした。
アリス・コルトレーンは、1937年ミシガン州生まれ。サックス奏者のジョン・コルトレーンの妻(結婚前はアリス・マクロード)として知られ、コルトレーンのグループからマッコイ・タイナーが抜けた1964年より、『ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード・アゲイン』、『エクスプレッション』などのアルバムに参加。1966年のコルトレーン来日コンサートにも同行しています。
67年7月にジョンが亡くなった後も、その遺志を継ぐようにスピリチュアルな作品を発表し続け、近年、その高い精神性を内包したサウンドは再評価を受け、多くのアルバムが再発されました。
2004年、26年ぶりに発表した、愛息ラヴィ・コルトレーンのプロデュースによるアルバム『トランスリニア・ライト』が最後の作品となりました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

私はフュージョンも嫌いなんですが、それ以上にフリー・ジャズは苦手なんですね。
私がジャズ喫茶通いを始めたころは、まだ「修行」って言葉が残ってました。別に自分が演奏するわけでもなく、ただ聴くだけなんですけど。
聴くだけなのに「修行」があったんですね。あの頃は。
私の場合、1967年7月の『ジョン・コルトレーン・イン・ジャパン』(Impulse!)
これ、箱に入った3枚組LPだったんです。CDはどんな体裁で売られているか知りませんけど(……知りたくもありませんし)。
それで、この3枚組をぶっ通しで約2時間聴く。
ただぼんやり聞くのはダメなんですね。「分かる」とか「理解」というキーワードがあります。

ああ、こういうこと書いてると、また昔の胸くそ悪いこと思い出してイヤんなっちゃうなあ。

で、頑張って聴くんだけど、やっぱり「理解」とか「分かる」とかが邪魔して、「修行」を最後まで全うできないんです。
ジャズの場合、音楽はお友だちじゃないんですね。
いったん敵として対峙する。それで相手のことがよく見えてくる。
時代はフュージョンなんで、リターン・トゥ・フォーエバーやらウェザー・リポートやらスパイロ・ジャイラやら、レコードケースに入ってることは入ってるんですが……そういうフレンドライクな今風のサウンドを、「軽薄である」の一言で斬り捨てて、ひたすらぎょぅるろろろな音世界に没入する精神こそがジャズ魂なのであります……ワイングラス片手にスムース・ジャズとか流してる現代の小娘なんかには、絶対に「理解」できないだろうけど……そういう厳しい「修行」があったんですよ、あの頃は!

そういう「修行」の挙げ句の果てに、今の私があるわけで……
そんな意味でも、アリス・コルトレーンの訃報は感慨深いものがありますですよ。(「イン・ジャパン」のピアノはアリスでしたし)

で、上にも書きましたけど、昨年、アリスは息子との共演で(なんと26年ぶりに!)新譜を発表したんですね。
聴いて驚いたですよ。
昔とぜんぜん変わってない!

アリス・コルトレーン トランスリニア・ライト
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アリス・コルトレーン トランスリニア・ライト
Translinear Light/Alice Coltrane

Impulse! 2004年録音
アリス・コルトレーン(p、org)
ラヴィ・コルトレーン(ts、ss)、オーラン・コルトレーン(as)、チャーリー・ヘイデン(b)、ジェームズ・ジナス(b)、ジャック・デジョネット(ds)、ジェフ・ワッツ(ds)

息子のラヴィ・コルトレーン(テナー・サックス)は、親方と同じ道具と技で手作りしている下駄作り職人のように、親父と同じフレーズを同じようなニュアンスで忠実に、まるで伝統芸のように残しているんです。アリスのピアノも、池波正太郎が愛した下町の食堂のように、昔と変わらない味。
1960年代となに一つ変わっちゃいねえんです。

更に驚いたのは、なに一つ変わっちゃいねえのに……
すげー聴きやすくなっている!
これなら大丈夫です、立てます、総統!

年齢を重ねると、言葉では説明できない不思議な力を持つようになるらしいのですが、ついに(とうとう)私にもそんな霊能力が身に付いてきたのでしょうか?
考えてみたら、私ってばもう、コルトレーンが死んだ年齢よりもおじさんになっちゃってるんですよね。
トレーンと違って、神に近づきたいとはぜんぜん思いませんけど。
(むしろ、いつまでも無関係でありたいと願っているのですが)

いまになって「修行」の成果があらわれてきたのでしょうか?

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