ビゼー 組曲「カルメン」&組曲「アルルの女」
September 10, 2006
うーん、悪くはないんだけど、今ひとつ踏み込みが足りないと言うか……面白味に欠けるんだよなあ。
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ビゼー:組曲「カルメン」&組曲「アルルの女」
ユージン・オーマンディ指揮 1975〜76年ステレオ録音 RCA/BMG |
おウチは地方の中堅企業の社長さんで、4歳のときからピアノ習ってて、でもガリ勉じゃなくてスポーツも大好き。容姿もそこそこ愛らしく、家のお手伝いもしっかりやってる。そつなく非の打ち所がない。100点とって先生に頭を撫でられ、にっこり笑ってる学級委員長のよし子ちゃんみたいな演奏なんですね。
1975〜76年の録音ですが、マスターテープに多少の汚れがあったらしく、ときおり音がヨレているところがあります。演奏は当時最高に輝いていたフィラデルフィアですし、弱音から強音まで歪みもなく適正音量で鳴っているから、ちょっともったいないです。
「カルメン」も「アルルの女」も、第1組曲、第2組曲ともに本来の順番通り、速すぎず遅すぎず、きっちりテンポでしっかりノーカット収録。
そんなところも委員長のよし子ちゃんなんですね。
名盤として定評があるのも頷けますです。
話題は唐突に変わりますが……
うちの母親はサツマイモとカボチャが大好物なんです。
戦中戦後と、そんな代用食ばかり食べさせられてたから飽きたでしょう? 口にする度に「あの時代」を思い出して、嫌になるんじゃないですか?……とか訊いてみたら、
いまのはあの頃食べてたのより美味しい、とのこと。
確かに品種改良されて、昔より美味しくなってるんでしょうが。単純に、嗜好が子供の頃に戻っているんじゃないかしら。
雀百まで踊りを忘れず、なんてこと言いますけど。
幼いときに覚えた習慣は年を取っても忘れない。それも他人に褒められるようなことじゃなくて、なにコイツ? と奇異なる視線を浴びるようなところなんぞが……贅沢な外食よりも、家でふかし芋を食しているときの方が、数倍倖せそうな表情をしてますですよ。
さて、本日はストコフスキー・ベスト5、第4位の発表。
私にとってのふかし芋がストコフスキーなんですね。
実際、恥ずかしいときもありました。
好きな指揮者は誰? と訊かれ、ストコフスキーと答える。
は、そうかね、ふーん。そうか、君はストコフスキーが好きなのか。そういえば君、好きそうな顔してるもんね。ふーん、やっぱりそうか。
なにが、やっぱりなのかさっぱり分かりませんけど、まあ、ストコ好きを公言して「それはそれは、高尚なご趣味をお持ちでございますねえ」などと、感心されるようなことは一度たりとてありませんでした。
たぶん、いまでも同じような評価をされているのでしょう。
しかもですよ……
で、ストコフスキーのレコードはなにが好きかね? と訊かれて、
「カルメン」組曲が大好きで、毎日のように聴いてます。
……とか答えようなものなら、条件反射的に、プ、とか笑われちまいますですよ。
いやいいんですけどね、笑われても。
ストコフスキー・ベスト5 第4位
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ビゼー:組曲「カルメン」&組曲「アルルの女」
レオポルド・ストコフスキー指揮 1976年 ステレオ録音 Sony/Columbia |
今回聴き比べするために、わざわざ世評の高いオーマンディ盤を買ってみたのですけど……
やっぱり「カルメン」組曲は、ストコに限るなあ!
耳に馴染んでるってのも(絶対に)あるんでしょうが、オーマンディのよし子ちゃんのあとに聴くと、より一層その羽振りの良さ、サービス精神に参ってしまうのですよ、これが!
誤解のないように解説めいたこと書いておきますけど、この演奏でストコフスキーは楽譜をイジってません。死去の1年前(94歳!)の演奏だから、そんな気力はなかったのかも知れませんけど、まっとうなスコアに基づく演奏であります。
更に付け加えると、今回聴き比べしたフィラデルフィア管弦楽団は、ストコフスキー常任指揮者時代にメキメキと腕をあげ、後任のオーマンディもそのストコ・カラーを踏襲しており、いわばストコのドッペルゲンガー。しかもどちらも1970年代半ばの録音。
これだけ似ている条件で、(だから似たような演奏内容かな、と思ったんだけど)はっきりくっきりと差が出てしまったのには驚きました。
とにかく聴いていて楽しい!
ビゼーの楽曲自体がメロディアスで色彩感に富んでいるいるうえに、痒いところに手が届くストコの至れり尽くせりのサービス精神が加味されて、とってもゴージャス! これぞザッツ・エンタティンメント!
よし子ちゃんはクスクス笑い程度の冗談なら口にしそうですけど、ストコは腹がよじれるくらいゲラゲラ笑わせてくれるんですよ! <こういう書き方するからゲテモノ扱いされるんだろうな。
実は、「カルメン」&「アルルの女」(組曲版はだいたいどのディスクでもこの組み合わせで売られています)は、このストコ盤1枚しか持っていません。(今回オーマンディ盤を買ったから2枚になりました)
過去、カラヤン&ベルリン・フィルなど高い評価を得ている演奏を数枚買ったのですが、ストコ盤を凌駕するものがなかったので、すぐに中古盤屋行き。
とは言えこのストコ盤も、CD化されているのを知ったのは去年のことで、それまで私のレコード・ライブラリーには、組曲版「カルメン」は不在だったんですね。高校生のとき買ったLPも、10余年前の財政困難なときに処分してしまっているし。
その空白の期間中も、私の頭のなかでは、ストコ盤が幾度となく繰り返し再生されてたわけです。
とにかく、(私にとっては)そのくらい素晴らしい演奏であります。
百歳まで生きたとしても、たぶん、この録音が「カルメン」&「アルルの女」のベストであり続けると思うのであります。