ジョン・バリー
February 2 2011
クラシックな映画音楽
イギリス出身の映画音楽作曲家ジョン・バリーが、1月30日に心臓発作で亡くなった。享年77歳。
ジョン・バリーは、1933年11月3日、イングランド北部のノース・ヨークシャー州ヨーク生まれ。父親は映画館や劇場を経営、母親はピアニスト。そんな環境だったので幼い頃から音楽を学び、映画音楽の作曲を志していたそうです。
イギリスの音楽学校に入学したものの、出席日数がたりず15歳で中途退学。地方のジャズバンドで演奏しながら、スタン・ケントンの通信教育を受講。ケントン楽団のアレンジャー、ビル・ルッソに作曲・編曲を学ぶ。兵役に応じ入隊。
除隊後、軍隊のバンドで一緒だった仲間に声をかけ、1955年にジャズ&ロックのバンド「ジョン・バリー・セブン」を結成。テレビやラジオに出演し、1957年に EMIレコードと契約。ポップス歌手のアレンジャーなどやりながら、1959年の『狂っちゃいねえぜ』で映画音楽作曲家デビュー。
1962年、モンティ・ノーマンが作曲を担当した『007は殺しの番号』(再映時に『007/ドクター・ノオ』と改題)が大当たり。
以後の活躍は、以下のとおり。
ジョン・バリー:ザ・コレクションJohn Barry:The Collection Disc 1 ニック・レイン指揮 |
『007は殺しの番号/ドクター・ノオ』から 1998年の『マーキュリー・ライジング』まで、約40年間にわたってジョン・バリーが作曲した映画音楽を、製作年代順に 53作品/258分、ニック・レイン指揮シティ・オブ・プラハ・フィルの演奏で収録したシルバ・スクリーンの4枚組。
スコア再演盤ですが、90年代のデジタル録音なので、70年代以前の作品はサウンドトラック盤よりかなり聴きやすい。
指揮者のニック・レインは『美しき獲物たち』以降、ジョン・バリー作品のオーケストレーターを担当していた人で、最近は『ウォレスとグルミット』(TV版&映画版)のオーケストレイションもやっています。
アカデミー作曲賞受賞の『野生のエルザ』、『冬のライオン』、『愛と哀しみの果て』、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』はじめ、ブライアン・フォーブス監督の『恐怖の落し穴』用に作曲された「ギターと管弦楽のためのロマンス」、テレビ映画の『ダンディ2 華麗な冒険』や『我が生涯の大統領』、シャンプーのCMミュージック(「The Girl With The Sun In Her Hair」)まで入って、もうお腹いっぱいの徳用ボックス。
あと『フォロー・ミー』と『イナゴの日』、『ブルース・リー 死亡遊戯』と『ペギー・スーの結婚』が収録されていたら、個人的に嬉しかったんだけど。
この4枚組で、ジョン・バリーの全貌が、ほぼ完璧に掴めます。
私が映画館に通い始めたころ。
映画音楽といえばジョン・バリーだったですね。
ハリウッドの巨匠作曲家が姿を消し、ニーノ・ロータ、エンニオ・モリコーネ、モーリス・ジャール、ミシェル・ルグラン、フランシス・レイが脚光を浴びていたころ。
重厚なオーケストラ音楽から軽いポップス調の音楽まで、硬軟両用、なんでもござれ。話題作・超大作を次々と手がけていましたし、バリーには 007という人気シリーズもありました。
ジョン・ウィリアムスもジェリー・ゴールドスミスも、人気度ではジョン・バリーの足元にも及ばない。
関光夫氏のラジオ番組で流れていた『クイン・メリー 愛と悲しみの生涯』なんか聴いてると、当時を思い出してなにやら切なくなってしまいます。
それはそれとして、上記の4枚組に収められた音楽をダラダラ聴いていますが、ジョン・バリーって作曲家は、本当にムラが多いですね。
特に70年代中期以降は、とびきり美しいメロディと、どーしようもない駄曲が混然と並んでます。
『美しき獲物たち』と『リビング・デイライツ』はマジでどーしようもない。
しかし、その前後には『愛と哀しみの果て』と『ダンス・ウィズ・ウルブズ』でアカデミー作曲賞。
その受賞2作品にしても、もう手練だけで流してしまってるでしょう。
『チャーリー』や『幸福の条件』、『スカーレット・レター』も然り。
毎度おなじみの手法でサラッと軽く撫でたような音楽。
ジョン・バリーらしいといえば、まったくそのとおりなんだけど。
気分を変えて、活きが良かったころの 007でも聴きますか。
ボンド・バック・イン・アクションJames Bond - Bond Back in Action 01 ジェームズ・ボンドのテーマ ニック・レイン指揮 |
ニック・レイン指揮シティ・オブ・プラハ・フィルによるジェームズ・ボンド・シリーズ集。1962年の『007は殺しの番号』から 1971年の『ダイヤモンドは永遠に』までのショーン・コネリー時代を収録。オリジナル・サウンドトラック盤からもれていた音楽を多く採り上げ、「ジェームズ・ボンドのテーマ」ではオリジナル版のギター奏者ヴィック・フリックが参加。
007シリーズは、2作目から主題歌が導入されました。
『007/危機一発』(再映時に『007/ロシアより愛をこめて』に改題)はライオネル・バートによる旧式の甘いラブソングでしたが、3作目からはジョン・バリーが主題歌も作曲。ダイナミックなシャーリー・バッシーの「ゴールドフィンガー」は実に画期的でしたね。続く『サンダーボール作戦』のトム・ジョーンズ、『007は二度死ぬ』のナンシー・シナトラも良い。
ポップス業界に残っていれば、ジョン・バリーはけっこうなヒットメイカーになったんじゃないのかな。
上記 Silva盤はアクション・スコア・オンリー、歌は入ってません。オリジナル・ソングは、EMIが新作のたびに新装コンピレーション盤を出してますから、そちらでどうぞ。
オリジナルで聴く「ゴールドフィンガー」と「サンダーボール作戦」はピークが潰れたバリバリ汚い音質だけど。この2曲はオリジナル歌唱でなきゃ聴く価値ないからね。
「007は二度死ぬ」はアレンジ変えても、良いのが出来るかも知れない。
先日このサイトで紹介したザ・プッピーニ・シスターズのアルバムでは、ルイ・アームストロングが『女王陛下の007』で歌っていた「愛はすべてを越えて」がオシャレなアレンジで収録されていました。
007主題歌ではこの他に、『私を愛したスパイ』のカーリー・サイモン、『ユア・アイズ・オンリー』のシーナ・イーストン、『オクトパシー』のリタ・クーリッジが好みのタイプ。『カジノ・ロワイヤル』(1967年の怪作のほうね)でダスティ・スプリングフィールドが歌った「恋の面影 The Look of Love」も、ディオンヌ・ワーウィックほか多くの歌手に歌われて、いまやスタンダード・ソングの仲間入りしてるし。これらの曲はジャズ系のシンガーが歌ってくれたら新しいスタンダードになるかも。
『カジノ・ロワイヤル』はバート・バカラック、『私を愛したスパイ』と『ユア・アイズ・オンリー』もジョン・バリーじゃないけどさ。
興業価値が限りなくゼロになってしまった近年の 007シリーズですが、音楽はデヴィッド・アーノルドが担当するようになって俄然活気を取り戻しましたね。
デジタル・リズムって好きじゃない(はっきり言うと大嫌い)なんだけど、この人の 007だけは、なぜか好きなんですよ。ががっがががぐぎぎぎってシンセドラムの隙間に、耳なじみのあるボンド音楽が適宜織り込まれてるからだろうな。
ポンド映画のモチーフは、シリーズのなかでいろんなアレンジがされてるけど、どんなスタイルのリズムにも合っちゃうところが凄いんだな。『女王陛下の007』でのパワフルなブラスロック調もいいし、マービン・ハムリッシュ(『私が愛したスパイ』)、ビル・コンティ(『ユア・アイズ・オンリー』)も、それぞれ作曲家の個性を残しながら、すんなり 007の音楽になっていたもんな。モンティ・ノーマンかバリーか、いまとなってはもうどっちでもいいけど、やっぱりたいしたもんだと思う。
それにしても『007/危機一発』って酷い邦題だ。
なにが一発だよ、映画のクライマックスは危機連発してんじゃんよ。
ユナイト宣伝部(当時)の水野晴郎はとんでもないうそつきだね!
うーん、話題がすぐにジョン・バリーから離れてしまう。
なんだか、追悼って感じがしないんですよね。
私のなかでは、ジョン・バリーって『ダンス・ウィズ・ウルブズ』のころで終わってるものですから。
ジョン・バリーの 007を聴いても、最近はフィギュアスケートのキム・ヨナちゃんしか連想しないもんなあ。
007よりもこっちのほうが、アット・ラストにふさわしかったかな。
ジョン・バリー:ムヴィオーラJohn Barry:Moviola 01 愛と哀しみの果て ジョン・バリー指揮 |
作曲者のジョン・バリー自身が英国の名門ロイヤル・フィルを指揮した自選映画音楽自演盤。叙情的なメロディーのテーマに絞って選曲されているのでアルバム全体に統一感がある。オリジナルよりぐっとテンポを落とし、ロマンチックかつムードたっぷりに演奏。弦楽器のアンサンブルが美しい。
ラストに収録された「Moviola」は、このアルバムのために作曲されたジョン・バリーのオリジナル曲。
このアルバムを聴きながら、今夜はおやすみなさいです。