クリスマス・アルバム:ヴォーカル&コーラス編
December 22 2010
クリスマス・アルバムをまとめて聴く第3弾はヴォーカル編です。ジャズのヴォーカルって扱いが難しいんですよ。ポピュラーとの境界線が曖昧でしょう? どこまでがジャズでどこからポップスなのか、不毛な論争のネタになりやすい。前回、前々回も明らかにジャズとは呼べないディスクを扱っていますが……今回はもうドガジャガ!
特に今年のホリデー・シーズンをターゲットにリリースされた新譜については、なぜここで扱うの? みたいなことになっちゃってます。
なるべく波風がたたないように、まず最初はシンガーズ・アンリミテッドのロングセラー盤から。
![]() ![]() |
クリスマス ザ・シンガーズ・アンリミテッドChristmas The Singers Unlimited 01. Deck The Halls Release Date: 1972 |
これもジャズじゃないだろって言う人がいるだろうけど。
収録曲のほとんどが賛美歌ですもんね。
ハイ・ローズのジーン・ピュアリングがリーダーだからか、一般的にジャズに分類されているものの、多重録音のアカペラは異質ですよね。
音がきれいなのでデジタル時代の録音かなって思ってたんだけど、オリジナル(LP)は 1972年のリリースだったんですね。
きほんの基本編で出しておいても良かったかとも思います。
クリスマスはこれじゃなきゃイヤだ、って人も多いんですよ。
静謐な響きが神聖なクリスマスを感じさせますもんね。
でもこれ聴いてジャズっていいね、もっと聴いてみたいなって思う人はいないだろうな。同じ賛美歌でもマヘリア・ジャクソンなら、こっち側に引きずり込めそうな気もするけど。
次もアカペラ。
グラミー賞受賞のコーラス・グループ、Take6によるクリスマス・ソング集です。
![]() ![]() |
Take 6:ザ・モスト・ワンダフル・タイム・オブ・ジ・イヤーTake 6:The Most Wonderful Time of the Year 01 It's The Most Wonderful Time Of The Year Release Date: Oct 5, 2009 |
カクスコって劇団があったんですよ。
昭和の匂いがむんとする芝居ばかりやっていました。
扱っているネタというか、ガジェットが、どんぴしゃりストライクゾーンに入っていて大好きな劇団だったんです。
2002年に解散しまして。すごく寂しい。
ああ、もう一度カクスコの芝居が観たいなあ!
そんな気分にさせてくれるアルバムです。
(カクスコを観たことある人にしか分からない説明ですみません)
Take6 を聴いたのは初めてでしたが、カクスコ並に巧いですね。
グラミー賞受賞してるくらいだから、巧くて当たり前か。
ラストの「Christmas Time Is Here」だけ可憐な女の子の歌が入ってます。シーラ・フレイジャー(Shelea Frazier)って名前なんですが、検索かけたら 1948年11月生まれの女優さんが引っかかったんですけど、別人でしょうね。
すみません、音楽と関係ないことばかり書いて。
次、いきましょう。
コーラスが続きます。
マントラには新しいアカペラのクリスマス・アルバムもありますが、アカペラばかりじゃ飽きるから、こっちを聴きましょうか。
![]() ![]() |
マンハッタン・トランスファー:クリスマス・アルバムThe Manhattan Transfer: The Christmas Album 01 Snowfall Release Date: 1992 |
これはもうなんと言うか、前の2枚が地味だったのですごく豪華に感じられますね。
1曲目(クロード・ソーンヒル楽団の「スノーフォール」)からエンディング(ビートルズの「グッドナイト 」)まで、全体は落ち着いた雰囲気で統一されてるんですけど。「サンタが街にやってくる」とか弾けてるナンバーもないではありませんが、「レット・イット・スノー!」だって、スロー・テンポでロマンチックに歌ってるし。
ちなみに「レット・イット・スノー!」をスローテンポで歌うのは、ドリス・デイが30年前にやってましたけどね。
毎度のことながら、マントラのアルバムはゲストが豪華なんですよ。本作もジャック・シェルドン(tp)とか、ハリー・スィーツ・エディソン(tp)とか、ピート・クリスリブ(ts)とか。メル・トーメの「ザ・クリスマス・ソング」でリードをとるのはトニー・ベネットですよ! すごい贅沢。
おまけにジョニー・マンデル編曲のストリングスとコーラスですもの。金がかかってます。上品にまとまっていて、是見よがしな押し付けがましさはありませんけど。
マントラですから、歌がうまいのは言わずもがな。
だけど、これもあまりジャズっぽくないアルバムですね。マントラって、ジャズもたまにやるポップス・グループですもんね。
このゴージャスなクリスマス企画盤は、あきらかにポピュラー売り場に置かれることを意識した内容です。
超個人的にヘビーローテーションなクリスマス・コーラスは、こちらです。
![]() ![]() |
ザ・リッツ:スピリッツ・オブ・クリスマスThe Ritz The Spirit of Christmas 1 The Spirit of Christmas Recording Date: Jul 22, 1988 - Jul 26, 1988 |
ザ・リッツは、1982年にボストンで結成されたジャズ・コーラス・グループ。男女2人づつのヴォーカルはマンハッタン・トランスファーと同じ編成ですが、これにピアノ・トリオが加わった7人がレギュラー・メンバー。
上記マントラ盤が、子供たちのセリフまでオーバーダビングして、演出過剰なくらい作り込んでいたのに対し、ザ・リッツはストレートなジャズ。
1988年にデンオン自慢の PCMデジタルで録音された日本企画のクリスマス・アルバムで、サックスやギターがゲスト参加しております。
人気はマントラに遠く及ばなかったザ・リッツですが、実力は互角。スウィングに徹した選曲と演奏で、ジャズ・ファンにはこっちのほうがより好感をもたれそうなグループだったのですが……もう何年も新譜の噂もないし、まだニューヨークで活動しているのかしら。
デンオン(日本コロムビア)がデノンに改称して、ジャズの録音やめちゃったのは、ほんとうに惜しいです。ビリー・ハーパーの『ラヴァーフッド』(1978年)とか、演奏良し録音良しの高品質なレコードをいっぱい出していたのに。
ザ・リッツのデビュー・アルバムは、ひところ(1986年ごろ?)、どこのオーディオ屋に行ってもデモに使ってました。ま、そのくらい優秀な録音だったんですね。なにしろ世界初の実用PCMデジタル録音(NHK技研との共同開発)ですもんね。
おっさんの懐かし昔ばなしはここまで。
次は今年(2010年)のクリスマス商戦をターゲットにした新作の登場です。
![]() ![]() |
キャサリン・マクフィー:クリスマス・イズ・ザ・タイム・トゥ・セイ・アイ・ラヴKatharine McPhee : Christmas Is The Time To Say I Love You 01 Have Yourself a Merry Little Chritmas Release Date: Oct 12, 2010 |
米国で人気の新人歌手発掘番組「アメリカン・アイドル」第5シーズン(2006年)で準優勝したキャサリン・マクフィーのクリスマス企画アルバム。
ジャケ買いです、これは。ルックスがもろ好みだったもので。中学のころに憧れていた同級生にちょっと似た面影がありまして。あはは。
歌手の見た目でCD買っちゃうなんて、寺島靖国じゃあるまいし。
おれもすっかりジジイだな。(……反省)
日本でも昔々、「スター誕生」ってオーデション番組がありました。花の中三トリオとか、榊原郁恵とか……またむかし話やってる?
ぜんぜん詳しくないけど、「アメリカン・アイドル」は番組視聴者からの電話投票でグランプリを決める方式だそうで、歴代の受賞者にはR&Bのオッサンとかもいますし、容姿よりも歌唱力重視の番組だとか。
そんな履歴の持ち主だけあって、歌はうまいです。スタンダードなクリスマス・ソングをそつ無くこなしてます。スローな「ハヴ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス」を1曲目に持ってくるあたりに、彼女の自信が感じられます。
但し、ポップス歌手としての評価ね。
ジャズとポップスの線引きなんて、ほんとにバカバカしいんですけど。
40年近く Jazz聴いてますから、ジャズとポップスの違いは分かります。
頑張ってるんですよ、彼女。ずいぶん勉強して、ジャズっぽく唄ってる。
でもジャズの歌唱法じゃないんだ。
歳食ったアイドル歌手がアダルト路線に変更して、古いラヴソングを唄うようになると、みんなこんな感じ。
彼女はまだ若いんですけどね。媚が混じって本当の大人の歌を唄えてない。そこがカワイイってファンも多いだろうけど。
映画にも出演するそうだし、これからどんな場所に向かっていくのか、まだ未知数の女の子ですね。
次はまたまたジャケ買いの1枚。
こんどは眼鏡っ娘だ!
![]() ![]() |
スージー・アリオリ:クリスマス・ドリーミングChristmas Dreaming Susie Arioli featuring Jordan Officer 01 Have Yourself A Merry Little Christmas Release Date: Nov.2010 |
だまされた。
ジャケ写真、照明ですっとばしてるから、パッと見で若い娘さんと間違えた。実際は結構な歳のおばさんでした。
この女性はジャズ歌手です。
伴奏の編成がちょっと変わっていて、ギターとベースの簡素なピアノレス。普段もこの編成で、モントリオールにて活動しているみたいです。
声域は広くないし声量も大きくはないけど、曲によってはカントリー・ソングっぽく聞こえたりもするけど(4曲目「Call Collect On Christmas」)。
メロディをフェイクさせる技は堂に入ってるし、いい雰囲気持ってます。
映画『ピノキオ』の主題歌「星に願いを」(7曲目)やアリエル・ラミレスの「巡礼」(8曲目)など、選曲もちょっと変わっていて面白い1枚でした。
次は女性コーラス・グループを2枚。
![]() ![]() |
ウィルソン・フィリップス:クリスマス・イン・ハーモニーWilson Phillips Christmas in Harmony 01 Wish It Could Be Christmas Every Day Release Date: Oct 12, 2010 |
ウィルソン・フィリップスは、元ママス&パパスのジョン&ミッシェル・フィリップスの娘であるチャイナ・フィリップスと、元ビーチボーイズのブライアン・ウィルソンの娘であるカーニー・ウィルソンとウェンディ・ウィルソンの二世3人娘で結成されたコーラス・グループ……だそうです。
これはもう完全にポップスですね。
キャサリン・マクフィー盤が狙っていたジャズィな味付けは、まったくありません。
しかし、なんだってこの手のポップスって、馬鹿の一つ覚えみたいにリズム・セクションがワンパターンなんだろう。
彼女たちの歌唱法はぜんぜんジャズじゃないけど、それでも伴奏次第では聴けるアルバムになったのでは、と思うんですよ。
歌は巧いです、あくまでもポップスとしてだけど。
クリスマス・シーズンにしか聴かないんだから、こんなのが1枚あっても、まぁいいか。いっそのこと、マライヤ・キャリーも買っちゃうか?
ハズレを引いてやけのやんぱち、自虐の歓びを噛みしめながら、次はこのジャケットだもの。
まったく期待してませんでしたが……
![]() ![]() |
クリスマス・ウィズ・ザ・プッピーニ・シスターズChristmas With The Puppini Sisters 01 Step Into Christmas Release Date: Oct 5, 2010 |
これが良かった!
だんぜんゴキゲンなクリスマス・アルバムです。
ボスウェル・シスターズ、アンドリュース・シスターズの太古からポインター・シスターズまで、アメリカン・ポップス界にどんだけシスターズが登場したのか、数えたこと無いので知りませんが。
姉妹三人寄ればなんとかシスターズ。
そういえばジュディ・ガーランドもガム・シスターズでデビューしたんだっけ。そんなに米国人はチェーホフが好きなのか?
それはさておき。
このザ・プッピーニ・シスターズほどインチキなシスターズは、人類史上例を見ないでしょう。なにしろ、シスターズを名乗っていながら、三人は血縁関係なしのまったくの他人。髪の色だって、黒(マルセラ・プッピーニ)、金(ケイト・マリンズ)、赤(ステファニー・オブライエン)。ルックスも体型もそれぞれバラバラ。こんな3人が姉妹なわけがない。
しかも全員ヨーロッパ人(イタリア1+イギリス2)なんですぜ。
英国の名門トリニティ音楽大学でピアノやヴァイオリンや声楽(クラシックです)を勉強していたはずの三人娘が、親の反対があったか無かったか知らないけど、こともあろうかアメリカン・ポップス、しかも半世紀以上も昔のスタイルでコーラス・グループを結成。
ノリノリじゃん!
1曲目、エルトン・ジョンの「ステップ・イントゥ・クリスマス」が始まった瞬間、マジ、耳を疑ったですよ。
スウィング感抜群で、速いテンポのフレーズも、技巧をちりばめつつ楽々こなしちゃってるじゃないの。
先のウィルソン・フィリップスを聴いてるとき、アンドリュース・シスターズが 21世紀の現代にデビューしてたら、こんな感じになっちゃうのかなあ、などと想像してたんですが……こちらのプッピーニ・シスターズは、なんと、アンドリュース・シスターズを21世紀に復活させちゃってるんです。
アーサー・キットの悩殺ヴォイスで有名な2曲目「サンタ・ベイビー」を聴き終えたころには、彼女たちが過去にリリースしていたアルバムをネットで検索、アマゾンに注文してましたぜ。
プッピーニ・シスターズのアルバムは、このクリスマス企画盤が3枚目で、ファースト・アルバムにはアンドリュース・シスターズの「素敵なあなた」やインク・スポッツの「ジャバ・ジャイヴ」も収録。
これは楽しみだ。
彼女たちは デジタル時代によみがえったアンドリュース・シスターズなんだけど、まるまる物真似をしているんじゃなくて、アンドリュースの魅力的なところは完璧にいただいたうえで、それ以降のサウンドも適材適所に、邪魔にならない程度の匙加減で入れている。そのセンスが抜群に良いんだなあ。
また彼女たちの声質も実にチャーミングで好みのタイプ。
選曲も、ハワイアン「メレ・カレキマカ」(ビング・クロスビーとアンドリュース・シスターズでヒット)なんか入れちゃったり、ゴキゲンだよ。
マライヤ・キャリーの「恋人たちのクリスマス All I Want For Christmas」やワムの「ラスト・クリスマス」といった新しいポップ・ナンバーも、「レット・イット・スノー!」や「ホワイト・クリスマス」、「ウインター・ワンダーランド」などのスタンダードと並べて、無理なく、統一感を保ってるのがいい。
過去80年間におよぶアメリカン・ポップスの集大成、って言ったらさすがに大袈裟すぎるけど、時代性を超越した、無国籍ならぬ無世代ポップスの上物良盤。
いまの若い世代にも受け入れられる、おしゃれなポップ・サウンドだと思うよ。
なんで日本のレコード会社は国内盤を出さないんだろう。
来日コンサートを招聘するプロモーターはいないのか。
3人揃ってすごい美人なのに、寺島靖国は何してるんだ?
なにからなにまで嬉しいことだらけのアルバムで、唯一の不満はトータルの収録時間が 34分と短いことだけ。
久々に超個人的満塁ホームランのディスクと出会えました。
さて、今回のヴォーカル編、ほとんどポップスのアルバムばかりになってしまったので、最後に、罪滅ぼしにエラ・フィッツジェラルドが1960年に録音したVerveの名盤をご紹介。
![]() ![]() |
エラ・フィッツジェラルド スウィギング・クリスマスElla Wishes You Swinging Christmas 01 Jingle Bells Recording Date: Jul 15, 1960 - Aug 5, 1960 |
ノーマン・グランツのプロデュースで、ヴァーヴに録音されたエラ・フィッツジェラルドのクリスマス・ソング集。伴奏の編曲はフランク・デ・ヴォールとラッセル・ガルシア。CD化の際にオルタネイト・テイク3曲を追加。
上記のどのディスクよりも、ジャジィな魅力に満ちているクリスマス・アルバムの名作です。