日本映画について 其の壱

この日記のようなものは、すべてフィクションです。
登場する人物、団体、裏の組織等はすべて架空のものです。ご了承ください。

日本映画について 其の壱

April 30, 2004

ここ数日、頻繁にお邪魔しているウェブサイトで、「日本映画ってつまんね〜」という声を立て続けに耳にしたので、それについて書く。
言いたいことはヤマほどあるので、数回に分けて書く。
結論は……
もはや現代の日本人は日本の映画を欲しがっていない、ってことになる。

そもそも日本の映画産業(個々の作品ではなく、製作〜配給〜興行のシステム全体)を、ハリウッドや諸外国と同列に論じることがおかしいんだよ。

日本の映画興行が、昭和30年代半ばにピークをむかえた後、急速に観客動員数を減少させた事実を語るとき、いつも原因として引き合いに出されるのが、テレビの普及。
テレビの登場によって、作ればなんでも当たるという異常な状況が軌道修正され、低予算のプログラム・ピクチャア(毎週2本立てで量産される定食番組)の製作は難しくなっちゃったわけだ。
日本映画は巨匠監督による名作/大作/話題作だけがすべてじゃない。
週に何本も封切られるプログラム・ピクチャアがコンスタントに稼いでいたからこそ、大作の資金も調達できていた。
その収入源の一角をテレビによって奪われてしまった。
ビジネスのリスクを回避するためには、製作規模を縮小せざるを得ない。プログラム・ピクチャア以外の、通常作品までもが製作費を削られるようになった。
いっぽうテレビドラマは、生放送からフィルム撮りのテレビ映画へと放送形態が移り、ますます劇場用映画との境界線があやしくなってくる。
『座頭市』や『兵隊やくざ』、『眠狂四郎』などの好評で成り立っていた大映が、昭和45年に倒産。撮影所は貸スタジオになってテレビドラマを作るようになった。
日活は昭和46年に、安い製作費で安定した動員が見込めるロマン・ポルノへと方向転換する。小林旭や石原裕次郎の歌謡アクションを作ってきた職人たちは、新しい路線に戸惑い、次々と現場を去っていた。
東宝、東映、松竹も、減益が続き、次第に撮影所を縮小。人員は大幅に整理され、監督部、撮影部、脚本部などの専属スタッフを解雇。新人スタッフの技術習得の場であったプログラム・ピクチャアが製作できないので、新人の採用は中止。
新たに映画製作に携わろうとする者は、専門学校に通うなり独学で勉強するなり、個人の独力でしか技術を習得できない。しかも現場を知らないままに……

現在の撮影現場は、プロの技術者集団ではなく、スキモノの集まり。
もちろん、スキモノのなかにはプロとしての技術を備え、誇りと情熱をもって仕事されている方も大勢含まれている。

さて、映画産業のもうひとつの側面、「興行」にスポットを当ててみれば……

昭和39年から昭和40年代前半にかけて、全国の警察が一体となって「第一次頂上作戦」と呼ばれる総合的、組織的な暴力団取締を展開した。
このとき、繁華街の映画館を経営する興行師が暴力団と同列に扱われたことも、映画産業衰退の要因のひとつだと思う。

ヤクザは元来、博打を生業とする「博徒」と、芝居や見せ物を手配する「香具師」、それに戦後台頭してきた「愚連隊」の3つに分類される。
警察はこれら3つを一括りにして「暴力団」と呼び、取締を強化、組織の解体に乗り出した。
ヤクザは、神社仏閣の大きなお祭りや花火大会などのイベントの際には、懇意にしている親分衆や博徒を招待して花会(博打)を催すと同時に、芝居や見せ物小屋、サーカスなどを招聘し、一般大衆相手の娯楽を提供していた。このバランス感覚によって旧来のヤクザは社会に容認されていた。
それら「興行」を一手に引き受けていた「香具師の元締め」は、警察によって解散/商売替えを余儀なくされ、芝居小屋や映画館の経営から次第に手を引いてしまう。
昭和40年以降、庶民に親しまれていた地元の映画館が次々と街から姿を消し、イベントの際に仮設されていた芝居小屋や見せ物小屋がなくなってしまったのは、このせいだ。

いま年間100本以上映画を(映画館で)観ている人は、映画好きと呼ばれるだろうが、昭和30年代、その程度の本数を観ている人はザラだった。週に1回、3本立ての小屋に通えば、年間150本だ
ウチの母親だって、ひばりや錦之助や橋蔵の時代劇はほとんど全部観ている。
たくさんの本数を観ていたからといって、映画好きとは限らない。

街から映画館が消えたとき、庶民は映画を観ることを止めた。
毎週映画館に通っていた人も、映画を観なくなった。
テレビがあるから、映画を観るためにわざわざ都市部まで足を運ぶこともない。
それで別段困ったことにもならない。
娯楽とはそういうものだ。

そもそも、日本の映画産業というものは、河原の見せ物小屋/芝居小屋に端を発している。
国内で映画製作が行われるようになった明治時代からずっと長い間、製作/配給/興行の流れは「香具師」によって作られてきたものだった。

だから、素人は絶対に手を出せない、アンタッチャブルな世界であったわけだ。

そのシステムが崩壊した。
昭和40年以前と以後とでは、日本の映画産業は別物と言っていい。
(ロマンポルノでプログラム・ピクチャアの火を細々とながら燃やし続けていたにっかつだけは、少し事情が異なる)

昭和20年〜30年代に量産されたプログラム・ピクチャアには、それがどんなに低予算のクダラナイ内容であっても、プロの技術者が培ってきた「映画」らしさが感じられる。
最近の日本映画は、テレビの2時間ドラマの拡大版のようにしか見えないものが多い。
これはフィルムとVTRの画質の違いだけを根拠にしているものではない。
企画・脚本・キャスティング・演出・宣伝のあらゆる分野で、劇場用映画はテレビドラマにすり寄っている。

かつての映画は、スター俳優はもちろん、ファッションにしろ音楽にしろ、映画が時代の流行をリードしていた。
いまは、テレビで人気のタレントが出ていないと、映画はヒットしない。
状況は完全に逆転した。

いま、メジャーの映画会社は映画を作っていない。
東宝や東映は撮影所を所有しているが、単なるレンタル・スタジオとなっている。
映画を製作しているのはテレビ局だ。

テレビは、番組改編期(4月、7月、10月、1月)に、スペシャル・ドラマを放送している。
2〜3時間の特別枠を設け、潤沢な製作費と豪華なキャスティングで高視聴率を狙う。
テレビのスペシャル・ドラマを劇場で公開し、話題を拡大させてから、2次利用でテレビ放映する。
いまの日本映画は、このスタンスで作られている。
日本映画がテレビドラマ化するのは、当然といえば当然のことだ。

つまり、現代日本人は、テレビさえあれば充分。
日本映画など必要としていないのだ。

あと付け加えるならば……「日本映画つまんね〜」と言っている人のほとんどが、あまり日本映画を観ていない、という現状もある。
反論はしない。
圧倒的にそんな人が多いのだから、多分、そういう人たち(映画はハリウッド産のものを中心に観て、日本映画は話題になっているものだけをたまに観る)の意見が絶対に正しい。
ただ、そうした声がでかければでかいほど、日本映画から客足が離れ、ビジネスの規模は縮小され、その悪循環で衰退してゆくのは確実だろう。
世間に叱咤され反撥できるほどの体力は、いまの日本映画界は持ち合わせていない。
つまらない→じゃぁ観ない→だったら作らない。そっちに流れてゆくのは自然なこと。
あとには、一部の酔狂な人間による独り善がりな自主映画だけが残る。これは、ビジネスを目的としていないから、簡単には無くならない。

日本人の多くは、自分の価値観に自信を持っていない。他人の意見がないと自分の意見を口にできないし、対象物をどう扱ってよいか自分で判断できない。
『ブレードランナー』がビデオ発売後にカルト化したり、前作の評判で『ダイ・ハード2』が前作を上回るヒットになったりしたのは、そういう日本人の気質によるものだ。
アメリカでの興行成績を参考にして、コケていたら観る気が失せてしまう……そんな人たちが主流なのだ。

「日本映画つまんね〜」の連呼が、まだ一度も日本映画を劇場で観たことのない若い世代にマイナスの先入観を与えていることも事実だ。

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