ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
ブラームスがヴァイオリンのために書いた唯一の協奏曲で、ベートーヴェン、メンデルスゾーンと並べて3大ヴァイオリン協奏曲と称されている人気曲。この楽曲は1878年に完成しているが、ブラームスにとって1875-81年ごろは、「交響曲第1番」「交響曲第2番」「大学祝典序曲」「ピアノ協奏曲第2番」などの名作を連発していた円熟の時期にあり、もちろんこのヴァイオリン協奏曲も彼の代表作にかぞえられる。
個人的にはブラームス最大の傑作と位置づけしたいほど、彼の特質を充満させている協奏曲で、独奏楽器とオーケストラのバランス、入念な主題操作、各楽章の自立性と全体の統一感、そのスケール感、まったく非の打ち所のない作品に仕上がっている。
1877年にパブロ・サラサーテの演奏(ブルッフの「ヴァイオリン協奏曲第2番」)を聴いて感銘を受けたブラームスは、ヴァイオリンのための協奏曲を構想。1878年7月に避暑地のペルチャッハで作曲に着手。8月下旬から10月にかけて、ヴァイオリニストで友人のヨーゼフ・ヨアヒムと数回の意見を交換。この時点では全4楽章で書かれており、11月を過ぎても、ブラームスは中間の2つの楽章の扱いに悩んでいた。
ヨアヒムは初演のスケジュールを決め、優柔不断なブラームスに決断を促した結果、ベートーヴェンの構成に類似した3楽章形式で完成。ところが頑固一徹な側面も持つブラームスは、ヨアヒムのアドバイスをすべて受け入れたわけでなく、これを契機に二人の仲に感情的な亀裂が生まれた。
第1楽章はヴィオラとチェロとファゴットによる第1主題で始まるが、独奏ヴァイオリンはずっと修飾だけで主旋律を演奏するまでに約4分もあるし、これぞブラームスと言える名旋律の第2楽章主題は、独奏ヴァイオリンではなくオーボエ独奏によって歌われる。田園的、牧歌的情緒が多く織り込まれているところはベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲に似ているが、後年の「ピアノ協奏曲第2番」同様、独奏とオーケストラの配分はオーケストラにやや重みがあり、交響曲的な協奏曲となっている。
初演:1879年1月1日、ライプツィヒのゲヴァントハウスにて。独奏ヴァイオリンはヨアヒム、管弦楽の指揮はブラームス。
初演は成功をおさめ、ヨアヒムはロンドンの他、ヨーロッパ各地で演奏。ベルギーのヴァイオリニスト、ウジェーヌ・イザイも得意曲として各地で演奏したことから、ヴァイオリン協奏曲の名曲として定着した。
ブラームスは管弦楽パートをピアノ用に編曲した楽譜をクララ・シューマンに送ったあと、ふたたびヨアヒムと意見交換し、初演の楽譜を改訂。現在演奏に使われている楽譜は、1879年秋にジムロック社から出版されたもので、初演の独奏者で友人のヨアヒムに献呈されている。
初演のカデンツァはヨアヒムによるものだったが、フリッツ・クライスラー、レオポルド・アウアー、アドルフ・ブッシュ、ヤッシャ・ハイフェッツなども書いており、近年演奏されることが多いのはヨアヒム版とクライスラー版。
楽器編成:
独奏ヴァイオリン、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、ティンパニ、弦5部。
楽曲構成:
第1楽章
アレグロ・ノン・トロッポ 4分の3拍子 ソナタ形式
第2楽章
アダージョ ヘ長調 4分の2拍子 三部形式
第3楽章
アレグロ・ジョコーソ・マ・ノン・トロッポ・ヴィヴァーチェ ニ長調
4分の2拍子 不規則なロンド・ソナタ形式
演奏時間:約45分
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲/ベートーヴェン:三重協奏曲
アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)
1. ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
1979年9月 ステレオ録音(ベートーヴェン) |
優美なムターのヴァイオリンとカラヤンの管弦楽が一体となった交響的な演奏。スタンダードな名盤として推薦。
ヨーヨー・マとカラヤンの珍しい共演(ベートーヴェンの三重協奏曲-これまた名演!)との豪華なカップリング。
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
ダヴィッド・オイストラフ(ヴァイオリン独奏) 1969年 ステレオ録音 (EMI) |
温かい音色、たっぷりな量感、オイストラフの成熟したヴァイオリンに酔える演奏。セル&クリーヴランド管の正確無比なオケも独奏の邪魔にならず。長い間ベスト盤として君臨してきたディスクですが、いまとなっては音質に若干古さが感じられるかも。
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 二重協奏曲
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
1. ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
1982年9月 ウィーン ライヴ録音 |
バーンスタインの甘くロマンチックな管弦楽とクールで細身なクレーメル。異色の組み合わせが、とんでもない緊張感を生み出した。切れ味最高、エキサイティングな面白さ。他のディスクとの聴き比べ用にどうぞ。