はじめてのクラシック(シブオヤジ編)
これからクラシック音楽を聴いてみようという方へ、入門ガイド的ディスクを紹介します。ここに並べた10枚のCDは、発売以来トップセラーを続けている超名盤ばかりです。
今回は室内楽曲・器楽曲からのご紹介です。
タイトルに「オヤジ」って入ってますけど、オバサンでも、おねえさんでも、お嬢さんでも、お爺ちゃんお婆ちゃんでもかまいません。
誰もが一度は聴いたことのある超有名曲を厳選しました。
それに「シブイ」ってありますけど、ぜんぜん渋くない、明るく爽やかな曲も並べております。でも看板に「偽りあり!」って怒られそうだから、極めつけの渋い名曲からご紹介しますね。
バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)ヨーヨー・マ(チェロ) 1. 無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV1007 1994-1997年 デジタル録音 |
1棹のチェロからほとばしり出る豊潤な音世界。このバッハの名曲を現代に甦らせたパブロ・カザルスに敬意を表して、彼のEMI盤を最初に推薦したいところですが、なにしろ1930年代のモノラル録音ですので、はじめての方には薦めにくい。……なので、ヨーヨー・マの新しいデジタル録音盤を挙げておきます。
テレビCMなどでよく耳にするのは第1番のプレリュード。映画『おくりびと』(2008年)で本木雅弘も弾いていました。
CD2枚組で演奏時間も2時間を超えますけど、ぜひ全曲通して聴いてください。ハマるとなかなか抜け出せないディープな名曲です。
ハイドン:弦楽四重奏曲集イタリア弦楽四重奏団
1. 弦楽四重奏曲第63番ニ長調op.64-5「ひばり」
1965年7月、1976年1月 ステレオ録音 |
交響曲の父であり弦楽四重奏曲の父でもあるフランツ・ヨーゼフ・ハイドン。交響曲は番号のついているものだけでも104曲(他にも数曲あるらしい)。弦楽四重奏曲は作曲者のオリジナルと認定されているものだけで68曲もあります。
私事で恐縮ですが……ハイドンは長いあいだ接触が難しい作曲家でした。膨大な作品数を前に、どれから聴いたらいいのか、さっぱり見当がつかなくて。
救いの手を差しのべてくれたのが、4つの弦楽四重奏曲を1枚に詰め込んだこちらのイタリアSQ盤。なんとまあ、爽やかで美しいカンタービレな楽曲ばかりではありませんか! ハイドンを聴くならまずこの1枚から! ハイドンにまだ触れたことのない方に絶対のオススメ。
モーツァルト:クラリネット五重奏曲アルフレート・プリンツ(クラリネット) 1. クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581 1979年 デジタル録音 |
ふくよかでしっとりとしたクラリネットの音色を満喫できるモーツァルトの名曲。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者たちによる味わい深い演奏。デジタル録音の音質も極上です。
ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第5番&第9番
ダヴィド・オイストラフ(ヴァイオリン)
1. VNソナタ第5番 ヘ長調op.24「春」 1962年 ステレオ録音 Philips |
ベートーヴェンの人気ヴァイオリンソナタをカップリングした定番名盤。オイストラフのヴァイオリンは恰幅が良すぎて、「春」の軽やかさが少々乏しい感じもしますが、「クロイツェル」に関しては文句なしの出来。これもハマるとなかなか抜けられない演奏です。
ちなみに第5番「春」の私の愛聴盤は、グリュミオー&ハスキルの1957年録音盤(Philips)。モノラル録音ですがノイズも歪みもなく、とても気持ちの良い演奏です。残念ながら国内盤は廃盤・品切れ(海外輸入盤なら廉価盤のソナタ全集が容易に入手可能)。
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番「春」
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」
シューベルト:ピアノ五重奏曲/弦楽四重奏曲第14番アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)(1) 1. ピアノ五重奏曲イ長調 D.667(op.114)「ます」 1977年(1)、1979年(2) ステレオ録音 Philips |
シューベルトは歌曲王。三大歌曲集と呼ばれているのは「美しき水車小屋の娘」「白鳥の歌」「冬の旅」ですが、それらの他におびただしい数の歌曲を書いています。ピアノ五重奏曲「ます」も、弦楽四重奏曲「死と乙女」も、それぞれ標題となっている歌曲のメロディを用いた室内楽曲。明るく健康的な「ます」と4つの楽章がすべて短調で書かれている「死と乙女」。シューベルトの明と暗、両方の魅力が味わえます。
シューマン:子供の情景/クライスレリアーナウラディミール・ホロヴィッツ(ピアノ) 1. トッカータ 作品7 1962年、1966年、1968年、1969年 ステレオ録音 |
シューマンの代表的ピアノ曲を、ホロヴィッツの滋味ある名人芸で。
誰もが一度ならず耳にし、郷愁をかきたてられる「トロイメライ」は、「子供の情景」の第7曲目です。
ブラームス:弦楽六重奏曲 第1番&第2番
アマデウス弦楽四重奏団
1. 弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調作品18
1966年12月(1) 1968年3月(2) ステレオ録音 |
ジャンヌ・モローが情熱的な人妻を演じたルイ・マル監督の映画『恋人たち』(1966年)に使用されていたのが、ブラームスの弦楽六重奏曲第1番 第2楽章。感情にダイレクトに訴えかけてくる弦楽の響きに、音楽好きなら誰もが一度は心酔してしまう名曲です。比較的ゆったりめのテンポでメラメラ燃える演奏もありますが、アマデウス弦楽四重奏団の演奏はかなり性急的で激しく、狂おしい感じになっています。
ブラームス27歳の作品。
チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出のために」ウラディーミル・アシュケナージ(ピアノ) 1980年 ステレオ録音 EMI |
三大バレエ、交響曲、ピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲……メロディアスな名曲を数多く作曲して人気の高いチャイコフスキーは、室内楽の分野でも傑作を残しています。第2楽章が「アンダンテ・カンタービレ」の名称で単独演奏されることも多い弦楽四重奏曲第1番も良いのですが、今回採りあげるのはチャイコフスキーが敬愛していたピアニスト、ニコライ・ルービンシュタインの死を悼んで作曲したピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出のために」。
全体は第1楽章と第2楽章のふたつから構成されていて、約45分の演奏が全編カンタービレの洪水。感傷的なメロディがこれでもかってくらいに続きます。特に第2楽章の変奏部は圧巻。チャイコフスキーの代表作というと三大バレエや後期交響曲、ピアノとヴァイオリンの協奏曲が真っ先に採りあげられ、室内楽曲は後回しみたいな感じですが、はじめての人にも大丈夫なチャイコフスキーの傑作です。
ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲「アメリカ」
ヤナーチェク四重奏団(1)
1. ドヴォルザーク:
1963年(1) 1962年(2.3) ステレオ録音 |
ドヴォルザークの第12番「アメリカ」は前にも採りあげましたが、今回はボロディンの第2番、ショスタコーヴィチの第8番とカップリングされたデッカ盤です。3曲ともに名演と定評のある演奏で、録音がとても良い。デッカ録音らしいガッツのある音質です。
ボロディンの第2番第3楽章は、メロディが実に美しく、「ボロディンのノットルノ(夜想曲)」として単独演奏されたりもします。近代から現代までの、代表的な弦楽四重奏曲をイッキに聴きたい方にオススメです。
ドビュッシー:ピアノ作品集モニク・アース(ピアノ) ディスク:1 ディスク:2 1970年12月-1971年4月 ステレオ録音 Erato |
近代フランス音楽の旗手クロード・ドビュッシーのピアノ作品集。演奏は生粋のパリジェンヌ、モニク・アース。
しっとりとした情感が素晴らしい「月の光」はベルガマスク組曲の3曲目、コミカルな「ゴリウォーグのケークウォーク」は組曲「子供の領分」の6曲目。ドビュッシーのピアノ曲はすべて網羅されている2枚組全集。1972年度フランスADFディスク大賞を受賞している名盤です。
クライスラー:ヴァイオリン作品集イツァーク・パールマン(ヴァイオリン) 1. ウィーン奇想曲 1975-1978年 ステレオ録音 EMI |
ヴァイオリンの名手だったフリッツ・クライスラー(1875-1962年)の作品を中心に、アンコールによく用いられるヴァイオリン小曲をたっぷりまとめた作品集。演奏は美音のテクニシャン、イツァーク・パールマンですから非の打ちどころなどありません。
テレビなどから頻繁に聞こえてくる「美しきロスマリン」「愛の喜び」「愛の悲しみ」、チャイコフスキーの「アンダンテ・カンタービレ」、イギリス民謡「ロンドン・デリーの歌(ダニー・ボーイ)」からタルティーニの超絶技巧曲「悪魔のトリル」まで、どなたも一度は耳にしたことのあるポピュラー名曲が揃っています。
最後にクライスラーのヴァイオリン小品集が出たところで、開き直って次回は、俗っぽくて何が悪い、誰もが一度は聴いたことのある通俗名曲オンパレード編をお送りする予定です。