スタン・ゲッツ・プレイズ
December 30 2010
モダンジャズ不朽の名盤25選
名盤25選の第2回はスタン・ゲッツ。
第1回のバド・パウエルに続いて麻薬関係者の登場です。
前回、ジャズ・ミュージシャンだからってみんながみんなラリ公じゃないのよ、偏見を持つのはやめましょうなんて擁護しておいて、舌の根も乾かぬうちにラリルレロ。
スタン・ゲッツは特にタチが悪いです。
クスリ欲しさに拳銃片手にシアトルの薬局に押し入り、武装強盗未遂の現行犯で逮捕。刑務所に服役。
弁護の余地なし。正真正銘、前科持ちの悪党です。
閑話休題(それはさておき)
50年代前半までのスタン・ゲッツは掛け値なしに素晴らしい。
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Stan Getz PlaysStan Getz Quintet 01 Stella by Starlight スタン・ゲッツ(ts)、ジミー・レイニー(g)、デューク・ジョーダン(p)、ビル・クロウ(b)、フランク・イソラ(ds) Recording Date(01-08): Dec 5, 1952 |
スタン・ゲッツが、最もゲッツらしい、知的で軽やかなクール・サウンドを聴かせてくれたのは、ウディ・ハーマンのセカンドハード(47年9月加入)時代から、『スタン・ゲッツ・プレイズ』が録音された 52年ごろまでだったと思う。その後、ゲッツのテナーは太く逞しい音色を加え、男性的なブロウアーへと変化していく。それもまたゲッツの魅力のひとつではあるが、1枚だけとなると、どうしても52年までのワンホーン・アルバムから選ぶことになる。
Verve盤を選んだ理由は録音状態と収録曲の好みによるもので、『スタン・ゲッツ・カルテット』(49-50年/Prestige)と、現在2枚のCDに分散して売られている『ルースト・セッション』(50-52年/Roost)も内容は甲乙つけがたく、これらの中からどれを選んでも、繊細でリリカルな、ゲッツにしか成し得なかったクールな演奏を堪能できると思う。
『スタン・ゲッツ・プレイズ』は 11曲中、1曲目と2曲目をミディアム・バウンスで、4曲目と5曲目とジジ・グライスのオリジナル「東洋への賛歌」(10曲目)をアップ・テンポで、残り6曲をスローなバラッドで演奏しており、ミディアム、アップ・テンポの4曲には、このあとの変貌が垣間見えている。熟した果実が枝から落ちる直前のような、甘美な香りがする名盤。
CD化に際して、オリジナルLP未収録だった12月29日セッションの「ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン」(12曲目)が追加されている。
おすすめの1曲
『スタン・ゲッツ・プレイズ』に収められたスタンダード・ナンバーは、どれもゲッツのオリジナルなイマジネーションに彩られた演奏ばかりで、1曲を選ぶのは難しい。
とりあえず今日は2曲目の「タイム・オン・マイ・ハンズ」にしておこう。
水曜日の夕方に NHK-FM がオンエアしていた、大橋美加司会のジャズ番組でオープニング・テーマとして使われていた曲で、毎週聴かされていたがぜんぜん厭きない。
強盗未遂事件で服役した後、ゲッツはホットでファンキーなプレイをするようになり、『スタン・ゲッツ&J.J.ジョンソン・アット・オペラ・ハウス』(57年/Verve)では、熱いブローイングでトロンボーンのJ.J.ジョンソンと白熱のバトルを展開。
62年録音の『ジャズ・サンバ』(Verve)でボサノヴァ・ブームに火をつけ、『ゲッツ/ジルベルト』(63年/Verve)はグラミー賞4部門を独占して大ヒット。
新進気鋭のピアニスト、チック・コリアをメンバーに迎えた『スイート・レイン』(67年/Verve)も人気盤だが、『キャプテン・マーベル』(72年/Verve)では「ラ・フェスタ」や「500マイルズ・ハイ」などチックのオリジナルが中心となり、内容もリターン・トゥ・フォーエバー with スタン・ゲッツみたいな、軒を貸して母屋を取られた感じになっている。
鬼才エディ・ソーター編曲指揮のストリングスを相手にフリー・インプロヴィゼーションの極(きわみ)を聴かせる『焦点 フォーカス』(61年/Verve)は、ゲッツ・ファンならずとも一聴しておきたい異色の名盤。
70年代以降のゲッツは出来不出来が激しい。コンスタントにリリースされるレコードはどれも悪くはないが、飛び抜けて高く評価したいものもなく。それよりも来日公演でのマナーの悪さで評判を落とした。
はっきりと日本人を嫌っていたし。麻薬をやめてからはアルコールに浸っていたそうだ。
いっぽうで、体調が良いときはすこぶる冴えたアドリブを展開させ、極上の演奏もあったとのこと。
実演に足を運んだのは2回だけだが、どちらもパッとしたものではなく、こんなことなら家でレコードを聴いていたほうがマシだった、という残念な印象しかない。
『スタン・ゲッツ・プレイズ』は、タイトルどおり、有名スタンダード・ナンバーをゲッツ流に演奏したアルバム。
このディスクを 100パーセント愉しむコツは、収録されたスタンダード・ソングをヴォーカル盤で聴き、そのメロディに馴染んでおくこと。ジャズのアドリブとはどういうものか、単純にして明快に分かる。できれば歌詞の内容も知っておくとさらにいい。スタン・ゲッツという男の詩情性がどのようなものだったのか、言葉ではなく身体で理解できる。
この1枚にジャズを聴く楽しみのすべてが内包されているわけではないけれど、ジャズでしか味わえない重要なエレメントを有していることは間違いない。
ジャズの本質は演奏者の個性から発散されるアドリブにある。
三文評論家じみた結論を述べたところで、次回に続く。
スタン・ゲッツ Stan Getz
1927年2月2日ペンシルバニア州フィラデルフィアにて、ユダヤ系ドイツ移民の家庭に生まれる。13歳のとき父親よりサックスを買い与えられ、独学で演奏を覚える。16歳ごろからステージに立つようになり、1943年から45年にかけて、ジャック・ティガーデン楽団、スタン・ケントン楽団、ジミー・ドーシー楽団、ベニー・グッドマン楽団で演奏。
47〜49年に在籍したウディ・ハーマンの第2期モダン・オーケストラ(セカンド・ハード)でのソロ・プレイはクールジャズと呼ばれ、白人モダン・テナーの第一人者としての地位を確立。48年12月にキャピトル・レーベルに録音した「アーリー・オータム」はそのころの代表曲。
ハーマン楽団を退団し独立後は、自己のカルテットを率いて活躍。51〜52年は北欧を楽旅。一時はスウェーデンに住んでいたが、61年に帰米。ボサノヴァを導入したチャーリー・バードとの共演アルバム『ジャズ・サンバ』が大ヒットし、『ゲッツ/ジルベルト』はグラミー賞を受賞。
70年以降は、チック・コリア、リッチー・バイラークなど新進ミュージシャンをメンバーに入れ、新しいサウンドを追求。ヴォーカルの歌伴にも定評があり、ヘレン・メリルやアビー・リンカーンと共演、女優のシビル・シェパードやヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのアルバムにも参加。
晩年は過度のアルコール依存で体調を崩し、闘病生活を続けながらも欧米のジャズ祭に出演していたが、1991年6月6日肝臓癌で死去。
遺灰はサンタモニカ沖の太平洋に撒かれた。