先人の好奇心と勇気に涙する
February 25, 2005
うぐいすのなく野辺ごとにきてみれば
うつろふ花に風ぞ吹きける (古今和歌集)
鶯(ウグイス)の話題が続きます。
鶯は、ほぼ日本全国に分布するスズメ目ウグイス科の鳥で、(渡りをしない)留鳥ですが、寒冷地では3〜9月以降は暖地へ移動。平地で鳴き始める季節が早春であることから春告鳥(ハルツゲドリ)の別名があります。
日本全国といっても、最北端は北海道択捉島カモイワッカ岬(北緯45度33分28秒・東経148度45分14秒)から、最南端は東京都沖ノ鳥島(北緯20 度25分31秒・東経136度04分11秒)まで、南北にながーいお国ですから、場所によって鳴き始める時期は微妙にずれてるのが実情ですが、テレビなどのマスコミで話題になるのは2月中旬から3月の始めにかけて。和歌などに詠われる場合も、ほぼこの時期をさし、早春の季語にもなっています。
上に載せた古今集は平安京時代ですから、京都の歳時記を基準としているんでしょう。
こんなところにも、時の権力ってものが現れますね。
もし、沖縄が首都だったら、鶯の出る幕はありません。代わってヤンバルクイナが大活躍でしょう。(ほかに沖縄の鳥って知らないもので……すみません)
北海道ではどうなんだろう? キタキツネ?……テレビドラマ「北の国から」と映画「キタキツネ物語」(特に町田義人の主題歌)の影響で、キタキツネってなんだか、早春のイメージが強いですね。実際は一年中活動してるんだろうけど。
鶯の体色は背中がオリーブ褐色で、お腹は白。
ふつうウグイス色と呼ばれている色をした鳥は、メジロだそうです。
う〜ん、俺はいままでとんでもない間違いを犯してたのかも知れません。無知というのは恐ろしい。
では、青みがかった淡い緑色がなんでウグイス色って呼ばれているかというと…… これ、鶯の糞(フン)の色なのだそうです。
(ほんとかな? 鶯には糞をかけられたことないから、分かんないや)
つまり、我が国特有の……安価にして美味なる、菓子のようで菓子でなし、主食のようで主食でない、べんべん……アンパン。そのヴァリエーションであるところの、所謂ひとつのウグイスパン、そのアンコの色は、鶯の糞の色だったのであります。
ところで、年輩の女性にはご存じの方も多いと思いますが、鶯の糞には美顔効果があるということで、昔から重宝されてきました。肌の角質層を柔らかくする酵素が多量に含まれており、この糞を顔中に塗りたくれば、たちまちお肌はツルツルピカピカ、脱色効果もあり美白美人になること請け合いの逸品。
しかし、これ、最初に始めた人って、どんな人だったんでしょうね。
「お母ちゃん、もうやめてよ。近所の人たちも笑ってるよ」
「うるさい。あんたみたいな顔洗ってるだけでプリプリお肌の小娘なんかにゃ、三十過ぎて、シミ、ソバカス、肌荒れ、小皺がガンガン目立ってきた中年女の悲哀なんて分かんないのよ」
「でも綺麗になりたいんだったら、ヘチマ汁やキュウリの絞り汁だってあるじゃないの。なにも鳥の排泄物なんか顔に塗ることないじゃないの。尋常じゃありません」
「なにごとも最初はそうなのよ。レオナルド・ダ・ヴィンチだってガリレオ・ガリレイだって最初は笑われてたのよ。好奇心でいろんなものを試して、その試行錯誤の末に、新発見と栄光があるのよ。最初にナマコを食べた人だって、そうだったのよ。なんでもやってやろうってチャレンジ精神があったからこそ、現在の食卓のナマコなのよ。烏賊の塩辛だって、くさやの干物だってそうなのよ。最初が肝心なのよ。私は美容界のダ・ヴィンチなのよ、モナリザなのよ! おーほっほっほ……(べちゃべちゃ、べちゃべちゃ、べちゃっ!)」
「お母ちゃんの莫迦、莫迦、莫迦!」
たぶん、いろんな鳥の排泄物が試されたと思うんですよ。
カラス、スズメ、アヒル、ガチョウ、ニワトリ、フクロウ、ハゲワシ、ハゲタカ、キツツキ、九官鳥、駝鳥、始祖鳥、火喰鳥……鳥類ばかりにこだわったとは限りません……ウシ、ブタ、イノシシ、イヌ、ネコ、サル、キジ、ヒツジ、ヘビ、イグアナ、タツノオトシゴ、ゴジラ、ガメラ、アンギラス……古今東西いろんな動物の排泄物を試行錯誤して、ついに掴んだ新発見、その栄光の証が「鶯の糞」だったのでしょう。
先人の執念と努力に思いを馳せるとき、俺は滂沱の涙に瞼を腫らすのを禁じ得ません。
閑話休題。
マイクル・クライトンのハイテク秘境探検小説「失われた黄金都市」(「コンゴ」のタイトルで映画化)に、人間と手話で対話するゴリラが出てきます。小説を読んだときは「嘘だろ〜、ほんとかよ〜」と眉唾ものでしたが、テレビの海外ドキュメンタリー番組で実物を見て吃驚仰天、腰を抜かしたことがあります。
これは、その後日談。
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