交響曲第9番 ニ短調 「合唱」 作品125
苦難の人生を送ったベートーヴェンの最後の交響曲。
シラーの「歓喜に寄す」が発表されたのは1785年。
ベートーヴェンはまだボンにいて、26歳でした。
「抱擁したまえ、無数の人々よ。この接吻を全世界に与えよう。兄弟よ、星々の幕屋の上に必ずや愛しき父はすまわれる」
愛と平和と歓喜を主題としたヒューマニズムに満ちた思想に強く感銘したベートーヴェンは、いつかこの詩をもとにした音楽を作曲しようと考えるようになりました。以来30余年、計画を温めつづけ、晩年になってようやく交響曲のなかにシラーの詩を組み込むことで、その願いを果たしました。
「交響曲第9番 ニ短調」は死の3年前、ベートーヴェン54歳の作品です。
当時はまだ交響曲に声楽を加える習慣はなく、また1時間を超える長尺な作品も稀でしたが、ベートーヴェンの生涯のテーマだった「苦悩を乗りこえて歓喜に到る」がストレートに発露された楽曲は、音楽史上最大最高の交響曲として金字塔を打ち立てました。
「ベートーヴェンの第9番は合流点である。非常に遠方から、また、まったく異なった地方から来た数多くの奔流や、あらゆる時代の人間のさまざまな夢想や意欲といったものが、このなかに混じり合っている。またこれは、他の8つの交響曲とは異なり、山頂から過去のすべてを俯瞰する回顧でもある」(詩人:ロマン・ロラン)
初演:1824年5月7日 ウィーンのケルーントナートーア劇場
楽器編成:
ピッコロ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラ・ファゴット、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、トライアングル、シンバル、大太鼓、弦5部。
ソプラノ独唱、アルト独唱、テノール独唱、バリトン独唱、混声合唱。
楽曲構成:
第1楽章 ニ長調
(アレグロ・マ・ノン・トロッポ、ウン・ポーコ・マエストーソ)
静かに、漂うような神秘的な導入で始まる壮大なスケールのソナタ形式。
第2楽章 ニ短調
(モルト・ヴィヴァーチェ)
ソナタ形式による劇的なスケルツォ。第1主題はフガート。ニ長調のトリオ(プレスト)も軽快なスケルツォ風。
第3楽章 変ロ長調
(アダージョ・モルト・エ・カンタービレ)
平穏な雰囲気の静謐なアダージョ主題と、憧憬を秘めた優美なアンダンテ・モデラートの主題が交互に変奏される緩徐楽章。終わりのほうで第4楽章を暗示させるファンファーレが響きます。
第4楽章 ニ短調−ニ長調
(プレスト−アレグロ、アッサイ)
全合奏の激しい導入のあと、前3楽章の主題が断片的に回想され、これらひとつひとつが低弦でうち消された後、ニ長調の「歓喜主題」が提示されます。歓喜主題は、低弦楽器からバリトン独唱、そして合唱へと発展して盛り上がりますが、いったん終結し、テノール独唱によるトルコ風行進曲に移ります。歓喜主題がフガートに変奏され第2の盛り上がりをみせたあと、教会音楽風の厳粛なコラールとなり、これに歓喜主題が重ねられ2重フーガとなって発展。声楽四重唱のカデンツァを経て、これまで以上に巨大で圧倒的なクライマックスをむかえ、全合奏のプレスティッシモ(ものすごく早いテンポ)でコーダに突入します。
ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 「合唱付」
レナード・バーンスタイン指揮
ギネス・ジョーンズ(ソプラノ)
1979年 ステレオ・ライヴ録音 |
1979年のライヴ録音。この時期、きわめて充実した関係を保っていたバーンスタインとウィーン・フィルによる、ベートーヴェン交響曲全集録音の白眉。冒頭の付点リズムを有機的に発展させ、楽曲全体にみなぎる躍動感。表面的な威厳ではない、血のかよったヒューマンな人間賛歌。独唱陣に豪華なメンバーを揃えた第4楽章が素晴らしい。
ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 「合唱付」ゲオルグ・ショルティ指揮 シカゴ交響楽団
ピラール・ローレンガー(ソプラノ) 1972年 ステレオ録音 (Decca) |
男性的な逞しい迫力、オーケストラの正確無比な機能美。スタンダードな曲の解釈。ショルティ&シカゴ交響楽団による力強いベートーヴェン。
ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 「合唱付」シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団
レオンタイン・プライス(ソプラノ)
1958年 ステレオ録音 |
ほとばしる熱気と壮麗なリリシズム。メリハリの効いた指揮で定評のあるミュンシュの、ボストン交響楽団時代の代表作。ステレオ初期の録音ですが、音質を忘れさせる「熱狂の第9」が愉しめます。