交響曲第5番 嬰ハ短調
第4楽章が映画「ベニスに死す」に使用されたことから、ポピュラーな人気を得たマーラー5番目の交響曲。
第2番から第4番まで、交響曲に声楽を用いてきたマーラーだったが、この第5番からは古典的な構成理念に傾斜し、純粋に器楽のみの交響曲を続けて発表する。
テーマはマーラーらしく、人生の憂鬱とカタルシスの願望。楽曲全体の流れは苦悩から歓喜へと昇華される。
全体が3部に分けられた5楽章から構成されており、第1楽章は第2楽章の、第4楽章は第5楽章の序奏部として機能している。
作曲者自身の指揮により、1904年に初演されたが、音楽の多義性を内包した重層的なポリフォニック書法は、当時の聴衆には理解されず、その後もマーラーは、公演のたびに改稿を繰り返した。
作曲年代:1904年の夏から翌1905年にかけて。
さらに1907年と1909年に、数回補筆している。
初演:1904年10月18日 ケルン・ギュルツェニッヒ演奏会
指揮は作曲者自身
楽器編成:
フルート4(2名はピッコロ持ち替え)、オーボエ3、クラリネット3(1名はバス・クラリネット持ち替え)、ファゴット3(1名はコントラ・ファゴット持ち替え)、ホルン6、トランペット4、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、シンバル、トライアングル、大太鼓、小太鼓、ゴング、ハープ、弦5部。
楽曲構成
第1部
第1楽章:葬送行進曲(正確な歩みで、厳格に、葬列のように)
第2楽章:嵐のように激しく、いっそう大きな激しさで
第2部
第3楽章:スケルツォ(力強く速すぎずに)
第3部
第4楽章:アダージェット(非常にゆっくりと)
第5楽章:ロンド-フィナーレ アレグロ・ジョコーソ
演奏時間:約70分
マーラー:交響曲第5番
レナード・バーンスタイン指揮 1987年 デジタル録音 (Deutsche Grammophon) |
ゆったりとしたテンポと、濃厚で粘着質な語り口。まるで作曲者マーラーが憑依したがごときバーンスタインの、誠実かつ切実な演奏。1音たりとも疎かにしない緻密な作業で描かれたマーラーの世界。
マーラー:交響曲第5番ゲオルグ・ショルティ指揮 シカゴ交響楽団 1970年 デジタル録音 (Decca) |
ショルティがシカゴ交響楽団の音楽監督に就任して間もないころに録音された、マーラー交響曲全集からの1枚。明快かつ壮麗、繊細で大胆、ときに劇的でときに抒情的。金看板のブラス・セクションもやる気満々。ダイナミックで実に頼もしい男性的なマーラーだが、リリカルな美しさも兼ね備えているところが素晴らしい。
マーラー:交響曲第5番
ジョン・バルビローリ指揮 1969年 ステレオ録音 (EMI) 輸入盤 |
人気の第4楽章「アダージェット」が最も美しいのは、こちらのバルビローリ盤。スケール感とパワーに若干乏しいものの、抒情的な歌心が聴き手を酔わせる。ルキノ・ヴィスコンティ監督の映画「ベニスに死す」で使用された。