ジャズ・ミュージック・ライブラリー
September 5, 2009
Chet Baker Sings
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数多いチェット・ベイカーのレコードの中でも、最も人気が高いヴォーカル・アルバムです。余計なフェイクを加えず、ノン・ビブラートでクールに(隠微な香りを漂わせて)唄うチェットの声と、シンプルなトランペット演奏。有名なスタンダード・ナンバー14曲が、独自のカラーで繊細に染めあげられ、延べ4回のセッションに統一感をもたらしています。リチャード・ロジャース=ロレンツ・ハートの「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」は、この曲の決定的名唱でしょう。
長い間、ジョー・パスのギターをオーバーダビングした疑似ステレオ盤しか流通していませんでしたが、80年代にオリジナル・テープが発見され、本来の形でCD化されました。
ブック・オブ・バラーズ カーメン・マクレエ
Kapp
1. By Myself
カーメン・マクレエ(vo)、ドン・アブニー(p)、ジョー・ベンジャミン(b)、チャーリー・スミス(ds) |
バラッドの名曲をじっくり聴かせる、キャップ・レーベルの第1作。
1958年10月録音。
3,5,8,11の4曲をピアノ・トリオで、残りの8曲を、フランク・ハンター編曲・指揮のストリングス・オーケストラが伴奏しています。
バラッド唱法に定評のあるカーメンならではの味わいが絶品。秋の夜長に耳を傾ければ、人恋しさも倍増。バラッド・ヴォーカルの定番。一家に一枚の絶対的オススメ!
ザ・グレイト ロレス・アレキサンドリア
Impulse!
1. Show Me ロレス・アレキサンドリア(vo)、バド・シャンク(fl)、ポール・ホーン(as)、ヴィクター・フェルドマン(vib)、ウイントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds) |
1964年、最も声に張りと艶があった、35歳のときの録音。バックを務めるのは、当時マイルス・グループのリズム・セクショだったウイントン・ケリー・トリオを中心としたメンバー。ゴスペル出身の黒人歌手らしいソウルフルな唱法に、白人歌手的なハスキーなフレージングを加味し、「サテンドール」や「虹の彼方に」などスタンダード・ソング10曲を披露。「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ」のひたむきな感情表現は絶品。
ジス・イズ・アニタ
Verve
1. You're the Top アニタ・オデイ(vo)、バディ・ブレグマン楽団 |
スタンダード・ソングを緩急自在にフェイクして、ジャズ・ヴォーカルの粋を聴かせる、アニタ絶頂期の1956年録音。
ウォーキング・ベースだけを相手に唄い始め、徐々に白熱してゆく「ハニーサックル・ローズ」、しっとりとした情感と絶妙なフレージングに酔う「バークリー・スクエアのナイチンゲール」、ミュージシャンの名前が歌詞に次々と登場する「ユーアー・ザ・トップ」も愉快痛快。
ポール・スミスのピアノを中心としたカルテット、カルテット・プラス・4トロンボーン、カルテット・プラス・ストリングスと、異なる3つのスタイルで的確にサポートするバディ・ブレグマンのアレンジは、歌伴のお手本。
アニタの持ち味であるスピード、スウィング感、アドリブの面白さが余すとことなく発揮された、ヴォーカル・ジャズの逸品。絶対的オススメ!
Lady Day: The Best of Billie HolidayColumbia/Sony [ disc 1 ] ビリー・ホリデイ(vo)、ベニー・グッドマン(cl)、テディ・ウィルソン(p)、カウント・ベイシー(p)、デューク・エリントン(p)、ロイ・エルドリッジ(tp)、チュー・ベリー(tp)、レスター・ヤング(ts)、ベン・ウェブスター(ts)、ジョニー・ホッジス(as)、ベニー・カーター(as)、フレディ・グリーン(g)、オスカー・ペティフォード(b)、ケニー・クラーク(ds)、ジョー・ジョーンズ(ds)、他多数 |
44歳の若さで生涯を終えたビリー・ホリデイの演奏記録は、大きく3つの時代に分けることができる。
1933年の初レコーディングから1944年までのコロムビア時代。
1944年から1950年までのデッカ時代。
1950年以降のクレフ=ヴァーヴ時代。
コロムビア時代の録音は、ビリーを発掘したジョン・ハモンドによって企画された、テディ・ウィルソンを中心としたブランズウィック・レーベルのためのセッションと、ビリー・ホリデイ楽団名義で録音されたボカリオン=オーケイ・レーベルのためのセッションの2つがあり、両セッションとも、当時のジャズ・シーンを代表するスター・プレイヤーが多数レコーディングに参加しています。
この時期の録音は、別テイクやラジオ放送のエアチェックを含め、現在(2004年)、230曲の存在が確認されています。これらすべてを10枚組CDに収めたコンプリート・ボックスセットが2001年に発売されました。
ここで紹介している2枚組CDは、その巨大なセットから36 曲を抜粋したベスト・セレクションです。
ビリーの少女時代のアイドルがベッシー・スミスであったことは有名で、まだ幼いころ、トンクス(淫売宿=ここで演奏された安っぽいピアノ曲を総称してホンキー・トンク)にあった蓄音機でベッシーの歌を聴きたいばかりに、タダ働きしていたという逸話も残っています。したがって、ビリー・ホリデイのルーツは明らかにブルースにあります。
しかしながら、ここに収められた初期のレコーディングを聴く限り、ビリーはまったく独自にビリーそのものであり、誰かの模倣、物真似、影響といった印象はまったく感じられません。もちろん、先達たちが伝えてきたブルースの精神は確固として受け継いでいます。しかし、その表現は旧来のブルースの枠に収まらない、自由な奔放さを最初から身につけていたようです。
「私が歌うものがなんであろうと、それは私の一部なの」……ビリーは一貫して自分自身を歌ってきました。だから彼女のフレーズは、原メロディの束縛から解き放たれ、誰が作詞作曲した曲であっても、彼女が歌えばそれは彼女の曲となって我々の前に現れます。たとえコール・ポーターやガーシュウィンの有名曲であっても、ビリーが歌えば、それは最初から彼女に歌われるために作られたと錯覚してしまうほどぴったりマッチして、聴き手のハートに飛び込んできます。この2枚組に収められた曲のひとつひとつには、彼女の人生が刻み込まれています。