コリア、クラーク&ホワイト:フォーエバー
January 20 2011
最近購入ジャズ・ディスク
1970年代のジャズ・フュージョン・シーンを風靡した人気グループ、リターン・トゥ・フォーエバーのメンバーが、2009年にまたまた再結集。
新しいアルバムがリリースされたので聴いてみました。
Disc1は 2009年夏の世界ツアーからセレクトしたライヴ録音。
Disc2はマッドハッター・スタジオにてゲストを迎えてスタジオ録音。
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Corea, Clarke & White:ForeverConcord Jazz Disc 1 チック・コリア (p, el-p) Disc 2 (02, 07, 08, 09) 2009年 ライヴ録音(Disc1)、スタジオ録音(Disc2) |
リターン・トゥ・フォーエバー(以下 RTFと略)のリユニオンは、1982-83年にアル・ディ・メオラを入れたメンバーで過去にもやっていて、今度(2008年)のは2回目の再結集。
83年版RTFは、もう抜け殻というか、金のためにやってるみたいなもので。どうだおまいら、もう一度俺たちの演奏が聴けて嬉しいだろー、って言われてるような嫌ァな感じでした。
(1983年東京公演に行ったときの感想)
第3期 RTFの総決算的4枚組ライヴ盤『リターン・トゥ・フォーエバー・ライブ』(CBS Columbia)もあるし、80年の「ライブ・アンダー・ザ・スカイ」での素敵な思い出を壊されるのも辛いし。
ここ(83年版RTF)でチック・コリアのフュージョン路線に見切りをつけました。
その後、チックは仕切り直し。
若いメンバーを集めてエレクトリック・バンドを結成。
これ、当時のフュージョン・アルバムとしては、かなりヒットしたんじゃないでしょうか。普段ロック聴いてる友人も買って聴いてましたから。
シャカタクとかTスクエアとか軟弱なイージーリスニングばかりヒットして、フュージョンってジャンル自体が落ち目になってましたから。かえって新鮮に聴こえたのかも。
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Chick Corea Elektric BandGRP Records 01 City Gate チック・コリア(p, el-p, syn) 1986年1月録音 |
RTF解散後、迷走していたチック・コリアが心機一転、新しいフュージョン・サウンドを開発すべく結成したエレクトリック・バンドの第1作。パティトウィッチ、デイヴ・ウェックルの若々しいリズム隊が鮮烈。
よくまあこんなピチピチした若者(ドラムスとベース)を見つけてきたものだと感心しましたが、チックのこのタイプの音楽は手の内がミエミエで、カッコイイだけの軽薄サウンドにしか聞こえませんでしたね。エレクトリック期以後のマイルスみたい。
そんなおれの呟きを耳に入れたはずもないだろうけど、ならこれはどうだとばかり、同じメンバーでモダンジャズを録音したのがこれ。
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Chick Corea Akoustic BandGRP Records 01 Bessie's Blues チック・コリア(p) 1989年1月録音 |
エレクトリック・バンドを成功させたチック・コリアが、同じメンバー(ジョン・パティトウィッチ、デイヴ・ウェックル)でモダンジャズを演奏。1989年ビルボード誌で第1位となり、90年のグラミー賞(インストルメンタル・ジャズ部門)を受賞した名盤。アコースティック(Acoustic ≠ Akoustic)のスペルに遊びをいれているので、表記に御注意!
これが良かった!
ベースもドラムスも旧来の4ビート・ジャズを経験してない(と思う)若者だから、サウンドがフレッシュなんですね。特にベースのパティトウィッチが良い。旧RTFのスタン・クラークはエレベのときはロック・テイストのリズムをビンビンに利かせるけど、アコベを手にしたときはわりと普通というか、ポール・チェンバースみたいに古風なスタイルになるときもあって、それはそれで伝統の奏法だから安心して聴けたのだけど。パティトウィッチはまったくのロック小僧だから、リズムを刻む感覚がぜんぜん違う。聴きなれた(聴き飽きた?)「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」や「オータム・リーヴス」などのスタンダード・ナンバーがとても生き生きとして清々しい気分。だんぜん気に入っちゃいまして、やっぱりチックはいいなあと惚れ直しました。
そんなおれの寝言をどこかで盗み聞きしたのか、しなかったのか。
すぐさまアコースティック・バンド第2弾をリリース。
1989年1月に録音した『チック・コリア・アコースティック・バンド』の好評にこたえ、サンセット・ブルーバードのスタジオに招待客をいれて録音されたスタジオ・ライヴ盤。
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Chick Corea Akoustic Band AliveGRP Records 01 On Green Dolphin Street チック・コリア(p) 1989年12月 ロサンゼルスにてスタジオ・ライヴ録音 |
アコースティック第1作も良かったけど、こっちのほうがよりトリオの連携がこなれていて、試しにどちらか1枚って人にはこっちのライヴ盤をオススメ。
チックはおれの寝言を盗み聞きしていたらしく、先行発売された国内盤(ビクター音楽産業)には、9曲目に「ラ・フェスタ」のヌルい演奏がボーナス・トラックとして収録されていた。あってもなくてもいいようなオマケだけど、国内盤買っちゃったよ。
前作にあったパテトッチのギミック感が薄れて、ちょい普通になったのが惜しいけど。マジでチック・コリアのトリオ演奏が聴きたけりゃ、名盤『ナウ・ヒー・シングス、ナウ・ヒー・ソブス』(Solid State/1968年)を聴けば済むわけで。ロック世代の若者に、数段格上のロイ・ヘインズとビトウスと同じものを求めてもしょうがないでしょう。
それと、このディスクは音質が優れていてオーディオ・チェックにも使えるから、再生回数は多いですね。スピーカーやアンプを弄ったときに、よく聴きます。
このあたりで個人的音楽嗜好が変わって、チック・コリアとは長いお別れ。新譜をまったく聴いてなかったの。
だから、2008年にRTF再々結成ワールド・ツアーの話題も知ってはいたけど無視。そのときのライヴ盤も2枚組で出たけど、収録されている曲名を見て、「第7銀河」とか「浪漫の騎士」とか、なにをいまさらってな感じで華麗にスルー。
それで今度の『フォーエバー』なんだけど、これは曲名見てちょっといいかもって思ったの。
「セニョール・マウス」とか「バド・パウエル」とか、ゲイリー・バートンとのデュオ・ライヴ(ECM/1979年)で演っていた曲が入ってたし。
ディ・メオラ抜きのトリオで、アコースティック演奏をメインに収録してるっていうし。
77年の『RTF ライヴ』やアコースティック・バンドで若手2人を相手にしていた「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」がスタン・クラークとレニー相手に今やるとどうなるのかって興味もあったし。
CD2枚目のスタジオ録音にヴァイオリンのジャン=リュック・ポンティも参加してるし。
ちょっこし魔が差したので、買っちゃったわけ。
しかしぜんぜん変わらないね、チック・コリアって音楽家は。
1941年6月生まれだから、今年(2011年)70歳というのに、げんき元気。30年前と同じだよ!
おそらくこのディスクを買ってるのは、おれと同世代のおっさんだと思う。
メンバーの顔ぶれや収録曲が、70年代ファンの懐古趣味をかきたてるもの。
……で、その期待というか、予想は裏切られない。
フリーでクリスタルでチャーミングでエキゾチック、ロマンチックでビューティフルなチック・コリアは健在(歯の浮くようなカタカナ美辞麗句がよく似合うんだよな)。
スタン・クラークもレニーも昔と同じに元気。
新しいとか古いとか関係ないの。進歩とか後退とかも関係ない。
信じられないくらい昔と同じ。
Disc1の「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」が始まった瞬間、これはアコースティック・バンドのパワー増強版だって分かるのね。次の「ワルツ・フォー・デビー」でスタンがメロディックなソロをやるでしょ。3曲目「バド・パウエル」聴きながら、むかしのチックは良い曲を作ってたんだなあと。4曲目「ラ・カンシオン・デ・ソフィア 」のチックのソロがまたロマンチックで、続くスタンのアルコ(弓弾き)がチャーミング……なんて感じで、彼らの術中にハマってしまうわけよ。
こういうのは困るよね。
アルバムの出来がいいのは分かるんだけど。
おっさんの懐古で評価がかなり底上げされてるのも分かるもの。チックがエレピ弾いてる5曲目「ウィンドウズ」は、音色やフレーズのひとつひとつが懐かしさに満ち満ちているし、スパニッシュな8曲目の「セニョール・マウス」じゃ、おお、これだこれだ、これがおれの知ってるチック・コリアなんだよ! と興奮してしまうんだから。
Disc2のスタジオ録音も、自宅のマッドハッター・スタジオに70年代の仲間を呼んで、あのころと同じ音楽遊びに耽っているように思える。精神的には同じ気分だよ、きっと。
途中で演奏やめちゃった没テイクまで収録するのは、ちょいと遊び過ぎだけど。ジャン=リュック・ポンティのヴァイオリンが典雅に歌う「アルマンドのルンバ」、いいよぉー。『マイ・スパニッシュ・ハート』(Polydor/1976年)大好きオッサンには、これはたまらんぜよ。
チック・コリア? なにそれ、どこのコリアン人? とか言いそうな若い人のストレートな感想のほうが、案外に的を得てるんじゃないかと思う。
超個人的に Disc1に限っては、ここ数年で最高のジャズ・アルバムなんだけどね。
Disc2はチャカ・カーンがうるさくて苦手なの。こんなにうるさい「アイ・ラブ・ユー、ポーギー」は初めてだよ。この女に情緒表現とか求めても無駄なんだろうな。
ついでに 1977年5月の『RTF ライヴ』が Sonyから近々リイシューされるそうなので紹介しておく。60年代末にマイルス・デイビスが火種をつけたジャズロック/フュージョン・ムーヴメントのひとつの到達点。
おれが買ったときは LP4枚組(豪華な布張り箱入り)で 8000円くらいしたのが、いまじゃCD2枚組で 2000円とな。
おっさんおばさんはもういいから。
10代、20代の若い人に聴いてもらいたいです。
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Return to Forever Live - The Complete ConcertSony/CBS Columbia Disc1 チック・コリア(p, el-p, syn) 1977年5月20-21日 ニューヨークにてライヴ録音 |
今回は何枚もアルバムを並べてみたけど、この『RTF Live』のころから現在まで、チック・コリア自身はぜんぜん変わってないんだよなあ。