soe006 ジェリー・ゴールドスミスを聴く(2)

ジェリー・ゴールドスミスを聴く(2)

July 24, 2005

SILVA盤のカバー・コンピ盤に収録されている『エイリアン』は、ニック・レイン指揮のシティ・オブ・プラハ・フィルの演奏。スコアはアーサー・モートンがオーケストレーションしたものを使っているので、独自の解釈は加えられていません。基本的にオリジナルに則した演奏になっています……なっていますが、リードをとるトランペットのブレス(息継ぎ)が気になったので、クリフ・エイデルマンが1996年にロイヤル・スコティッシュ・ナショナル・オーケストラを指揮したVarese Sarabande盤『エイリアン・トリロジー』を聴いてみました。こちらのトランペットはスムーズです。ブレスの位置も気になりません。
更に同じオーケストラを作曲者のゴールドスミス自身が1997年に指揮した『フロンティアーズ』(Varese)を、そして映画公開時にリリースされたサントラ盤(実際はライオネル・ニューマン指揮ナショナル・フィルによるオリジナル・スコア演奏盤でフィルム収録の音源ではない。SILVAより1988年にCD化されたが現在廃盤)と、4種類の『エイリアン』を聴き比べてみました。

ということで……
昨年書いた「ジェリー・ゴールドスミスを聴く(1)」の続きです。

聴き比べてみると、オリジナル盤はかなり音が悪い。
LPはそんなに悪くはなかったと記憶していましたが(記憶なんてアテにならないけど)、ロイヤル・スコティッシュの新録音(20ビット・デジタル・レコーディング)のあとではその差は瞭然。
演奏はさておき、ゴワゴワした音は耳の毒。

話題はちょっとズレますが…… LP盤の『エイリアン』は最初のリリース時からかなり聴きこんでいて、いまでも「ゴールドスミス作品のベストは?」と訊ねられると、即座にこのタイトルが出るほどに大好きな作品なんですね。
その理由は……以下数行伏字。
このレコードをBGMにセックスすると、異様に興奮するんですよ。
映画の内容が内容だけに、この使用法はあながち間違っていないと思うのです……騙されたと思って、ぜひ一度お試しください。

ちなみに、同時期に公開されていたジョン・ウィリアムスの『スーパーマン』でヤルと、爆笑もので、絶対にうまくいきません。こちらもヒマな方は一度お試しあれ。

まぁ、そういう不埒な理由(それだけでもないですけど、長くなるので割愛)から愛聴盤だった『エイリアン』でしたが、久しぶりに聴いてみて、音の悪さにがっかりしたわけです。
ゴールドスミスについては、多くの方が指摘しているように、70年代〜80年代前半の作品群(アーサー・モートンがオーケストレーターだった時代)が生涯とおして一番充実していたと思います。
LPの復刻や未リリースだった作品の初音盤化など、死後もなおCDリリースが話題になるゴールドスミスですが、人気があるのはやはり70年代ですね。
90年代以降は、映画の傾向がゴールドスミスの作風と合わなくなって、作曲家の本意とは思えない(例えばアクション場面に打ち込みリズムをベタで貼り付ける、とか)、杜撰な仕事が目立ってきます。
そんな状況のなかでも素晴らしい音楽は提供されていましたが、「特にゴールドスミスでなければならない」という仕事は減ってしまった。「他の作曲家でも可なんだけど、とりあえずゴールドスミスに依頼しました」みたいな仕事が多かったように思います。

『パットン大戦車軍団』、『トラ・トラ・トラ』、『パピヨン』、『チャイナタウン』、『風とライオン』、『オーメン』、『カサンドラ・クロス』、『スウォーム』、『エイリアン』、『ブラジルから来た少年』……まだ他にもいっぱいありますけど、70年代の作品群は、それぞれの題材に合わせた特徴のある音楽設計がなされていて、どれもが甲乙つけがたく素晴らしいです。

それに反して、CDの音質の悪さ!

これは以前から思っていたことだけど…… ジェリー・ゴールドスミスは、90年代のクソったれな映画群に新しい音楽を提供するくらいなら、その時間を使って(かつて晩年のバーナード・ハーマンがそうしたように)、過去の自作を整理、自身の納得がいく形で再録音しておいて欲しかった。

映画音楽は、秒刻み(厳密に言えば、1秒間に24コマの時間の流れ)の制約のなかで録音されます。そのためにフレーズの長短が歪になったり、場面(シークェンス/シーン/カット)に合わせて音楽を切り貼りしなくてはならない。また台詞や効果音との兼ね合いから、音の強弱はもちろんのこと、音楽録音後にボリュームやミキシングを(作曲者の意図とは無関係に)他者に委ねてしまう。
そうした数々の制約を一切抜きにして、作曲者の理想とする音楽を、演奏を、現代の良好な音質で、もっと残しておいて欲しかった。
それがゴールドスミスの最後の仕事であって欲しかった。

90年代に入って、ゴールドスミスは自作自演のアルバム数枚を、Vareseレーベルに録音しています。ただでさえ売れないサントラ盤の、しかも愛好家からも偽物として忌み嫌われる再演奏・新録音盤。ロバート・タウンソンという映画音楽に理解あるレコード・プロデューサーがいて、はじめて成し得た企画でした。
『エイリアン』が収録された先述の『フロンティアーズ』には、音盤化されていなかった『世界が燃えつきる日』も初収録されていて、嬉しかったなあ。
『パットン大戦車軍団』の新録音には、『トラ・トラ・トラ』がボーナス収録されていて、(当時まだFSM盤が出ていなかったので)これにも驚喜しました。
コンサート活動を始めたゴールドスミスは、(日本を含む)世界各国で映画音楽コンサートを催し、その際にコンサート用アレンジした自作曲をスタジオ録音し、2種類のアルバムとして発表しています。

それらはサウンドトラック盤ではない、とサントラ愛好家は言うでしょう。
オリジナルに勝る録音盤など存在しない、FSMがリリースしているような、フィルムのサウンドトラックに記録するために録音された音源のほうが再演奏録音より価値がある、と。
そして……密かに海賊盤を買いあさり、廃盤となったサントラ盤に異常な値段をつけオークションに出品、稀少盤所有の自己満足に浸っているコレクター。通信販売とはいえ、世界をマーケットにしたセールスで限定3000枚が売れ残ってしまう現状。 なんという狭い世界!

ここから先は、多くのサントラ愛好家を興奮激怒させる噴飯必至の内容となります。
俺はコレクターでもマニアでもないけど、多少はその色が付いているので、この続きの文章を、もし他人が書いたものとして読んだなら、きっと良い気分はしないと思う。
だから正直な気持ち、書きたくない。掲載したくない。
ゴールドスミス死去の際に(1)を書いておきながら、続きを今日までズルリズルリ延ばしてしまったのもそのため。
1年が経ち、気持ちや考え方を整理してみたものの、結論は1年前と変わりませんでした。

この項、長くなったので「ゴールドスミスを聴く(3)」に続く。
(掲載は、たぶん来年か?)

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