今月のレコード・ライブラリー
September 20, 2009
ディーリアス:管弦楽曲集
トーマス・ビーチャム指揮
1. ブリッグの定期市(イギリス狂詩曲) 1958-63年 ステレオ録音 EMI 輸入盤 |
英国製の音楽には2つの傾向があって、ひとつは七つの海を支配する大英帝国の威厳を高らかに謳うもの。エルガーの行進曲「威風堂々」とか、ホルストの組曲「惑星」の「木星」とかね。もうひとつは、田舎の素朴な風情を情緒豊かにスケッチしたような曲。ヴォーン・ウィリアムスの「グリーンスリーヴスの主題による幻想曲」とか「あげひばり」とか。
しかし、(余談だけど)「あげひばり」って題名は酷いよね。「ひばりは天高く舞い上がる」とか、もっといいタイトルのつけかたあっただろうに。これで定着しちゃってるから、今更どうしようもないけど。
ディーリアスは生まれは英国だけど、音楽活動の拠点はパリ近郊だったから、正確には英国音楽とは呼べないかも知れないけど……あきらかに後者の作風。
交響曲と宗教曲を除く様々なジャンルの音楽を書いているから、なかには威風堂々な行進曲なんかもあるかも知れないけど……我が国でよく知られている「春初めてのカッコウの声を聞いて」とか「楽園への道」なんかは、実に爽やかで懐古的な味わいがあります。派手好きな若い人には、地味で面白味に欠けるかもですが、人生のシミジミを落ち着いた雰囲気のなか感慨にひたりたい、なんて地味滋味願望がある中年過ぎのオジサンには、これがもう最高なんであります。
ディーリアスを世界的に紹介した功労者、トーマス・ビーチャム指揮ロイヤル・フィルの演奏は、そんな心安まる詩情をたーっぷり味わえる好盤。新緑の季節になると、なんとなく聴きたくなる、憩いの音楽決定盤です。
リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラかく語りき」「ドン・ファン」「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
ヘルベルト・フォン・カラヤン 指揮
1. 「ツァラトゥストラかく語りき」 1983-86年 デジタル録音 Deutsche Grammophon |
カラヤン&ベルリン・フィルによるリヒャルト・シュトラウス作品集。
このコンビは何度もR.シュトラウスの交響詩を録音していますが、これは1980年代のデジタル録音盤。
何度も繰り返しレコーディングしたいほど、カラヤンは作品に惚れ込んでいたのか、それともR.シュトラウスの華やかな音楽人生に憧れ、それを自分の人生と同一視したかったのか……なんてこと考えながら聴いてます。
正直言って、それほど好きな作曲家じゃないんです。ごめんなさい。
ベートーヴェン:交響曲第2番/ハイドン:交響曲第45番「告別」
イシュトヴァン・ケルテス指揮
1.ベートーヴェン:交響曲第2番ニ長調 作品36 |
不慮の事故死により、将来を嘱望されながら43歳の若さで亡くなったイシュトヴァン・ケルテスの、1960年ごろの録音。
オケはバンベルク交響楽団。
ケルテスさんの凄いところは、リリースされたレコードがすべて名盤扱いされていること。ハズレ盤が1枚もない。英国デッカに残されたウィーン・フィルとの録音盤は、マジで全部名盤。早死してなきゃ、もっと凄いことになってたかも。
デッカ録音は、モーツァルト、ブラームス、ドヴォルザークしかないのが残念無念と嘆いていたところ、マイナー・レーベルからのベートーヴェン録音が世界初CD化!
まだベートーヴェンがベートーヴェンとしての音楽を確立する前の第2番というのが、ちょっとですが、演奏は(録音も)活き活きしていて素晴らしいです。
このレベルで交響曲を全曲録音してくれたら……せめて第5番と第7番、欲を言えば第3番と第9番を、ケルテス&ウィーン・フィルで聴きたかったですね。同じレーベルからの復刻で、第4番と序曲集(「レオノーレ」「コリオラン」「エグモント」)も出ています。
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲&ソナタ
ヨゼフ・シゲティ(ヴァイオリン) アルトゥール・バルサム(ピアノ)-2,3
1. ヴァイオリン協奏曲第1番二長調 op.19 1960年(1)、1959年 ステレオ録音 (Philips) |
1892年生まれ、ハンガリー出身のヴァイオリニスト、ヨゼフ・シゲティのプロコフィエフ集。
同時代に活躍していたヤッシャ・ハイフェッツ、ダヴィド・オイストラフなどの技巧派とは対照的に、クライスラーの流れを汲む美音派。で、20世紀半ばは技巧派が主流だったので、「下手な巨匠」なんて呼ばれちゃってました。いまでもこのヴァイオリニストを1番目に誉めてる人は、ほとんどいませんね。
メンデルスゾーン : 交響曲第4番「イタリア」&劇音楽「夏の夜の夢」
ジョージ・セル指揮
1. 交響曲第4番イ長調op.90「イタリア」 1967年5月 ステレオ録音 CBS Columbia |
セル&クリーヴランド管のメンデルスゾーン。
颯爽としてカッコいい「交響曲第4番 イタリア」。「真夏の夜の夢」は、歌なし5曲のみの抜粋演奏。この劇音楽については、プレヴィン&ロンドン響(EMI)やクレンペラー&フィルハーモニア管(EMI)、クーベリック&バイエルン放送響(DG)など、愛聴盤が他にあるので、ここで聴かなくってもいいです。オマケの「フィンガルの洞窟」にしても、先のクレンペラーやカラヤンの演奏がコクがあって良いし。
このディスクでの聴きものは、なんといっても「イタリア」。ほんとに活きがよくって、若々しい。トスカニーニの名盤(RCA)がモノラルなので、同傾向のステレオ盤が欲しいって人には、このセル盤をお薦めします。1967年のアナログ録音に難色を示される方には、アバド&ロンドン響の1984年デジタル録音盤(DG)がいいかも。
メンデルスゾーンの「イタリア・シンフォニー」も好きなディスクがいっぱいあって、どれか1枚なんて、選べないですね。確かアバドにはシカゴ響を振った盤(DG)もあって、それもなかなか良かった。
若葉の季節、カラッと晴れた青空によく似合う交響曲です。