「のだめカンタービレ」についての覚え書き:序章 PART III
April 15, 2007
ここ最近、事あるごとに「ぷぎゃー」とか「ぎゃぼー」とか奇声をあげるので、妙だな何かあるな、とは感じていたんですよ。
それで訊いてみました。
「この曲の題名言えるか?」
「ベートーヴェン交響曲第7番。運命や第9ほどメジャーではないが、スケールが大きく、躍動感溢れる素晴らしい交響曲」
半分サル小僧が指揮振りしながら、クソ生意気に即答しやがった。
ものすごい影響力です。
そこで負けてはならじと、私もにわかクラシック・ファンに大変身。
なにしろ音楽は義務教育しか受けてない、楽器も出来ないド素人ですから、ずいぶん的外れで間違いだらけで、独り善がりで頓珍漢なことばかり書き連ねると思いますが、そこは「のだめカンタービレ」に影響されて興味を持ったにわかファンってことで、なにとぞご容赦のほどお願いしますです。
このドラマは理屈抜きに面白いです。
もっとも理詰めで見たら、もうとんでもなく出鱈目だらけ。
なにしろ原作は、雑誌に連載中の漫画です。
そんなに目くじらを立てるほどのことはないんですが。
例えば、ヴァイオリン・ケースを持っている学生に水をかけたりとか、ピアノを机代わりにしてボールペンでものを書くとか。音大の学生や教師はまずやらないでしょう。
野田恵(のだめ)が帰宅途中で、電柱の影で泣いているコントラバスの桜ちゃんと会う場面も、唐突というか偶然というか、ご都合主義というか。普通は伏線を用意しておくべき状況ですけど、そんなのお構いなし。
部屋には余計な物を置かないきれい好きな千秋真一が、こたつ事件から数ヶ月経っているのに、のだめが持ってきた段ボール箱をまだ置きっ放しにしていたり(性格の不一致といって役者が嫌うキャラ。いったいどんな性格で演じたらよいのか分からなくなる)、しかも、これでのだめの実家の住所を知るとか、伏線の貼り方もご都合主義。
なにより凄いのは……物語後半の中核となる、千秋真一とのだめのトラウマに関わる重要な部分。
指揮者になって世界に羽ばたきたいと願望している千秋真一は、少年時代に胴体着陸を経験して以来の飛行機恐怖症。それが障害となって海外留学できない。
それがこのストーリーの発端となっているわけです。
これを解決するのが、のだめの催眠術。
心療内科や催眠療法、加持祈祷や霊媒師など、試せるものは全部試したけど、それでもダメだったものが素人の催眠術で、ケロリと治ってしまう。
たいへんバカバカしいです。
もうひとつ、ドラマのクライマックスを形成しているのが、のだめの暴力に対する激しい拒絶反応。
少女時代にピアノ教師から受けた暴力が原因で、のだめは江藤先生のレッスンから逃げ回り、コンクールの予選でも過去の嫌な記憶が甦って投げやりな演奏をしてしまいます。
不可解なのは、のだめは、第1回からレッスン中に千秋に楽譜を投げつけられたり、汚部屋で殴られたりさんざん暴力をふるわれているのに、こちらには無反応なんですね。
殴られ、蹴られ、鎖で縛られても、「ぎゃぼー」とか「ぷぎゃー」とか奇声をあげるだけ。ぜんぜん嫌がっていない。
相手が(片想いの)恋人だから平気なの?
……じゃないんですね。ヴァイオリンの峰龍太郎やティンパニの奥山真澄からも、けっこうどつかれたりしている。
マジで見ると、腹が立つくらい酷いものです。
雑誌連載の漫画が原作だから、行き当たりばったりのストーリー展開は仕方ないのですが……ドラマ化にあたって脚本家は、当然再考しなければならないところでしょう?
このあたり、「所詮原作はギャグマンガだから」という軽いノリで、ドラマは逃げています。
原作にない独自の解釈を施すと、原作ファンは嫌がるし、それが成功した場合でも(ストーリーの核心部分ゆえ)原作とは異なる作品になってしまいますからね。
(例:相米慎二監督、丸山昇一脚色の『翔んだカップル』とか)
とはいえ、1巻から9巻までの原作コミックを全11回のシリーズにまとめた構成は見事でした。
第1回から峰龍太郎や奥山真澄、世界的に有名な指揮者のシュトレーゼマンが登場し、R☆Sオーケストラのコンミスになる三木清良までもが同じ音大に通っているという設定変更に、原作ファンは最初は戸惑っていたようですが。
龍太郎が追試の伴奏をのだめに頼むエピソードと、のだめに嫉妬する真澄ちゃんのエピソードを1本にまとめたり(第2回)とか、とてもうまい。
第4回は、コタツのエピソードから、プリごろ太、Sオケの初舞台成功まで、テンポよく並べて出色の出来です。
こういう一連の作業は、シナリオライター個人の独断でできるものではなく、プロデューサー、演出家と綿密なディスカッションを重ねたうえで決定されるものです。
特にこのドラマでは、音楽やCGが多用されていたので、かなり細かい打ち合わせがなされたと思いますね。
キャスティングも、(理事長役の秋吉久美子を除いて)良好。
『スウィングガールズ』があった上野樹里はいいとして、パッとした役に恵まれなかった玉木宏には、千秋真一役が(これまでの)代表作となることでしょう。
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